斎藤氏と折田氏のシンプルな論点を議論すべき
斎藤氏は今回の知事選告示前の9月29日にmerchuを訪問し、折田氏より「兵庫県知事選挙に向けた広報戦略のご提案 #さいとう元知事がんばれ」というプレゼンを受けている。ここが今回の問題の最大のポイントである。具体的なプレゼンの中身はどのようなものであったのか。それによっては、法的な問題として以下のようなきわめてシンプルな論点が生じてくるのである。
重要な点は、斎藤氏が、折田氏をいわゆる「選挙プランナー」としてだけ認識していたのかどうかである。
選挙プランナーとは、選挙の候補者に対して選挙戦略や戦術のアドバイスを行なう専門家であって、たとえばアンケートの実施、演説内容の助言、資金管理、法令遵守など全体の選挙活動のコーディネートなどを行なう。それは、あくまでも有権者の支持を獲得するために、裏方として候補者を支えてその選挙運動を後方で支援する「黒子的存在」なのである。
他方、候補者への投票を促すために有権者に直接または間接に行なわれる活動が選挙運動であって、選挙カーからの有権者への投票の訴え、ネットの主体的な活用・宣伝、ポスターやビラの配布など、候補者の支持を広める活動などである。公選法は、この選挙運動に関して、自由かつ公正な投票が不正な利益でゆがめられないように、選挙運動期間の制限や有権者や運動員に対する買収の禁止など、さまざまな制限を設けている。
- 公選法は、事前買収罪(普通買収罪)として、選挙人(有権者)に対する買収(投票買収)を禁じているが、選挙運動員に対する買収(運動買収)も禁じている。つまり、特定の候補者を当選させること、あるいは当選させないことを目的に、選挙運動員に対して、(1) 金品その他の財産上の利益や、(2) 公私の職務を供与したり、その供与の申し込みや約束をしたり、又は (3) 供応接待やその申し込み、約束をすることが処罰されている(公選法第221条1項1号、罰則は最高3年の拘禁刑と公民権停止)。
選挙プランナーがその守備範囲を越えて、特定候補者への投票を有権者に訴えるようなことがあれば、それは「選挙運動」を行なったことになる。両者の境界は曖昧な場合があるが、今回はこれが大きく踏み越えられた疑いがあるのではないか。その場合、いくら選挙運動じたいはボランティアで行なったといっても、全体が公選法に違反しないかが問題になる。
つまり、折田氏が実際に選挙運動を行なったのかどうか(斎藤氏側は彼女がボランティアの運動員だったと言っている)という点と、上記の29日の会合の時点で、折田氏が告示後に「運動」を行なうことを斎藤氏が認識し、認容していたのかどうかという点が重要な論点だと思われる。
11月4日に実際に70万円余が、斎藤氏側から折田氏側へ支払われており、それがポスター代金であったのかどうかが議論になっているが、かりにポスターの発注じたいが適法であったとしても、いずれ「運動員となる者」と知りながら、その者に金銭が支払われた、あるいは(ポスター製作という)仕事が発注されたのかどうかという点が、公選法違反かどうかを判断するにあたっての最重要論点なのである。(了)