米国と北朝鮮が「極超音速ミサイル」で同時発表 米朝の極超音速ミサイル開発競争
米空軍が「空対地極超音速ミサイルの試射に成功した」と、19日に発表した。
米空軍の発表によると、17日にグアムのアンダーソン基地から出撃した「B-52」戦略爆撃機による極超音速ミサイル「空中発射迅速対応武器(ARRW)」の試射が成功したようだ。
ARRWは「極超音速滑空体(HGV)」と呼ばれ、発射後にブースターによって加速。切り離し後はグライダーのように滑空する。
米空軍はARRWの試験発射を2022年12月と昨年3月と2回行ったが、失敗していた。
米空軍は「試験が成功裏に終わった」と発表したが、速度など詳細については公開しなかった。
米空軍は昨年1月30日にスクラムジェットエンジンを搭載したロッキード・マーティン製極超音速ミサイルを「B―52」戦略爆撃機から空中発射したが、この時のミサイルの速度はマッハ5を超え、飛距距離は約555kmだった。
極超音速ミサイルはマッハ5以上(時速6120km)で飛来すれば、追跡と迎撃が難しいとされている最新兵器である。
この分野では中露が先行し、米国は後発である。ロシアはすでに極超音速ミサイル「キンザル(Kh)47(短剣)」保有し、ウクライナの戦場で使用している。北朝鮮もまた、この分野に進出している。
米国が「空対地極超音速兵器試験に成功した」と発表した折しもその日(19日)に北朝鮮は西海衛星発射場で新型の中・長距離極超音速ミサイルに搭載する多段式の固体燃料エンジンの地上燃焼実験を午前と午後2度、実施していた。
北朝鮮は昨年11月に新型の多段式中長距離弾道ミサイルに搭載する大出力の固体燃料エンジンを開発し、今年1月14日には極超音速弾頭を搭載した固体燃料式の新型中距離弾道ミサイルを試射している。
この時の試射は「中・長距離級極超音速機動型操縦戦闘部の滑空および機動飛行の特性と新しく開発された多段大出力固体燃料エンジンの信頼性を実証するのに目的を置いて行われ、成功裏に行われた」と北朝鮮は発表していた。
ロフテッド(高角度)方式で発射されたミサイルは約1000km飛翔し、東海上に落下していた。通常角度ならば飛行距離は4000km前後と言われている。
今回、北朝鮮が多段式の固体燃料エンジンの地上燃焼実験を成功させたことで近々、新たに開発した中長距離極超音速ミサイルの試射を行うのは必至で、今朝の「朝鮮中央通信」もそのことを暗示するかのように「新型中長距離極超音速ミサイル兵器体系の開発完成の時間表が確定した」と伝えていた。
昨日、エンジン燃焼実験に立ち会った金正恩(キム・ジョンウン)総書記は「この兵器システムの軍事戦略的価値は我が国家の安全環境と人民軍の作戦上の要求から出発して大陸間弾道ミサイル(ICBM)に劣らず重要に評価される、それについては敵がよりよく知っている」と述べた上で「我が党の第8回大会が示した5カ年計画期間の戦略兵器部門の開発課題が立派に完結した」と、ご満悦だった。
北朝鮮は2021年1月の党第8回大会で軍事偵察衛星の保有や多弾頭ミサイルの開発と並んで極超音速ミサイルの保有を含む「国防発展5か年計画」を打ち出していた。そして、早くもこの年の9月28日に研究・開発機関の「国防科学院」は「火星8号」と称される極超音速ミサイルを1発発射し、2022年にも1月に5日と11日に2度発射していた。
極超音速ミサイルの詳細だが、5日の時はマッハ5~7(米韓情報当局)、高度50km(韓国軍推定)、飛翔距離700km。また、11日の時は韓国軍合同参謀本部は「マッハ10、高度60km、飛行距離700km」と推定した。
ところが、北朝鮮は11日の「火星8号」については「発射されたミサイルから分離された極超音速滑空飛行戦闘部は距離600km辺りから滑空再跳躍し、初期発射方位角から目標点方位角へ240km強い旋回軌道を遂行し1000kmの水域の設定標的に命中した」と伝えていた。
日本の防衛省も韓国同様に「弾道ミサイルならば射程は700km」と推定していたが、目標地点までの数百kmは旋回軌道しながら低空で飛んでいたためレーダーで捕捉できなかったようだ。
北朝鮮の発表とおりならば、「火星8号」は速度については1回目のマッハ3から2回目にはマッハ6、そして3回目にはマッハ10に達し、飛距離も500kmから700km、1000kmと伸びたことになるが、新型中長距離弾道ミサイルは多段式なのでさらに距離が伸びる。
マッハ2~3ならば「迎撃が可能なレベル」(韓国合同参謀本部)とのことだが、マッハ5以上だと迎撃は困難と言われている。弾道ミサイルだと北朝鮮から発射された場合、韓国南部まで約6分要するが、マッハ5だと1分で飛んで来るので対応しきれない。
平壌からグアムまでは直線で3500km、アラスカまでは6000km。高度50kmをマッハ10以上の速度で飛行し、滑空も可能な極超音速ミサイルを迎撃するのは米軍にとっても容易ではない。