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「危険ドラッグ」 イタチごっこはなぜ起こる? #専門家のまとめ

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
写真はイメージ(写真:アフロ)

大麻規制の根拠は、そこに含まれる精神活性物質であるΔ9-THC(デルタ9-テトラヒドロカンナビノール)である。これに水素原子を追加して人工的に作られた半合成の薬物がHHCだ。THCと同様に、精神活性作用があり、多幸感や陶酔感をもたらす。

この新しい「危険ドラッグ」流行の背景には、植物由来の原料による様々な薬物の合成製造のノウハウの広がりがある。ネット上には専門家の論文はもちろんのこと、動画などが、一次原料からの基礎的物質の抽出、それを最終的に精神活性製品に変換する方法などについて、ステップ・バイ・ステップで分りやすく解説している。

つまり、大麻やコカなどの規制植物の場合は、広大な土地と栽培の技術、そして何よりも天候が重要であるが、合成薬物の場合は地下の実験室とネットがあれば開発可能なのである。これが規制と新たな薬物の出現というイタチごっこの原因であり、厳罰主義を貫く限りこれは今後も続く。

▼HHC約1キロが入った小包郵便物をアメリカから発送させ、密輸した疑い

▼じわじわと広がる「危険ドラッグ」

▼「正しく怖がる」こと

▼イタチごっこは続く

上記のように、HHCは大麻に含まれる△9-THCから人工的に合成される。しかしその後、合法なヘンプ(産業用大麻)に含まれる△8-THCからもHHCを合成することが可能であることが分った。

つまりHHCの原料は容易にかつ合法に入手可能で、合成のノウハウも広まっているわけだから、世界の大麻解禁の動きとネット情報がHHC合成に拍車をかけていると言える。しかも厳罰化がリスクの裏にある利益を大きくしている

危険な物質を法的に管理することは国家の重要な任務であり、政策や法律のすべての分野における規範である。薬物の現実を直視し、厳罰主義とは異なった視点から、その流通を管理する方策を検討すべきである。(了)

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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