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トランスジェンダーの生徒は、どちらの性別のロッカールームを使用するのか。

谷口輝世子スポーツライター
写真は女子ロッカールームのイメージです(写真:アフロ)

前々回、トランスジェンダーの米国代表選手の参加機会均等と、競技の公平さについて考えるレポートを書いた。代表の座を勝ち取ったトランスジェンダーアスリート。世界大会に出場できるのか。

国際大会に出場するトップレベルの選手だけでなく、レクリエーションスポーツや学校体育の場でもトランスジェンダーの人権と、他の人のプライバシーへの配慮について議論が起こっている。

トランスジェンダーの児童や生徒は、体育やスポーツ活動の際にどちらの性別のロッカールームを使用するのか、という問題だ。

米国イリノイ州シカゴ郊外の高校は、男子から女子へのトランスジェンダーの生徒に女子用更衣室を使用することを認めず、別室で着替えるよう求めた。

この生徒は自分がトランスジェンダーであるために排除されているとし、この生徒と米自由人権協会が、苦情申し立てをした。

米連邦政府教育省はこのトランスジェンダーの生徒が他の生徒と同じ権利を与えられず、差別を受けているとして、このトランスジェンダーの生徒が通う学区に対して30日以内に対応しなければ、連邦政府からの補助金を失うと通告。参考記事U.S. orders girls' locker room access for transgender Illinois student

連邦政府から援助を受けている学校で、性によって何かをする機会を制限されることは、男女教育機会均等法(タイトルナイン)に違反する。このトランスジェンダーの生徒の置かれた状況も、これに当てはまると判断された。

学区は連邦政府教育省から与えられた30日の期限ぎりぎりだった12月3日に、このトランスジェンダーの生徒が女子更衣室を使用することを認めた。それと同時に学校はこのトランスジェンダーの生徒と、カーテン等があるような、他の人に着替えを見られないようなスペースで着替えることで合意したとも報道されている。

ただし、連邦政府教育省市民権局は、他の生徒と同じように更衣室を全面的に利用できることを認めず、プライベートスペースを与えることについても、男女教育機会均等法違反だとしているから、強制的にカーテン等の仕切りがあるようなスペースの使用を求めたわけではないだろう。Illinois school district OKs deal over locker room access for transgender student

カリフォルニア州では、学校において自身が認める性のトイレやロッカールームの使用を州法で認めている。

しかし、今回の学区の決定に反対や不安の声を上げる人は少なくない。

高校生の娘が、生物学的には男子である女子生徒と共に着替えをすることを、とても受け入れられないと考える保護者もいる。

このトランスジェンダーの生徒の母親によると、ホルモン療法は開始しているが、性別適合手術は受けていないそうだ。ほとんどの医療機関では18歳以下のトランスジェンダーには性別適合手術をしない。

クラスメートも未成年であれば、トランスジェンダーの生徒も未成年である。公立学校という教育の場で、誰もが等しく教育を受ける権利を守り、思春期のそれぞれの子供たちの気持ちにも配慮しなければいけない。更衣室内にカーテンのようなものをつけ、希望する生徒は誰でも、そこで着替えることのできるスペースを設けることは今のところは現実的な対応だろうと筆者は思う。

12月3日の決定以降も、反対意見の保護者らも含めて、議論が続いている状態のようだ。

最近、トイレは男女別トイレのほかに性別にかかわらずに使用できるトイレが出来てきている。しかし、トイレはもともと一人ずつ使用するように出来ていて、クラス単位やチーム単位で着替えをするロッカールームよりも、個に対応しやすい。

学校だけでなく民間のスポーツジムでも、トランスジェンダーの人のロッカールーム使用に関する議論が起きている。

米国のある民間スポーツジムでは、利用者は自認する性のロッカールームを使用することになっている。

男性から女性のトランスジェンダーの利用者が女性用ロッカールームを使用していたところ、今年3月に別の女性会員が「私にはどこから見ても男性と思える人が女性ロッカールームを使用している」とジム側に何度も苦情を訴え、さらに他の会員にも訴えてまわったという。

ジム側は、何度も苦情を訴えたこの女性会員のメンバーシップを停止し、スポーツジムを利用できないようにした。現在はメンバーシップを取り消されたこの女性がジムを相手取って訴えている。

日本でもLGBTへの理解が進んできた。学校や職場、スポーツジムの更衣室だけでなく、温泉や銭湯のような公衆浴場の脱衣場で、トランスジェンダーの人も、他の人も、安心して使用するためにはどのようにすればよいのか。具体策を考えなければいけない時期が来ている。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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