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シリア政府は新型コロナウィルス感染による死者が出た町を封鎖、アル=カーイダも外出・移動規制を強化

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

政府支配地域で新型コロナウィルス感染による死者2人に

シリアの保健省は3月30日に声明を出し、新型コロナウィルスに感染していた女性1人が新たに死亡したと発表した。

女性は、シリア国内で感染が確認されていた10人の1人。

これにより、シリア国内での感染者数は10人、死者は2人となった。

SANA、2020年3月31日
SANA、2020年3月31日

感染者が死亡した町が封鎖

ニザール・ヤーズジー保健大臣は4月1日に親政府系のイフバーリーヤ・チャンネルの電話取材に応じ、新型コロナウィルス感染防止策として、首都ダマスカスの北約8キロの距離に位置するダマスカス郊外県タッル郡タッル中央区マニーン町(アイン・マニーン町)を封鎖したことを明らかにした。

マニーン町は30日に死亡が発表された女性の感染が確認された場所。

ヤーズジー保健大臣によると、マニーン町の封鎖は、住民の健康維持と感染拡大を防止するために決定された。

死亡した女性には、商店を営む夫と子供たちがいるが、彼らは自主隔離の要請に応じず、営業を続けており、加えてレバノンからの違法な帰国者が少なからずおり、そのなかに感染者が含まれている可能性があったため、住民の健康管理を徹底しつつ、町への出入りを禁止することを決定したという。

一方、内務省は4月1日に声明を出し、新型コロナウィルス感染を防止するため、周辺国(レバノン)からの違法な帰国者を発見したらただちに電話で通報するよう国民に呼びかけた。

SANA、2020年4月1日
SANA、2020年4月1日

シリアのアル=カーイダも外出・移動制限強化

反体制系サイトのEldorarや英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、イドリブ県内の反体制派支配地、いわゆる「解放区」で3月30日、救国内閣が、新型コロナウィルス対策として、4月1日から2週間、支配地域への住民の往来を禁止することを決定した。

救国内閣は、「解放区」の軍事・治安権限を握るシリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧称はシャームの民のヌスラ戦線)に自治を委託されている組織。

人道支援、通商、食料物資搬送などにかかる人の往来については、通行所の責任者の判断のもとに除外される。

シリア人権監視団によると、シャーム解放機構は、トルコに面するイドリブ県のバーブ・ハワー国境通行所を実質掌握(通行所局長とスタッフがシャーム解放機構支持者)しているほか、トルコが占領する「オリーブの枝」地域(アレッポ県アフリーン郡)に隣接するアレッポ県ダーラ・イッザ市近郊のガザーウィヤ村近郊と、イドリブ県のアティマ村とアレッポ県ダイル・バッルート村の間に二つの通行所を設置し、通行税を課すなどして、人の往来を管理してきた。

また救国内閣が所轄する教育省は、学校、専門学校、幼稚園の閉鎖を決定した。

違反者に対しては罰則が科せられるという。

一方、Eldorarによると、イドリブ市の自治を担うとされるイドリブ市議会が声明を出し、4月15日まで市場での営業活動を停止、アルビアー(水曜)市場、ガナム市場、車・オートバイ販売市場といった主要な市場を閉鎖すると発表した。

これを受け、救国内閣の内務省が所轄する治安部隊が市内に展開した。

トルコで反体制女性ジャーナリストが新型コロナウィルスに感染

トルコのイスタンブール在住の反体制女性ジャーナリストのアーラー・ムハンマド氏は3月31日、インスタグラムを通じて新型コロナウィルスに感染していることを明らかにした。

ムハンマド氏は2019年まで反体制メディアのオリエント・テレビの司会者を務めていた。

Orient TV、2020年4月1日
Orient TV、2020年4月1日

ムハンマド氏は、感染時期や経路は定かではないが、トルコで外出制限が発表された当初、外出を控えずにスーパーマーケットやモールで買い物をした際に感染したと思われると明かした。

感染が確認される直前、ムハンマド氏は水タバコ・カフェで過ごしていたが、トイレに行こうとして立った際に目眩がして気を失い、病院で意識を回復したという。

その後、インフルエンザに感染したような体のだるさを感じ、3日目に症状が悪化、病院で新型コロナウィルスに係るPCR検査を受けた結果、陽性と診断されたという。

夫と2歳の息子への感染を恐れ、ムハンマド氏は、自分が感染したことを誰にも告げずにイスタンブール市内のホテルに部屋を借り、自主隔離を開始した。

自主隔離を始めてから11日が経ち、健康状態が回復したという彼女は、ビデオ・メッセージを発信することを決心した経緯について、「シリア人に明日への希望を与え…、感染の恐怖の犠牲となって欲しくなく、人の意志に勝るものがないことを示したかった」と述べている。

Orient TV、2020年4月1日
Orient TV、2020年4月1日

北・東シリア自治局が外出禁止令違反者への罰金刑を決定

クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する自治政体の北・東シリア自治局(ユーフラテス地域)は、新型コロナウィルス感染を防止するために3月23日に発効した外出禁止令を徹底させるため、違反する店舗に10,000シリア・ポンド、違反を繰り返した場合は1回の違反につき20,000シリア・ポンドの罰金を科し、違反店舗であることを周知させるために赤いペンキを塗ることを決定した。

北・東シリア自治局はまた、外出禁止令に違反して運行するすべての車輌に対しても、初回の違反に対して5,000シリア・ポンド、2回目以降は10,000シリア・ポンドの罰金を科し、車輌を没収することを決定した。

なお、北・東シリア自治局は3月23日から4月6日までの15日間、支配地域で住民の外出を禁止している。

シリア政府も3月25日から、追って通知があるまでの期間の外出を禁止している。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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