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「シャチ」の新種発見か? 南米ホーン岬沖で

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:Shutterstock/アフロ)

 南米のチリ南端、ホーン岬沖で新種とみられるシャチが観察された。現在、詳細な遺伝子解析を行っているところだが、明らかにニュータイプの個体群である可能性が高いという。

タイプDと呼ばれるシャチ

 南極海の周辺にまだ知られていないシャチの新種がいるのではないかというのは、かなり前から目撃例や座礁例などにより話題になってきた。

 1955年にニュージーランドの海岸へ座礁した大量のシャチが従来知られていた個体と異なっていたという写真の記録がある。また、米国NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration、国立海洋大気庁)などの研究グループが2004年に南氷洋を調査したところ、6回の視認観察ができ、それらを「タイプD」と名付け、新種のシャチの可能性を示唆した論文を2011年に発表した(※1)。

 この論文によれば、通常のシャチの目の後ろにある白いスポット柄が小さいのが特徴だ。また、背びれの後部にあるサドル・パッチ(Saddle Patch)というグレー柄が目立たず、音波を発信して周囲の状況を知るためのエコーロケーション(Echolocation)をする前頭部が短くゴンドウ類のように丸く出っ張っている。

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タイプDと考えられていたシャチの写真。a:1955年5月にニュージーランドの海岸に座礁した群。b〜h:南極海各海域で写真撮影されたタイプDとおぼしきシャチの写真。Via:Robert L. Pitman, et al., "Observations of a distinctive morphotype of killer whale (Orcinus orca), type D, from subantarctic waters." Polar Biology, 2011

 棲息海域は、南緯40〜60度で南極を囲むように20頭前後の集団で移動しているらしい。獲物にしているのは、主に南極海にいるアイナメなどの魚類と考えられる。

ラッキーな遭遇

 ただ、それだけでは、まだタイプDを新種と断定することはできない。NOAAのウェブサイトでの発表(※2)によると、チリの南端、ホーン岬沖でオーストラリアなどの研究グループが探索を開始し、2019年1月に暴風雨を避けて洋上で待機していたところ、30頭ほどのタイプDの群に遭遇したという。

 まず、生物音響学の研究者が水中マイクを海中へ降ろすと、好奇心旺盛なシャチたちがマイクに近づいてきた。彼らのコミュニケーションをマイクで収集し、水中カメラでタイプD群の行動を観察したところ、それは2011年に発表された論文の通り、小さなスポット柄と丸みを帯びて前方へ出っ張ったタイプDの特徴を捉えていたという。

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SWFSC-NOAA Fisheriesのプレスリリースに掲載された従来のシャチとタイプD(下)を比べたイラスト。目の後ろの白い柄が小さく、おでこが出っ張っている様子がよくわかる。Illustrations by Uko Gorter(著者の許諾済み)

 研究グループがタイプDの集団に接触した後、3時間、観察し続けた。皮膚の生体サンプルを採取するには十分な時間だ。それを持ち帰った研究グループは現在、遺伝子の分析を進めているところだ。

※1:Robert L. Pitman, et al., "Observations of a distinctive morphotype of killer whale (Orcinus orca), type D, from subantarctic waters." Polar Biology, Vol.34, Issue2, 303-306, 2011

※2:NOAA, "Scientists Find Mystery Killer Whales off Cape Horn, Chile.", 7, March, 2019(2019/03/11アクセス)

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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