スキャンダル報道の吉川議員が『週刊ポスト』を訴えるとブログで反論した内容の気になるポイント
吉川議員が突如、ブログで反論
吉川赳(たける)衆院議員について『週刊ポスト』が18歳の女性大生に酒を飲ませホテルに連れ込んだというスキャンダルを暴露し、議員は自民党を離党、さらに議員辞職を迫られながら姿をくらましていた事件。これについては、以前、下記の記事に書いた。
https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220630-00303294
『週刊ポスト』が暴いたスキャンダルに雲隠れを続ける吉川赳議員の四面楚歌
その吉川議員が、参院選後の7月15日、突如、自身のブログでスキャンダルについて説明を行い、波紋を広げている。相手の女性が18歳であることを知ったうえで酒を飲ませたと『週刊ポスト』が報じたのに対して、それを自分は知らなかったと主張し、しかもいまだに女性が未成年だったことに疑いを抱いており、『週刊ポスト』にその証明を求めている。さらに、それを立証させるためにということもあって同誌を提訴すると語っている。吉川議員のブログは下記だ。
https://ameblo.jp/yoshikawatakeru/
それを主張するならもっと早くすべきだったし、なぜこれまで身を隠していたのかと、反発の声が噴出している。同氏が国会議員であることを考えればそういう批判は当然だろう。
ましてや告発したメディアを提訴するなど本末転倒という声も聞こえてきそうだが、その吉川議員の長文の反論で興味深い点も幾つかあったので、ここで紹介して論評しよう。新たな事実を示したのは例えば、週刊誌に隠し撮りされた問題の夜、5月27日の経過を詳細に明らかにした部分だ。
もともと、この一件を暴いた『週刊ポスト』6月24日号の記事を最初に読んだ時に、この報道には裏側の事情があるなという印象を抱いた。最初に吉川議員が女子大生と食事した高級焼き肉店での会話の描写やホテルでの隠し撮りがあまりに見事で、事前にかなり確かな情報を得ていないとできないことは明らかだったからだ。その情報は、恐らく女子大生当人が提供しているのだろうことも推測できた。
女子大生との関わりについて詳細な経緯を
その5月27日をめぐる経緯について、今回、吉川議員はこう書いている。
《対象の女性と出会ったのは、5月25日(水)の午後9時頃、神田にある飲酒を伴う女性による接客がなされるいわゆるクラブ(複数店舗を経営するチェーン店の一舗)を初めて訪問した際であります。当該女性は、同店舗にて接客を担当する従業員として働いておられ、私の席について、飲酒をされておりました。それゆえ、私は、飲酒不能な年齢である可能性など微塵も疑いうこともなくおりました。
その際に、当該女性から、営業成績を上げるため月内にいわゆる「同伴」に付き合ってほしいと乞われたことから、翌26日(木)に交換したラインのやりとりで、「同伴」のお誘いをし、27日(金)の午後6時30分に汐留にあります焼肉屋の個室にて待ち合わせをし、晩餐後に「同伴」をすることを約しました。》
何と女子大生と最初に会ったのは5月25日だったという。そこから27日まで2日しかない。週刊誌の記事を読むと議員が以前から女子大生と「パパ活」をしていたかのような印象を受けるのだが、本人の弁によると、25日に初めて会って27日の夜、そして週刊誌のすっぱ抜きと、短期間の間に起きた事件だったというわけだ。
問題の27日については、議員本人はこう書いている。再びブログから引用しよう。
《27日(金)に当該焼肉屋の個室にて、飲み物を頼む際に、「お酒飲める?何がいい?」と確認し、女性の意向に従い「ディタオレンジ」というお酒を注文いたしました。その後の会話において、女性から「大学一年生」「18歳です」という旨の発言がありましたが、酒席で働く女性が身元を知られたくない等の理由から、年齢や所属先、出身地などについて正確なことを述べないことは良くある話でありますから、私としては、真に受けることもせず、「なるほど、大学一年生という設定なのね」と受けとめ、軽い乗りで会話を合わせていたというのが実情でありました。
つまり、女性は、お酒を提供するチェーン店のクラブ従業員として働いていた方で、私の席についた際に飲酒をされていましたし、その後の同伴に際しての晩餐においても、飲み物を注文する際に、私が「お酒をのめるの?」と確認したところ、ご本人がお酒を要望されたため、私は、飲酒可能な年齢であることについて疑問を抱かずにいたのです。
それゆえ、確かに、その後の会話において、女性から「大学一年生」や「18歳」という発言はありましたが、「そういう設定で働いているのだな」と理解し、飲酒を制止もせずにいたわけです。もし、実際に「大学一年生」の方であったならば、無論飲酒を制止すべきでありましょうが、しかし、以上のような経緯の下、飲酒可能な年齢であると思い込んでいたのが実情でありました。》
女子大生が未成年ではないと思った理由をあれこれ書いているのだが、今回、吉川議員が『週刊ポスト』提訴を考えた理由は、全体として、自分ははめられたのではないかという思いを抱いているかららしい。同誌の取材方法に疑問を呈し、マッチポンプだとまで言っているのだ。引用を続けよう。
『週刊ポスト』をマッチポンプと非難
《私が問題提起をさせていただきたいのは、週刊ポストの取材方法です。
なぜなら、本件記事が、焼肉屋における会話内容にかかる録音を元に作成されたものであることは一目瞭然であり、その後に私に取材をされた記者の方も録音が存在する旨言及されていましたが、当該録音は、女性自らが実行した以外の可能性はなく、かつ、女性は、録音後すみやかに、当該録音内容を週刊ポストに提供したものと思われます。
焼肉屋において、私と女性とは個室で夕食をとりましたが、当該店舗は、テーブル席の並ぶ解放された平場スペースと、個室スペースとが、大きく区分されております。個室スペースは、廊下に面して合計4室並んでおり、中2室は6名用で、廊下と格子壁にて接しており、外からも内部を見通すことができ、会話も筒抜けのしつらえの半個室となっていますが、両端の2室は、2名用及び4名用で、いずれも音漏れしないような堅い木製の扉で遮蔽され、音漏れしようのないしつらえの完全なる個室でした。
私は、2名で完全個室を予約し、実際に、並びの端であり、また建物の角部(壁の2面が外窓となります)に位置する2名用の完全個室に通されました。個室のドアは狭い通路に面する分厚い板状の扉であり、週刊ポストの記者が張り付いて個室内の会話を録音しようと思うならば、廊下の扉の隙間に張り付いていなければならず、店舗従業員に怪しまれて即座に制止されること必定となる構造です。
にも拘わらず、週刊ポストの記事は、個室の扉が「格子戸」であったと記述し、あたかも格子戸越しに会話が漏れ聞こえたかの如く装っていますが、これは明らかな虚偽です。個室内では、店員が食事や飲料を運ぶとき以外には、ドアを閉め切っておりましたので、私のいた個室内での会話を録音することができるのは、同席していた女性以外にはあり得ない構造となっておりました。
すなわち、この女性は、週刊ポストとの間で予め打合せして録音の準備をした上で焼肉屋に赴き、録音を実行し、その内容を週刊ポストに提供したものとしか考えようがないのです。》
週刊誌に情報提供を行う側の心理
高級焼き肉店での会話については『週刊ポスト』記者が張り込んで聞いていたのでなく、女子大生が隠し録音をして同誌に提供したという主張だ。なるほどそうであればいろいろなことがわかりやすいのだが、つまりこれは記事から受けた印象よりはるかにこの女性本人がこのスキャンダル記事に深い関わりをしていたということだ。
議員は続けてお台場のホテルでの隠し撮りについてもこう書いている。
《のみならず、タクシーを飛ばして向かったお台場においてすら、私の立ち回り先に張り込んで、私と女性との写真を撮影したということは、女性から行き先についての連絡を予め受けていなければ実現し得ないことであり、その点においても、週刊ポストと女性との予めの打合せがなされていたことが容易に推認されます。
つまり、週刊ポストは、女性に、私との会話内容において何らかの「私の落ち度」を録音することを目的として録音及び録音内容の提供を打ち合わせた上で、仮に女性が真実18歳であるとするならば、18歳が飲酒するという成り行きをもくろみ通り惹起せしめ、18歳との飲酒を非難する記事を作成したわけです。》
経緯をそう書いたうえで、吉川議員はこう結論づけるのだ。
《このような手法は、要するに、「非難対象となる事象が発生するべく自ら加担し、以て独占的にその証拠を入手し得る立場を確保した上で、もくろみ通り発生した当該事象を使って、当該事象を非難する取材手法」であり、いわばマッチポンプというべきやり口であります。まして、仮にその女性が18歳の大学1年生というのであるならば、そのような女性を、いわば記事を作成するための道具として使用したという点においても、相当性を欠くものといえましょう。
私は、このような手法で記事を作り上げるやり方は、もはや健全なジャーナリズムの報道取材としてあるべき域を超えた、社会通念上許容し得ないものと判断し、その当否を世に問うべく、不法行為に基づく損害賠償を求めて訴訟を提起する所存です。》
『週刊ポスト』の写真に顔を伏せるようにして写っていたのはまだあどけなさの残るおさげ髪の少女で、国会議員が何ということをしているのかと怒りを買うのは当然なのだが、吉川議員としては、スキャンダル全体がマッチポンプによるものだったというわけだ。
本当に提訴するならあとは法廷でやりとりするしかないし、問題は当の女性がどんな説明を行うかだ。ただここで指摘しておきたいのは、吉川議員がマッチポンプであたかも犯罪であるかのように書いている取材方法は、実は紙一重で週刊誌の不倫報道などでよく行われているものと大きな差はないということだ。
ここでのポイントは、当事者が週刊誌に情報を提供しているということだ。掲載された記事では取材源を秘匿するために書き方の工夫がなされ、週刊誌記者の直撃に渋々応じたといったふうにされるのだが、多くの場合、例えば不倫であれば、それを知って辛い思いをした当事者が情報を持ち込む、あるいは要求に応じて提供している場合が少なくない。当事者しか持っているはずのないLINEのやりとりまでもが写真で掲載されていたら、それはほとんど当事者のどちらかが提供してということになる。
当然ながら情報提供するのは、夫の不倫を知って憤り、週刊誌を使って夫に社会的制裁を課したいと考えた妻、あるいは不倫相手の男性が「やはり妻のもとに戻る」とそれまでの関係を一方的に清算しようとすることに憤った女性とか、そういう当事者であることが少なくない。
吉川議員は自身のケースを「あるべき域を超えた社会通念上許容し得ないもの」と、女子大生と『週刊ポスト』の報道を非難しているのだが、実はそのあたりの線引きは簡単ではない。週刊誌を使ったスキャンダルには、それなりの意図が背景にあることは珍しくないのだ。
そしてこの間感じるのは、いわゆる#MeTooのうねりによって女性が情報提供などの行動に踏み切る敷居が明らかに低くなっていることだ。これは善悪というより、時代の流れというべきものだ。
今回の一件がもし法廷で争われるなら、そのおさげ髪の女子大生の証言をぜひ聞きたいと思う。
『週刊ポスト』がその翌日に反論
さて吉川議員の15日のブログ記事に対して『週刊ポスト』は16日、ウェブサイト「ニュースポストセブン」で早速反論を行った。下記だ。
https://www.news-postseven.com/archives/20220716_1774521.html?DETAIL
「ホテルで1時間半」18歳女子大生と飲酒の吉川赳議員 5200文字反論でも触れなかった「チェックイン」と「胸を見せて」
恐らくこれが翌週発売の『週刊ポスト』に掲載されるのだろう。週刊誌の取材・報道のあり方についての議論は無駄なことではないし、情報提供した女性の思いも聞いてみたい気はするが、吉川議員としては詳しい経緯を明らかにすることによって、実は自分は半ばはめられたのだと主張したいということなのだろう。
ただ国会議員という公人としての責任や、この間説明責任を果たさず逃げ隠れしていたことについては、やはり今後も問われることになると思う。
吉川議員と『週刊ポスト』の応酬が、意味ある議論になっていってほしいと思う。