距離が最も近いブラックホール新発見!地球への危険性は?
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「観測史上最も近い距離でブラックホールを新発見」というテーマで動画をお送りしていきます。
つい先日、地球からへびつかい座の方向に約1560光年離れた場所で、新たにブラックホールが発見されたと発表されかなり大きなニュースとなっています。
今回はそんな話題を解説したいと思います。
●最も近いブラックホールの従来の記録
これまで発見された中で地球からの距離が近いとされていたブラックホールは、「いっかくじゅう座X-1」です。
いっかくじゅう座の方向に約3000光年彼方にあり、太陽よりも小さい恒星と連星を成しています。
その後2020年には地球からぼうえんきょう座の方向に約1000光年彼方にある「HR 6819」が、そして2021年にはいっかくじゅう座の方向に約1500光年彼方にある「ユニコーン」が発見されました。
これらはどちらも連星系で、そのうち1つがブラックホールであると考えられていました。
地球から最も距離が近いブラックホールの候補天体として話題になりましたが、現在ではどちらもブラックホールの存在が否定されています。
その結果地球から3000光年彼方にあるいっかくじゅう座X-1が、「最も近くにあるブラックホール」の記録を持ったままとなっていました。
●最も近いブラックホールを新発見!
そんな中今月2022年11月の2日、いっかくじゅう座X-1の従来の記録を塗り替える「最も近いブラックホール」を新たに発見したと発表がありました。
新発見のブラックホールまでの距離は約1560光年しかないそうです。
○銀河内に潜む「休眠中の」ブラックホール
私たちの太陽系が属する天の川銀河の中には、実に1億個ものブラックホールが存在していると推定されています。
ですがそのうち私たちが発見できたのは、未確定の候補天体を含めてもたったの数十件しかなく、そのほとんどが強力なX線などの光を放つ「活動的な」ブラックホールです。
ブラックホール自体は余りに重力が強く、そこから光すらも出て来れない天体なので、ブラックホールの本体から放たれた光を直接観測し、ブラックホールを発見することは不可能です。
ですが例えば非常に近い距離に伴星が存在するブラックホールの場合、伴星の恒星からガスを奪い、奪った物質がブラックホールの周囲を超高速で公転し、超高温で輝く降着円盤を形成します。
このように何らかの理由で周囲に降着円盤のような明るい構造を持つ「活動的な」ブラックホールの場合、周囲の構造から放たれた強力なX線などを観測することで、ブラックホールを発見することができます。
現状「活動的な」ブラックホールばかりが発見されている一方で、天の川銀河内に存在するほとんどのブラックホールは、地球から観測可能なほど明るい構造をまとっていない「休眠中の」ブラックホールであると考えられています。
○休眠中のブラックホールを探る
強烈なX線などの光を放たないため観測が困難な「休眠中の」ブラックホールですが、手掛かりがないわけではありません。
例えば休眠中のブラックホールから十分距離が離れた位置で公転する伴星が存在し、その伴星が「光を放たないけど非常に重い天体を公転している」などとわかれば、間接的にブラックホールの存在を明らかにできるかもしれません。
欧州宇宙機関(ESA)の手がける「ガイア」は、無数の天体を継続的に観測し続けることで、その天体の運動や地球からの距離など様々なパラメータを調べ、天の川銀河の詳細な地図を作成することを目的としたプロジェクトです。
先日ブラックホールの新発見を発表した研究チームは、ガイアプロジェクトで得られたデータの中から、明るい光を放たない「休眠中の」ブラックホールと公転している可能性のある恒星を探していました。
研究チームはガイアプロジェクトで得られた最新データに含まれる17万件近い連星系の候補の天体から、「暗くて見えない何か」と公転する天体を6つだけ抽出しました。
その6つをさらに詳しく調べると、たった一つだけブラックホールが存在している可能性が非常に高い連星系が発見されました。この連星系は「ガイアBH1」と命名されています。
そしてガイアBH1までの地球からの距離は約1560光年で、これまで最も近かった「いっかくじゅう座X-1」の記録を半分以下にまで縮めたことになります。
ガイアBH1のような休眠中のブラックホールが発見できたのは非常に珍しい事例なので、今回の発見事例は今後似たような休眠ブラックホールを発見していくうえで重要な一歩となると期待されています。
○残された謎
連星系「ガイアBH1」には、不可解な謎が残されています。
実はどのようにしてこのような系が形成されたのかがよくわかっていません。
ガイアBH1は、太陽とよく似た恒星が、太陽の10倍程度の質量を持つブラックホールの周囲を約半年の周期で公転している連星系だそうです。
ここでブラックホールは、太陽の20~30倍以上の質量を持つ大質量の恒星が、誕生後わずか数百万年程度で巨星となり、その後生涯を終えると形成されると考えられている天体です。
そして一般的に連星系では、それを成す恒星がほぼ同時期に誕生した可能性が高いと考えられます。
以上のことからガイアBH1においては、太陽程度の星と太陽の数十倍の質量を持つ大質量星が同時期に誕生し、その数百万年後には太陽程度の星が膨張する巨星に飲み込まれていたはずです。
仮に巨星の膨張を生き延びたとしても、太陽程度の恒星の公転軌道は現在観測されるよりもブラックホールに近くなっていたと考えられています。
このようにガイアBH1では、連星系を成す天体の種類や公転軌道などの観測事実と、そこから推測できる現在に至るまでの進化プロセスが結びつかないという大きな謎が残っています。
この謎に対して、2つの特殊な連星形成シナリオが提唱されています。
まず1つ目が、連星系を成す2つの星がかつては非常に遠くに存在していて、その後別の星が接近することでより近い位置を公転するようになった説です。
そしてもう一つが、実はブラックホールが2つ存在するという説です。
現状ブラックホールの手掛かりが伴星である太陽程度の星の公転軌道と、それが公転する中心天体が非常に暗いことのみので、中心のブラックホールが非常に近くを公転し合う2つのブラックホールから成る連星系だとしても、合計の質量が変わらなければ矛盾しません。
そしてブラックホールが2つである場合、これらが大質量の恒星だった時代、お互いに巨星になるのを防ぎ合いながらブラックホールに進化できるそうです。
そのため伴星が巨星の膨張に飲み込まれることもありません。
●地球への影響はあるのか?
では今回発見されたブラックホールによって、地球へ影響が及ぶ可能性はあるのでしょうか?
結論としては、そのような心配は要りません。
観測史上最も近いと言っても1000光年以上彼方にあるので、その距離にある太陽質量の10倍程度のブラックホールが地球に影響を及ぼす可能性は考えにくいです。
また、未発見のものも含めると、本当の意味で最も近いブラックホールまでの距離は1000光年よりも遥かに近い可能性もありますが、それでも何光年も離れていれば地球への悪影響は考えられないでしょう。
ただし大質量の星が最期を迎え、ブラックホールが形成される瞬間は、超新星爆発やガンマ線バーストなど地球にとって危険な現象を伴うとされています。
既存のブラックホールよりも、今後ブラックホールを形成しそうな天体の方を危険視した方が良いかもしれません。
それでも近いうちにブラックホールとなるような天体は見つかっていないので、心配する必要はありません。