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フランスをビビらせる東京拘置所。フランスの刑務所は?

プラド夏樹パリ在住ライター
ゴーン氏が勾留されている東京拘置所(写真:ロイター/アフロ)

ゴーン氏の勾留期間延長が報道されたばかりのフランスでは、東京拘置所での処遇が読者をビビらせている。

骨の髄まで罰する

11月22日版の経済紙Les Echos紙の『ゴーン氏勾留、沈黙と孤独の日常』とタイトルする記事の出だしは次のようなものだ。

「日本の刑務所は極めて厳しい。入所すると、数人の刑務官を前にして、数々の質問が降りかかってくる。『ホモセクシャルですか?』、『心配事はありますか?』、『ペニスに整形手術しましたか?』。数年前、男性性を誇示するために真珠を埋め込んだ部分が化膿して重態に陥ったヤクザがいたからだ……」。その他、話すこと、歌ったり、他の受刑者に話しかけること、部屋の中で立ったり歩き回るのも絶対禁止と、以前、東京拘置所に入所した経験がある欧州人の証言をもとに報道した。

11月23日のFranceinfoではRadio France 特派員のインタビューを掲載している、「日本の刑務所では、受刑者を骨の髄まで罰する。乱暴な扱いはしないし、非常に衛生的、しかし、精神的に粉々に壊される……日本では、罰を与えることはショッキングなことではなく、罪人が苦しむのは当然と考えられる。だから死刑に関する議論も存在しない」。

しかし、12月2日付けLe Monde 紙では、フランス社会科学高等研究所教授のセバスチャン・ルシュバリエ氏が『日本から見たゴーン氏事件』と題した記事で、ゴーン氏だけが特別に悪い待遇を受けているわけではないとしている。「フランスではゴーン氏が厳格な条件で勾留されていることに対し、陰謀、あるいは外国人だから差別しているのではと考えられがちだ。しかし、彼だけが特別に厳しい処遇を受けているわけではなく、日本では、勾留期間はVIP棟に入ることはできない。これは日本人であろうと外国人であろうと、また政治家であろうと同じであって、特別扱いはしないというだけのことだ。……また推定無罪はフランス同様、日本にもあるが、社会での受け止め方が違う。日本の世論にとっては、逮捕されたということは、ほとんど有罪判決を受けたと同じように考えられる」。

また、多くのメディアで議論されているように、何がなんでも自白をという「人質司法」では冤罪が生まれる可能性もあるだろうし、弁護士なしでの取り調べでは言語能力が高くない被疑者には不利になるだろう。フランスでの取り調べでは必ず弁護士が同席するし、勾留期間は最高でも96時間(テロリズム関連は144時間)であり、少なくとも、この段階での被疑者の人権は守られているようだ。しかし、問題はその後である……

12人が連続自殺

実は、フランスは、刑務所が不衛生で慢性の過密状態(平均収容率142%)であることから欧州人権裁判所から数回、有罪判決を受けている。

一件は、9m2の部屋に2人で収容されている、刑務官との口論の末に箒を取り上げられ掃除ができない、トイレの水が流れない、トイレのドアがない、洗面台の上にある電気コンセントが壊れているなどを理由に、2006年に、ナンシー刑務所(2009年に閉鎖)に入所していた受刑者が国を起訴した事件だ。その結果、2013年、フランスは欧州人権裁判所から「受刑者に対して非人間的な処遇をした」として有罪判決を受けた。

また、受刑者の自殺も多い。パリ近郊のフロリー・メロジ刑務所では、今年9月の時点で連続12人(うち女性1人)の受刑者と、刑務官の1人が過労死で自殺している。国際刑務所監視機関の調べでは、同刑務所の男性棟では定員2505人のところへ4138人の受刑者と収容率は165%にものぼる。

国際刑務所監視機関は、受刑者と刑務官の関係を悪化させる理由に、刑務所の過密状態、また、刑務官に研修期間中の人が多くベテランが少ないこと、慢性の人手不足をあげている。フロリー・メロジ刑務所では、この7月には60人の受刑者が散歩の後に自分の部屋に帰ることを拒否するという事件が起きたが、このような場合、人手不足が大きな事件を招きかねない。状況に対応するために、健康な受刑者のうちで希望する人のみが赤十字のカウンセラーのもとで研修を受け、身体的・精神的に不安定な受刑者の面倒をみるといったシステムが試行されており、すでに14の刑務所で実施されている。

しかし、自殺の理由は過密だけではない。自殺をした人々のプロフィールをあげてみよう。無賃乗車常習で3ヶ月の禁固刑を受けた25歳の若者、保険なしで車を運転して2ヶ月の禁固刑を受けた家族持ちの男性など、軽罪に釣り合わない刑罰を受けた人々だ。また3年間も裁判を待ち続けている女性、母親と面会した直後に刑務官と口論になり懲罰房に入れられ、その後自殺した若者もいる。多くの人々は、家族間の問題、学歴がなく職歴にも乏しいという背景を背負ったまま入所するため、出所しても将来の展望も暗い。刑務所で自殺する人の数は普通の人々の6倍にのぼる。

4人に1人は精神を病んでいる

刑務所で精神科医として尽くしたシリル・カネッティ氏は、ラジオ番組Europe1で「フランスの刑務所では、狂うか自殺するかのどちらかだ」と断言している。精神病にかかっているのは4人に1人の割合、一般社会の8倍多い。もちろん所内で精神科医の診察を受けることもできるが、外の社会と遮断されていることから回復の見込みはますます少なくなる。

マクロン大統領は大統領選挙前に「1万5千人収容できる新しい刑務所」を公約した。それも大切だが、何かが根本的にまちがっていないだろうか? 閉じ込めれば、厳しく罰すれば、屈辱的な扱いをすれば更生するわけではないだろう。日本もフランスも、システム全体を見直す時が来ているように思う。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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