Yahoo!ニュース

「私は今後も香港反対派と交流する」――米国現地トップの“意地”のメッセージ

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
米国のスミス駐香港総領事=総領事館ウェブサイトより筆者キャプチャー

 香港で国家安全維持法(国安法)が施行され、言論統制が厳しくなるなか、米国のスミス駐香港総領事が「私は引き続き、反対派の政治家たちと交流する」と宣言している。中国と対峙する姿勢を鮮明にした形で、中国や香港当局が現地の米国トップの発言をどう扱うか注目されている。

◇「ぞっとする法律」

 スミス総領事は、国安法に習近平中国国家主席が署名して公布(6月30日)された2日後の7月2日、香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)のインタビューに答えた。

 国安法は「外国勢力と結託して国家の安全に危害を与える罪には懲役3年以上10年以下とし、罪状が重大なら終身刑か懲役10年以上」と強調したうえ「外国の機構、組織、人員も処罰する」と、外国人や外国組織に圧力をかけている。

 スミス氏は「国安法が、香港での外国の口出しを非合法化しようとしているが、米国の総領事館は引き続き、反対派の政治家と交流する」と強気の姿勢を見せている。

 同法は香港の永住権を持たない者も処罰の対象とすると記している。スミス氏は「治外法権を盛り込んだこの法は、ぞっとするものだ」と嫌悪感を示し、「香港の高度な自治を根本的に侵す悪法だ」と強く非難している。

 そのうえで「核心は、国安法の有無ではなく、それがいかにして作られ、それが香港の人々の意志を反映しているのかという点だ」と訴え、「これは中国政府によって不透明な方法で導入されたものだ」と批判した。

 米国の香港総領事館のウェブサイトによると、スミス氏は欧州やアジア諸国の米大使館で勤務したあと、米国務省での要職、上海総領事などを歴任して、2019年7月、カート・トン氏の後任として香港総領事に着任した。

 米ジョージタウン大学で学士号、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)と米プリンストン大学、仏パリ政治学院で修士号をそれぞれ取得。中国語やフランス語、デンマーク語、クメール語に通じているという。

 上海総領事を務めていた2016年5月、同性のパートナーの台湾出身男性と結婚している。

◇言論の統制が進む香港

 国安法施行後最初の週末となった7月4、5両日、香港で抗議デモは起きなかったもようだ。警察による監視が強まり、市民らは委縮したようだ。現地情報によると、米国の独立記念日(7月4日)を祝う名目で、4日に米総領事館前に集まるようSNS上で呼びかけられていたが、行動を起こした市民は数人にとどまったという。

 香港では、言論の自由に対する統制が急速に進む。

 公立図書館で、民主化運動「雨傘運動」(2014年)のリーダーだった黄之鋒氏や立法会(議会)議員の陳淑荘氏ら民主活動家の著作物の閲覧や貸し出しが停止され、本棚から撤去された。

 また、4日付のSCMPによると、警察は、国安法違反の疑いで1日に逮捕した10人に対し、DNAサンプルを採取したという。中国当局は、新疆ウイグル自治区で住民のDNAサンプルなどを採取して管理を強化しているとされ、同様の措置が香港でも取られるのではないかと懸念が広がっている。

 取り締まりの態勢も整えられる。

 中国国営新華社通信によると、中国政府は3日、国安法に基づいて香港に新設した出先の治安維持機関「国家安全維持公署」の署長に、広東省共産党委員会秘書長の鄭雁雄氏を任命した。

 同署は、国家安全に関わる情報を収集・分析し、それを脅かす犯罪事件の処理などを扱う。「香港にある外国の非政府組織、メディア機関の管理を強化する」とも規定されている。

 鄭氏は、香港に隣接する広東省の党委員会で頭角を現し、2011~13年に同省汕尾市でトップを務めた。同市内の烏坎村で2011年、当局の汚職に対する村人らの激しい抗議行動が起きた際、警官隊の動員を容認して鎮圧。強硬派として名前が知られるようになった。

 中国政府はまた、同署と連携する香港側の新組織「国家安全維持委員会」も3日に設置。担当顧問に、中国政府の香港出先機関である香港連絡弁公室の駱恵寧主任を任命した。同委員会は、香港の林鄭月娥行政長官が委員長を務め、担当顧問が関与する形をとる。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

西岡省二の最近の記事