信頼と協力、フィンランドが世界に示す医療データ管理のモデル
フィンランドは、欧州基準をも上回る医療・健康データの管理において先駆者である。国全体がデータの質と利用の向上に努め、それによって医療サービス全般の改善を目指している。
Findataの役割と活動
特に注目すべきは、Findata(フィンデータ)という機関だ。
この組織は、医療・社会データの二次利用を許可し、データが安全に結合され公開される過程を監督する。フィンランド国民全員のデータを網羅し、長期間にわたるデータを保持しているため、大規模な時系列分析が可能である。
この過程で、市民のプライバシーは厳重に守られ、公表される情報は匿名性が保証されている。
データの広範な利用
データは主に研究目的で利用され、市民一人一人の同意なしにも、重要な科学研究に貢献している。市民が望めば、自らのデータの修正や利用制限を申し出ることも可能だ。
効率化に貢献するデータ許可機関
データ許可機関の存在は、手間のかかる作業を減らし、より生産的な働き方を促進している。データの活用が迅速化され、重複する作業の削減にもつながっている。このシステムにより、91%のデータが科学研究に利用され、公的部門と民間部門からの利用申請が活発に行われている。
国際的に注目されるモデル
フィンランドのデータ管理モデルは、国際的にも高い評価を受けており、欧州保健データ空間(EHDS)の提案にも影響を与えている。
Findataのディレクター、ヨハンナ・セッパネンさんは言う。
「二次使用はフィンランドでは目新しいものではなく、長いルーツと伝統があります。フィンランド市民は、データを安全に提供され、それを管理する政府当局を信頼しています。人々は、自分の個人的な健康データを共有すれば、医療費が改善されるだけでなく、医療システム全体が改善され、恩恵を受けることができると信頼しています」と。
国境を超えて協力しなければ、データ革命は起きない
セッパネンさんは、パンデミックのような次の危機を乗り越えるためにも、国境を超えたデータ共有とルール作りは必須だと考えている。
「国境を越えたデータ交換を保証できるよう、データ・セキュリティに関する共有レベルの基準が必要です。すべての国が同じ基準に従えば、国境を越えたデータ共有が可能になります。誰もが何が起こっているのかを理解できるように、自分たちのルールと規則を作ることです」
北欧諸国はもともと人口が少ない小規模な国なので、自分たちだけで問題解決しようとせずに、外部と連携・協力・協働しながら物事を進める伝統がある。まさにこの「コーポレーション」スキルが今、データ革命を目指す全ての国に必要とされている。
「協力は不可欠であり、協力をいくら強調しても強調しすぎることはありません。協力、協力、協力です」
執筆後記 ~キーワードは「信頼」~
セッパネンさんは、市民の信頼を当たり前と捉えるのは注意が必要だとも付け加えた。「ですから、常にデータのセキュリティと安全性を最優先し、透明性のあるコミュニケーションが必要です」と。
フィンランドでのデータ革命は、ただ進行しているわけではない。「古いやり方で物事を進めてきた人たちから、変化に対する抵抗は起こる」とセッパネンさんが言うように、時折抵抗に遭遇している。
抵抗の波と共に新しい波を起こそうとするフィンランドのマインドセットは「子どもであり続けること」だ。セッパネンさんは、子どものようなチャレンジ精神で新しいことに挑み、泳ぎ続ける必要があると話した。
フィンランドでは、民主主義が成熟し、政治家と市民の距離感が近い伝統を保ってきたからこ、信頼を維持する鍵となっている。フィンランドのモデルはそのままアジアでは通用しないだろう。なぜなら、「信頼」という大事な核が、政治家と市民の間で根を張っていないからだ。
データの透明な取り扱い、市民の信頼を最優先に考えること、他者(他社)とも協力・連携するカルチャーは、持続可能な医療データ管理システムを築く上で不可欠である。日本のDX推進において、「信頼」の問いは置き忘れられていないだろうか?信頼できる民主主義づくりは、市民ひとりひとりの行動にもかかっている。