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終わらぬロシア疑惑 「司法長官は何かを隠している」とウォーターゲート事件隠蔽の首謀者 

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
世論調査では81%の米国民が、ムラー報告書の全公開を求めている。(写真:ロイター/アフロ)

 3月24日、保守派のフォックスニュースのキャスターはそれ見たことかと言わんばかりに、25日発売のニューヨーク・タイムズの第一面を掲げた。それには、

「ムラー、トランプとロシアの共謀を見つけず」

という見出しとともに、ムラー報告書の要約が掲載されている。ウィリアム・バー米司法長官がムラー特別検察官から提出された報告書を4ページに要約したものだ。

 22ヶ月に及んだ「ロシア疑惑」の捜査は終了し、トランプ氏は勝利宣言をした。

 確かに、「ロシアとの共謀がなかった」ということは証明されたかもしれない。トランプ氏を批判してきたリベラルなCNNも「共謀がなかったことはトランプ氏にとっても、アメリカにとっても良いことだ」と認めている。

醜い報告書をきれいに覆い隠した

 しかし、トランプ氏が司法妨害をしたかについては、まだ解決されていないという声が多い。バー司法長官が要約に引用したムラー氏の報告書の一文は、捜査を妨害することを目的とした司法妨害について、

「大統領の犯罪行為を認定しない一方で、潔白を証明するものでもない」

と曖昧な表現をしているからだ。

 一方、バー司法長官の方は要約の中で「大統領を告訴するには証拠不十分だ」という結論に達している。

 ムラー氏の報告とバー司法長官の結論には微妙な温度差があるのだ。

 この結論の温度差に関して、元ニクソン大統領顧問のジョン・ディーン氏がした解釈が興味深い。ディーン氏は、FBIに、“ウォーターゲート事件隠蔽の首謀者”と呼ばれていた人物だ。最終的に、同氏はニクソン元大統領と敵対し、捜査に協力。同氏の証言が、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ。そのディーン氏が、3月24日夜(米国時間)、CNN Tonightでこう指摘した。

「バー氏はとても醜いものに口紅を塗ったんです」

 つまり、バー氏は醜い報告書の内容をきれいに覆い隠したというのだ。そして、バー氏が隠した理由は、ムラー報告書がバー氏の考えとは異なるものだったからだと推測する。

「我々は、元の報告書を見ていないが、バー氏があんな結論を出したのは、元の報告書があまり魅力的なものではないからだと思う。私は、ムラー報告書は、バー氏がした要約とは大きく異なっているのではないかと疑っています。ムラー氏はあの結論(潔白を証明するものでもない)で(我々に)警告しているのです。ムラー氏が司法妨害という問題から逃げるような書き方をしたのは、現職大統領の司法妨害について、司法省と根本的な意見の相違があったからでしょう」

 ディーン氏はまたこうツイートもしている。

「2018年6月にバー氏はムラー氏が司法妨害の調査をしていることを批判するメモを書いたが、それと今回のムラー報告書の要約を再読すると、(ウォーターゲート事件の時に)バー氏が司法長官を務めていたとしたら、ニクソン大統領は辞任に追い込まれなかっただろう。バー氏はトランプ大統領に法を適用したくないのだ」

バー氏の要約には興味なし

 ムラー報告書とバー司法長官が書いた要約には大きな違いがあるのではないか。ディーン氏に限らず、22ヶ月間、「ロシア疑惑」に振り回された挙句、たった4ページの要約ではぐらかされた米国民はそう感じている。

 ツイッターでは、#ReleaseTheFullMuellerReport というハッシュタグで、ムラー報告書の全公開を求める投稿が増え続けている。

「我々は、バーの要約には興味がない」

「バーの要約は隠蔽しているように見える」

「我々はバーの要約に税金を払ったわけじゃないよ。ムラー報告書に税金を払ったんだ」

「共和党支持者であっても、民主党支持者であっても、民主制度を愛しているなら、ムラー報告書の全公開を求めるべきだ。でなきゃ、アメリカ人じゃないよ」

 米国民は民主制度の下、「知る権利」と「透明性」を主張しているのだ。「ロシア疑惑」は米国民にとってはまだ終わっていないのである。

 また、メディアからは様々な疑問の声が上がっている。

 ムラー氏はトランプ氏とは手紙でQ&Aをやりとりしただけで、十分な尋問をしていないではないか。トランプ氏の多くの側近が嘘をつき、刑務所に入ったのはミステリーだ。ムラー氏は、どのようにして、司法妨害について「潔白を証明するものではない」という結論に至ったのか?トランプ氏は、犯罪とは認定されないが、潔白とも証明できないような犯罪スレスレのことをしたのではないか?

 ムラー報告書はそんな疑問に答えてくれる可能性もある。

81%の米国民が全公開を求める

 報告書を公開するかどうか決め手になるのは公開することが公益になるかどうかだ。しかし、バー司法長官は2月、「通常、司法省は、検察官が起訴しないと決めた人々にとって好ましくない情報は出さない」と言及していた。そうだとすれば、検察が起訴しなかったトランプ氏にとって好ましくない情報は出されない可能性もある。

 また、本日3月25日(米国時間)は、上院共和党院内総務のミッチ・マコーネル氏が、バー司法長官にムラー報告書の全公開を求める民主党上院議員の動きを阻止したことがニュースになっている。報告書の全公開を求めるのは時期尚早で、バー司法長官はムラー氏と報告書の内容をどの程度公開するか協議中というのが阻止の理由だ。となると、報告書は全公開にはならず、トランプ氏にとって好ましくない情報は出されない可能性が高い。

調査した米国民の81%がムラー報告書の全公開に賛成している。グラフはWashington Postより抜粋。
調査した米国民の81%がムラー報告書の全公開に賛成している。グラフはWashington Postより抜粋。

 上記のグラフを見てほしい。2月にワシントンポストが行った世論調査によると、調査した米国民の81%がムラー報告書は全公開されるべきだと考えている。米国民にとって、公開が大きな公益であることは間違いない。

 米司法省が一刻も早く、ムラー報告書を全公開することを願うばかりだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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