WHO「パンデミックの終わりが視野に」という発言をどのように捉えるべきか?今後起こり得るシナリオは?
WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が「パンデミックの終わりが視野に入ってきた」という発言をして注目を浴びています。
その発言の元となった根拠や意図はどこにあるのでしょうか。
そして今後、私たちはどのような心構えで新型コロナと向き合っていけばよいのでしょうか。
世界での新型コロナによる死亡者数が2020年3月以来の低水準に
2019年12月末から始まった新型コロナの流行は、すでに3年目を迎えています。
この間に世界での新規感染者数は何度かの大きな流行の波を形成してきました。特にオミクロン株が世界中に広がった2021年12月から2022年1月〜2月にかけては過去最大の新規感染者数となりました。
一方で、死亡者数は2021年の半ば頃が最も多く、まだ世界においてもワクチン接種率が十分高くない時期に迎えたアルファ株やデルタ株による流行によって多くの方が亡くなってしまいました。
オミクロン株による過去最大の流行においては、新規感染者数の規模はこれまでの4倍以上の2000万人/週を超える時期もありましたが、これまでに自然感染した人が多かったこと、ワクチン接種率が高くなっていたこと、オミクロン株が相対的に重症化しにくい変異株であったことから、感染者数の規模ほどの死亡者は出ませんでした。
そして現在、世界における新規感染者数も緩やかに低下傾向にあり、死亡者数についても約2年半ぶりに11000人/週を切る水準となりました。
こうした状況をもって、WHOは「パンデミックの終わりが視野に」という発言をしたようです。
日本での第7波は過去最大の感染者数と死亡者数を記録
世界では「パンデミックの終わりが視野に」なんてことが言われている中、日本ではBA.5による第7波の流行は新規感染者数、死亡者数のどちらにおいても過去最大規模の流行となってしまいました。
しかし、これまでいくつかの記事で述べた通り、日本の対策に問題があったというよりは、流行のピークが他国よりも後ろにずれたものであるとも考えられます。
日本はアメリカやイギリスと比べると、人口100万人あたりで新型コロナで亡くなった方の数は6分の1以下に抑えられています。
これは、流行のピークを遅らせることで、それまでにブースター接種など必要な対策を進めることができたことから、重症化する人の割合を減らすことができたものと考えられます。
また、今回の流行で日本国内でも累計感染者数は2000万人に達しており、その大半はオミクロン株に自然感染した人であることから、徐々にオミクロン株が広がりにくい状況になってきており、そういった意味では海外の状況に近づきつつあると言えるでしょう。
ただし、ワクチンや自然感染によって得られる免疫は「感染を防ぐ効果」としては長期的に保たれるものではないため、今後も流行は繰り返されていくものと考えられます。
今後の考えられるシナリオは?
さて、WHOは今後の起こりうる新型コロナの展開について、3つのシナリオを想定しています。
基本シナリオ、楽観的なシナリオ、そして最悪のシナリオの3つです。
これら3つのシナリオは、今後どのような変異株が出現するのかによって大きく分かれています。
新たな変異株が出現しても、ワクチン接種や過去の感染による重症化予防効果が保たれていれば、今後今よりも状況が悪化する可能性は高くないという見通しです。
一方で、最悪のシナリオは「デルタ株のように重症度が高く、オミクロン株よりもさらに感染力の強い」変異株が出現し、さらにこれまでのワクチン接種による重症度予防効果も低下しているような状況となれば、世界は再び大きな混乱に包まれることになる、というものです。
おそらくは、基本シナリオで進んでいくものと考えられますが、最悪のシナリオが起こった場合にも備えておく必要があります。
今こそ新型コロナ対策が必要な状況
さて、WHOが「パンデミックの終わりが見えてきた」という発言だけが取り上げられていますが、WHOは「よし、もう新型コロナも終わりだからノープランでOK」と言っているわけではありません。
テドロス事務局長はマラソンランナーに例えて「ゴールが見えてきた今こそ、残されたすべてのエネルギーを使ってより強く走るべきだ」と述べています。
具体的には、
・世界各地でのワクチン接種の推進
・検査・サーベイランス体制の整備
・感染者の急増に備えた必要な物資・医療従事者の確保、
・各国でのコロナ対策に関する国民とのコミュニケーション
・医療の専門家の情報発信のトレーニング
などの対策に引き続き注力していく、と述べています。
つまり、今はまだ手を緩めるべきときではなく、ラストスパートに向けて最後まで走り切ることを強調しているわけです。
私たちも「屋外などマスクが必要でない場面では外す」「ドアノブなど環境の消毒は最低限にする」など緩められるところは少しずつ緩めつつ、一方でこまめな手洗い、屋内でのマスク装着、ワクチン接種など基本的な感染対策についてはこれからも引き続きしっかりと行っていく必要があります。
新型コロナの流行が始まって2年半が経ちますが、皆さんの日頃の感染対策のおかげで徐々に明るい兆しが見えてきています。
メリハリをつけたスマートな感染対策を続けながら、上手に付き合っていきましょう。
※大阪大学大学院医学系研究科では、新型コロナに感染したことのある方の後遺症の症状について継続的に調査を行っています。研究の詳細はこちらからご覧ください。これまでに新型コロナと診断されたことのある方は、こちらからアプリをダウンロードいただきぜひ研究にご協力ください。