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アマゾンとVISAの対立、クレジット業界への影響大か 何があったのか解説

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

米アマゾン・ドット・コムは先ごろ、英国のサービスで米ビザのクレジットカードの取り扱いを終了すると発表した。理由は「ビザのクレジット決済手数料が高いため」(同社)。アマゾンの広報担当者は「ビザの手数料は高止まりするのみならず、上がってさえいる」と批判した。

アマゾンの交渉戦術

一方で、アマゾンは最近、米クレジットカード大手のアメリカン・エキスプレスやマスターカードと交渉中で、米国でビザとの提携解消も検討していると報じられている。

ロイターによると、こうしたアマゾンの動きについて、ビザとの交渉における「戦術」とみるアナリストも少なくない。だが、今回のアマゾンの決定は、「消費者に多様な決済手段を提供する小売大手が、決済サービス市場で優位に立ちつつあることを示している」とロイターは報じている

アマゾンは今後、この決定を撤回する可能性もある。ビザの英国クレジット決済額のうち、アマゾンの取引額が占める比率は1%にも満たず、ビザが受ける影響は比較的軽微だとみるアナリストもいる。だが、それでも今回のアマゾンとビザの対立はクレジットカード業界に悪影響を及ぼす可能性があると指摘されている。

米投資銀行パイパー・サンドラーのアナリストは、「アマゾンは今回のビザへの対応を実験とみているようだ。アマゾンは他の地域でビザから譲歩を引き出そうとしているのではないか。我々はこのことに注目している」と話している。

「今すぐ購入、支払いは後」が急成長

米決済サービスのワールドペイによると、北米の電子商取引(EC)市場におけるクレジットカードの利用率は32%で、非現金取引で最大。だがここ最近は、米ペイパル・ホールディングス傘下の送金サービス「ベンモ」や、「バイ・ナウ・ペイ・レーター(BNPL)」と呼ばれる後払い決済サービスの利用が増えている。

クレジットカードの利用率は2020年に7%減少した。これに対しBNPLは78%増加。新型コロナウイルス感染拡大の影響でクレジットカード利用の減少が加速した。一方でBNPLは若年層を中心に急速に成長している。

ワールドペイは、EC市場における20〜24年のBNPL利用率が、北米で1.6%から4.5%に、欧州で7.4%から13.6%に拡大すると予測している。欧州では24年に銀行送金の11.1%を上回り、クレジットカード(19.0%)やデビットカード(16.1%)に迫る規模に拡大するという。

EC巨人、多様な支払い手段 決済サービス市場で優位

アマゾンは21年8月、大手BNPLの1社である米アファーム・ホールディングスと提携した。これにより米国の顧客はクレジットカードを使わずに分割払いが利用できるようになった。こうした代替決済手段を拡大することで、アマゾンは変化する顧客需要に対応するとともに、クレジット大手に圧力をかけているという。

アマゾンは22年1月19日に英国でビザのクレジットカードの取り扱いを終了する予定だ。アマゾンの広報担当者は「カード決済のコストは技術の進歩に伴い下がるべきだ」とビザを批判している。

これに対し、ビザは「英国の顧客が引き続きビザを使えるように状況改善に努力する」と述べており、アマゾンとの交渉を続ける姿勢を示している。ビザのバサント・プラブーCFO(最高財務責任者)はロイターとのインタビューで、「我々は過去にも同様の問題を解決した。今回も解決策があると考えている」と述べ、アマゾンとの早期和解に自信を示している。

  • (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2021年11月26日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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