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【犬の悪徳ブリーダーはいなくなる?】日本のあるシステムで、明るい未来が

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
イメージ写真(写真:イメージマート)

動物愛護法が改正され、雌犬の繁殖が数値規制されました。繁殖犬が、子犬を産む機械のようにならないように、動物愛護の観点から、生涯出産回数は6回まで、交配時の年齢は6歳以下になりました(7歳に達した時点で生涯出産回数が6回未満で、交配時の年齢は7歳以下の場合は認められます)。

本当にこれが守られるのか疑問を持っている人もいるかもしれません。しかし、日本の犬の血統書の特殊なシステムから悪徳ブリーダーがいなくなる可能性が出てきたのです。そのシステムを見ていきましょう。

犬と猫の血統書の違い

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

(犬)

ペットショップやブリーダーでチワワやポメラニアンなどのいわゆる血統書付きの犬を購入すれば、一般的には数カ月後に、血統書が送られてきます。この犬の血統書は、日本では、ほぼ一般社団法人ジャパンケネルクラブ(Japan Kennel Club、略称してJKC)だけなのです。100%と言ってもいいほどです。

(猫)

その一方、猫の出生証明である血統書を発行している団体は主に以下のように4つあります。

TICA(The International Cat Association)

 猫の世界最大の血統登録機関の二つありそのひとつ

CFA(The Cat Fanciers' Association)

 猫の世界最大の血統登録機関の二つありそのひとつ

ICC(International Cat Club)

 猫の日本の血統登録機関

ACC(Asia Cat Club)

 猫の日本の血統登録機関

日本では上記の4つの団体から発行された血統書が主流ですが、この他にも小さな猫の血統団体からも血統書は発行されています。100個以上の団体から血統書を発行しているといわれています。

血統書ってなに?

撮影は筆者 愛犬の血統書
撮影は筆者 愛犬の血統書

「血統書」とは、「血統証明書」の略です。

血統書とは人間でいう戸籍謄本のようなものです。血統書には、その犬や猫の生年月日から両親の血統まで、さまざまな情報が記載されています。その犬や猫が純血種であることの証明です。

日本では人間の戸籍は国が管理しており、子供が誕生すると親が役所に出生届を提出しますが、犬の血統書は、ほぼJKCが管理していることになるのです。

一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)は、繁殖犬の数値規制をどうするの?

2022年6月より繁殖犬の数値規制が適用されるようになりました。そのため、犬の血統書をほぼ独占しているJKCの血統書の登録制度も改正しています。

JKCサイトによると、以下のようになっています。

1. 牝犬※の生涯出産回数・交配年齢に関する規制について

(1) 「令和3年環境省令第七号」により、牝犬の生涯出産回数は6回まで、交配時の年齢は6歳以下、ただし、7歳に達した時点で生涯出産回数が6回未満であることを証明できる場合は、交配時の年齢は7歳以下となりました。

この規制は、動物取扱業者(販売、貸出及び展示業者)が、販売、貸出し又は展示の用に供するために犬を繁殖させる場合を対象としています。

しかしながら、この規制の主旨は、みだりに繁殖させることによる母体への過度の負担を避けることを目的としたものであり、動物取扱業者以外の者であってもこの主旨を踏まえて対応する必要があります。

(2) 本会は、正しい犬の飼育の指導奨励と犬の啓蒙と、動物愛護精神の高揚を事業目的としていることから、2022年6月以降の交配分から、繁殖者が動物取扱業者であるかどうかにかかわりなく、全ての一胎子登録における母犬の条件は次の通りとなりました。

当該登録を含む出産回数が、6回以内であること。

交配時の年齢が、6歳以下であること。ただし、7歳に達した時点で生涯出産回数が6回未満である場合は、交配時の年齢は7歳以下とする。

(3)一胎子登録申請時に審査を実施し、⑵の①又は②の両方を満たしていない場合、当該申請を返却します。

※牝犬は、雌犬と同じ意味です。

つまりペットショップやブリーダーから子犬を購入して、血統書が付いている犬をなら、この繁殖犬の数値規制がほぼ守られているということです。

注意しないといけない点は、血統証明書の用紙が、改ざんされていることがあります。カラーコピーなどの印刷技術が発達したためです。

血統証明書の丸いロゴが金箔になっているかどうかで判断します。ペットショップやブリーダーなどで送られてきた犬の血統書が、偽造はどうかわからないときは、JKCに問い合わせると教えてくれます。

血統書の見方

JKCのサイトの「血統証明書の見かた」ページ  より
JKCのサイトの「血統証明書の見かた」ページ  より

さて、血統書を持っていて最初に目を通したけれど、どういう意味があるかわからないという飼い主さんは少なくないと思います。JKCのサイトに載っているので、病気に関係あるところを紹介しておきます。

上の写真の②のところのJKCの説明は以下です。

2) 本犬のデータ

犬種名、登録番号、性別、生年月日、毛色、DNA登録番号、ID番号、股関節評価、肘関節評価

登録番号は犬籍登録上の通し番号です。登録番号は、JKC(ジャパンケネルクラブのスタッドブックであることを示すイニシャル)+犬種記号(アルファベット)+5ケタの英数字+年号(下2ケタ)で構成されています。 見本の場合、2004年の88877番目に登録受付けされたウェルシュ・コーギー・ペンブロークであることを示しています。また、登録番号に「AA-12345/05-O」などのように、「-O」が付いている場合は、他団体(海外も含む)からの単犬登録であることを表します(OTHERのOです)。

登録番号の後ろにあるCDやGD、IGPは、各種の訓練試験に合格していることを示しています。

■※1 犬種記号について

ポメラニアンではPO、ビーグルではBEというように、すべての犬種に固有の記号がつけられています。

また、ダックスフンド及びプードルは、サイズ・バラエティーがあり、ひとつの犬種として犬種名の表記は同じですが、犬種記号でそれぞれ区別をつけています。

[例]

犬種名:ダックスフンド

DH→スタンダード・ダックスフンド

DHM→ミニチュア・ダックスフンド

DHK→カニーンヘン・ダックスフンド

犬種名:プードル

PS→スタンダード・プードル

PMD→ミディアム・プードル

PM→ミニチュア・プードル

PT→トイ・プードル

■※2 訓練試験の記載

CD:家庭犬訓練試験(Training Examination For Companion Dogs)

GD:警備犬訓練試験(Training Examination For Guard Dogs)

OB:オビディエンス訓練試験(Obedience Training Examination)

IGP:FCI国際作業犬試験(Internationale Gebrauchshunde Prüfungsordnung)

BH:同伴犬訓練試験(Begleithundprüfung)

■※3  DNA登録番号

JKCでは、血統証明書の信頼性向上のため、また、正確な血統登録のため、DNA登録を実施しています。

登録にあたっての検体採取は、専用の検体採取ブラシを使用し口腔粘膜を採取します。検体より解析され本会に登録されたDNAデータは、繁殖者の申請書に基づいた登録犬の個体識別を目的とし本会が管理します。

■※4  lD番号

マイクロチップまたはタトゥーによる個体識別番号。マイクロチップは、固有の識別番号が記録されているチップを頸部皮下に埋め込み、読取機器(リーダー)で番号を確認する方法です。タトゥーは、識別番号を耳または腹部に入れ墨する方法です。この個体識別登録を行い血統証明書に識別番号を記載することにより、血統証明書と登録犬の整合を確認することが可能となります。輸出血統証明書の発行に義務付けられており、その他の登録では所有者の任意による申請となっています。

■※5 股関節評価、肘関節評価

JKCでは犬の代表的な遺伝性疾患である股関節形成不全症(HD)並びに肘関節異形成症(ED)を減少させるため、所有者の希望により、特定非営利活動法人日本動物遺伝病ネットワーク(JAHD)と協力して、股関節評価、肘関節評価を血統証明書に記載し、繁殖の指針としています。

股関節形成不全症(HD)、肘関節異形成症(ED)を減少させるためには、関節炎の確率が非常に高いと評価された場合には、交配を控え、また反対に、関節に異常が見られないとの評価を受けた犬同士、疾患の発症のない犬同士、あるいは疾患の発症していない家系 (ライン)を選び繁殖していくことが、最も重要であるといえます。

繁殖者、所有者、譲渡年月日

本犬の繁殖者名、登録上の所有者名が記されています。新しい所有者が自分の名前に名義変更を済ませると、その譲渡日の日付が記されます。所有者欄があなたのお名前になっていない場合は、所属の愛犬クラブ経由で、正式な飼い主であることを登録(名義変更の届出)をしましょう。

まとめ

写真:アフロ

一部の悪徳ブリーダーは、繁殖犬の体がボロボロになるまで何度も出産させるところもあります。雌犬は、一般的に生後1年くらいから年に2回発情が来ます。そのたびに、出産させられて命を落としてしまう母犬もいるかもしれません。

そのようなことを防ぐために、法律による数値規制で、繁殖犬の待遇も改善されるよになりました。そして、日本の犬の血統書は、JKCがほぼ発行しているので、この特殊なシステムがこの場合は、よい方向に働くことを願います。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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