【熊本地震】地元アーティストたちは活動の場を失った 「ゼロになったからこそ新しいものを生み出せる」
熊本地震で一時活動の場を失った地元アーティストらが、今月19、20日、熊本市内の取り壊し予定のビルで、アートイベントを開催する。作品の展示やパフォーマンス、ワークショップなどを通し、「地震で感じたこと」を表現。イベントの実行委員長で熊本市在住の画家、原口祭源(さいげん)さん(本名・正治、26歳)は、「熊本のアート界を盛り上げるきっかけにしたい」と決意を語る。原口さんに、イベント開催の経緯や、熊本のアーティストたちの活動について聞いた。
避難生活で作品制作どころではなくなった
原口さんによると、熊本地震前、地元アーティストらは、個展の開催や企画展への出品といった活動を行なっていた。しかし、地震で状況は一変。アーティスト自身が避難生活を強いられた。作品制作どころではなかった。
数カ月が経過し、ようやく生活がある程度落ち着いた。しかし、アーティスト活動を再開しようとするも、かつて借りていたギャラリーが、地震の影響で使用できなくなっているケースが続出した。困り果てていた時、知人のギャラリーオーナーから声がかかった。「中心市街地のビルが取り壊される。そこで企画展をやらないか」。昨年8〜10月、企画展「躯体(くたい)から観(み)える記憶」が開催された。
「活動の場がないなら、自分たちで作ればいい」
同展では、絵画や写真作品の展示のほか、被災したレコード店やアクセサリー作家らの販売スペースも設置。中心商店街のアーケードに面していたこともあり、これまでアートに触れたことのない層も、興味を持って立ち寄ってくれた。週末にはライブペイントなども企画し、会期を通して盛り上がった。「やはりアートには人々を元気づける力がある」。手応えを感じた。しかし、同展終了後、ビルは予定通り取り壊され、更地となった。アーティストらは、再び活動の場を失った。
しかし、原口さんにとっては、この企画展は大きなヒントとなった。「活動の場がないなら、自分たちで作ればいい」。活動の場探しが始まった。そんな中、熊本地震の報道量が激減していることに気づいた。「まだまだ復興は進んでいない。県外の人に熊本の現状を伝えなければ」。似顔絵で旅費を稼ぎながら、50ccの原動機付き自転車で関東まで往復する旅に、活動の場を求めた。
昨年11月20日に熊本を出発。行く先々で言われたのが「熊本ってもう大丈夫なんでしょ」。確かに、「見た目」の復興は進みつつある。しかし、解体すら終わっていない建物が目立つ地域もまだ存在し、多くの被災者が仮設住宅で暮らしている。「熊本地震の風化は深刻だ」と感じた原口さんは、その度に丁寧に説明。「まだそんな状況なのか」と驚きの声が多く聞かれた。
「ゼロになったからこそ新しいものを生み出せるはず」
52日間で、熊本〜埼玉間を往復し、描いた似顔絵は約70枚にのぼった。旅から戻るとすぐに、アーティスト仲間らに旅の経験を伝えた。「アーティストは活動してこそ地域に価値を生み出せる。場所がないなら自分たちで作り出そう」。賛同した仲間らと共に、次のイベント会場を探し始めた。
会場探しは難航。幾度もの開催予定会場の変更を経て、ようやく決まった。条件を絞って探していたわけではないが、今回も取り壊し予定のビル。タイトルは自然と「破壊からの創造」に決まった。原口さんは「地震で『破壊』された熊本だが、ゼロになったからこそ新しいものを生み出せるはず」と力を込める。
地震後、原口さんは画風の幅が広がった。地震前は荒々しいタッチが持ち味だった。しかし、現在は、水彩鉛筆などを用いた、温もりのある絵も描くようになった。理由を尋ねると、「アートの力で熊本を明るくしたいから」と、はにかむ。「地震を経験し、熊本のアーティストは良い意味で『貪欲さ』が増した。今後も活動の場を仲間たちと『貪欲に』作り出していく」。 今後の展開からも目が離せない。
今月19、20日に開かれるイベントは、被災したアーティストらの作品を展示。会場建物を絵の具で彩るワークショップや、アーティストによるパフォーマンス、地元アーティストが手がけた復興支援グッズの販売も行う。詳細は、Facebookのイベントページ。