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鍵は高齢者対策か?気になる来年のアカデミー賞授賞式の開催形式

清藤秀人映画ライター/コメンテーター
(写真:ロイター/アフロ)

来年のオスカーナイトはオンラインかオフラインか?

 第93回アカデミー賞授賞式は来年の4月25日(現地時間)に開催されることになっているが、ここに来て改めて浮上しているのは、パンデミックの状況を考慮した上で、映画界最大のイベントがどの形式で行われるかだ。今週、業界紙”Variety”は、授賞式を主催する映画芸術アカデミー(AMPAS)の広報担当者と放送権を持つABC側の意見として、来春のオスカーナイトは例年通りライブ中継を目指していることを伝えた。すでに主催者側は会場になるドルビーシアター内でウォークスルー(リハーサル)を行なっていて、当日どんなプロトコル(手順を定めた規定)が採用されるべきかについて確認し合ったことも明らかにした。規定の中には勿論、3400席あるドルビーシアターに何人入れるかというソーシャル・ディスタンシングの問題も含まれている。

 このニュースを聞いて、全世界の映画ファンがとりあえず胸を撫で下ろしたのも束の間、直後、エンタメ情報誌”The Hollywood Reporter”が”Variety”の記事を否定した。同誌によると、AMPASもABCも対面式でのセレモニー実施を決定をしていないという。そもそも、AMPASとABCは独立した別組織なので、同時にそのようなコメントを発するはずはないというのだ。現況を考慮すると、今年9月20日に行われた第72回プライムタイム・エミー賞授賞式の放送形式が最も妥当ではないかというのが”The Hoolywood Reporter”の意見だ。エミー賞形式とはつまり、MCのジミー・キンメルやプレゼンターのジェニファー・アニストン等数人が、会場のステープルス・センターにソーシャル・ディスタンシングを守ってスタンバイし、各部門の候補者たちは自宅からリモート出演するという、基本的にはオンラインでの授賞式のことだ。結果的に、キンメルの背後に設置された巨大スクリーンに、思い思いの服装でカメラの前に座る大勢の候補者たちが映し出される光景は、コロナ禍に於けるアワードショーのニューノーマルを提示していて、それはそれで面白かった。

レッドカーペット・リポートがなくなる!?

 もし、”The Hollywood Reporter”のインサイダー情報が正しければ、来年のオスカーナイトから少なくともレッドカーペット・リポートが姿を消すことになる。これはファッション通にとっては悲報だが、授賞式に招待される俳優たちからすると、秘密裏にドレスやタキシードの発注に奔走する煩わしさから解放され、純粋に賞の行方を楽しめるというメリットもある。授賞式がオフラインかオンラインかは様々な方面に影響を及ぼすのだ。

 一方で、オスカーナイトの放送形式に付随する形で取り沙汰されている問題がある。新型コロナウイルスの年代別感染者数だ。今、第3波の只中にある日本でも、第1、第2波に比べて65歳以上の感染率が高いことが報告されている。もしも、アカデミー賞授賞式がライブで開催された場合、特に高齢の候補者たちをいかにして感染から守るかが課題だ。

S.ローレン、A.ホプキンスetc、高齢候補者たちの存在

圧巻のソフィア・ローレン『これからの人生』
圧巻のソフィア・ローレン『これからの人生』

 なぜかと言うと、今年のオスカーレースは例年以上に平均年齢が高くなる可能性があるからだ。これは今年のオスカーのトピックの一つでもある。女優賞部門で候補入りが予想されるメンバーを見てみよう。『これからの人生』(Netflixで独占配信中)でホロコーストのサバイバーを演じるソフィア・ローレン(86歳)が、もし主演女優賞で候補入りしたら、『愛、アムール』(12)でのエマニュエル・リヴァ(当時85歳)を抜いて歴代最高齢となり、さらに、もし受賞したら、『ドライビング Miss デイジー』(80歳)のジェシカ・タンディを抜いて歴代最高齢の受賞者になる。ローレンにはもう一つの記録がかかっている。彼女はかつて『ふたりの女』(62)で外国語映画初の主演女優賞受賞者となり、その後、『ああ結婚』(64)で同部門の候補に挙がっている。もし、『これからの人生』で候補になれば、ヘンリー・フォンダが『怒りの葡萄』(41)から次の候補作(受賞作)『黄昏』(82)までにかかった41年を大きく更新して、56年ぶりのオスカーレース復帰となるのだ。

 さらに、『Pieces of a Woman』(Netflixで配信予定)で出産の際に傷を負ったヒロインの母親を演じるエレン・バースティン(88歳。もし候補入りしたら助演賞部門で『ゲティ家の身代金』(17)のクリストファー・プラマー(88歳と41日)を57日も上回る)、『Minari』(来年公開)でアメリカに渡った韓国人一家のおばあちゃんを演じるユン・ヨジョン(73歳)、『ザ・プロム』(Netflix配給で12月4日より劇場公開、同11日より独占配信開始)で元人気舞台俳優を演じるメリル・ストリープ(71歳)等、助演女優賞部門にも圧倒的なキャリアを誇るベテランがエントリーする可能性がある。

 また、主演男優賞も似たような状況だ。『The Father』(公開未定)でアルツハイマーの症状と闘う父親を演じて、現在オスカーレースのトップを走るアンソニー・ホプキンス(83歳)がもし(確実だが)ノミネートされたら、『ストレイト・ストーリー』(99)のリチャード・ファンズワース(候補時に79歳)を超えるし、さらに、受賞したら前記『黄昏』のヘンリー・フォンダ(76歳)を抜いて、こちらも史上最高齢のウィナーとなる。

果たして、オスカーはどっちを選択するか?

 まさか、高齢の俳優が賞レースを牽引し、記録を破るかも知れないと言う実に喜ばしく、頼もしい事象が、パンデミックと紐付けされて語られることになるとは、何とも皮肉な話ではある。果たして、2021年のアカデミー賞授賞式はライブ中継で行われるのか、それとも、部分的にオンラインを併用したハイブリッド形式になるのか?因みに、オスカーの前哨戦に位置付けられている第78回ゴールデングローブ賞授賞式(2月28日)は、今年7月のリリースでビバリーヒルトンを会場に、MCをティナ・フェイとエイミー・ポーラーに託し、例年通り開催すると発表したが、その後、セレモニーを主催するハリウッド外国人記者協会はコメントを拒否。また、映画俳優組合(SAG)の授賞式(3月14日)は例年ならシュライン・オーディトリアムを会場に行われているが、来年はバーチャルショーの可能性を否定していない。

Netflix映画『これからの人生』独占配信中

映画ライター/コメンテーター

アパレル業界から映画ライターに転身。1987年、オードリー・ヘプバーンにインタビューする機会に恵まれる。著書に「オードリーに学ぶおしゃれ練習帳」(近代映画社・刊)ほか。また、監修として「オードリー・ヘプバーンという生き方」「オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120」(共に宝島社・刊)。映画.com、文春オンライン、CINEMORE、MOVIE WALKER PRESS、劇場用パンフレット等にレビューを執筆、Safari オンラインにファッション・コラムを執筆。

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