『暗殺教室』殺せんせーの「マッハ20」とは、どれほどすごい能力だったのだろう!?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
2012年から16年まで「週刊少年ジャンプ」で連載された『暗殺教室』は、その刺激的なタイトルに反して、とても温かい学園ドラマだった。
幕開けは衝撃的で、「月が!! 爆発して7割方蒸発しました!」というニュースから始まった。
その直後、椚ヶ丘中学校3年E組に、謎の生命体がやってきて「私が月を爆(や)った犯人です」「来年には地球も爆る予定です」「君たちの担任になったのでどうぞよろしく」と挨拶する。
地球の破壊を宣言した生命体に対し、各国政府は攻撃を試みるが、弾丸を撃ち込んでも体内で溶かしてしまうし、超高速で移動できるため、戦闘機も、対空ミサイルも通用しない。
その状況に対し、生命体は3年E組の担任となって、生徒たちに自分を暗殺するチャンスを与えることにしたのだった。
それでも暗殺はうまくいかず、生徒たちは「殺せない先生」という意味で「殺せんせー」と呼ぶようになった。
殺せんせーは、ときに厳しく、ときに優しく、暗殺の手ほどきをしながら生徒たちと心を通わせていく……。
忘れがたいエピソードも山盛りの作品だったが、あらためて注目したいのは、殺せんせーの移動速度が「マッハ20」だったこと!
これがどれほどすごい能力なのか、科学的な観点から考えてみよう。
◆マッハ20とはどれほど速い?
マッハ20とは、そもそもどういう速度なのか?
音速(マッハ1)は気温が上がるほど速くなり、地球の平均気温に近い15度のとき、秒速340mだ。するとマッハ20とは、秒速340m×20=秒速6800m=時速2万4500km。
東海道新幹線の86倍、ジェット旅客機の29倍、ライフル弾の7倍!
この猛烈なスピードを活かして、殺せんせーは悠々自適の教師ライフを送っていた。
朝のホームルームの前には、ハワイで英字新聞と飲み物を買ってくる!
昼休みは、中国の四川に麻婆豆腐を食べにいく!
放課後には、ニューヨークで大リーグ観戦!
椚ヶ丘中学が東京にあるとすれば、それぞれの所要時間は、ホノルルまで15分12秒、四川省の省都・成都まで9分31秒、ニューヨークまで26分38秒、地球の裏側のリオ・デ・ジャネイロさえも45分29秒!
殺せんせーにとっては、この広大な地球は庭みたいなものなのだ。
◆周囲の動きがスローに見える
こんな殺せんせーにとって、生徒たちの攻撃はどれほどの効果があるのだろうか。
マッハ20とは、100mを0秒0147で駆け抜けるスピードだ。一般人なら15秒ほどかかるから、殺せんせーは人間の千倍も速いということになる。
すると、他の動作のスピードも千倍、それに必要な反射神経や思考速度も千倍と考えるべきだろう。殺せんせーにとって、生徒たちの攻撃はスローモーションのように見えるはずだ。
たとえば生徒たちは、殺せんせーの細胞を破壊できるナイフやBB弾を渡されていた。
エアガンの発射速度は、秒速80mほどだから、BB弾も同じだとしたら、殺せんせーには「秒速8cm」に見える!
これは遅い。生徒たちは、朝のホームルームで先生に向けて一斉射撃を行っていたが、生徒たちからの距離を平均5mとすると、殺せんせーには62.5秒もかかって飛んでくるように感じられるのだ。
62.5秒、つまり1分以上! 軽く準備運動してから避けても、余裕で間に合う。
◆どうしたら暗殺できるのか?
マッハ20とは、これほど速いのだ。
そんな殺せんせーをどうすれば倒せるか、連載中に筆者もいろいろ考えてみた。
活用すべきは、殺せんせーの細胞を破壊するBB弾だろう。
これを、エアガンで打つなどという生易しい殺り方ではなく、教室の天井から豪雨のように落としたらどうだろうか?
計算してみたところ……、ああっ、ダメだ!
殺せんせーの頭上1mから落とした場合、BB弾が先生の頭に触れるまで0.45秒。人間の千倍も速い殺せんせーの感覚では、BB弾の落下は450秒=7分30秒もかかるノンビリした現象になる。
落ちてくるのに気づいてからトイレに行って帰ってきても、まだ逃げる余裕がある!
それなら、この宇宙でいちばん速い光、しかも破壊力を持つレーザー光線を浴びせたら? その速さは、空気中の音速をもとにするとマッハ88万だ。
これなら……と思ったが、いや、現実的にはこれも難しいかも。
人間は、何かに気づいてから行動を起こすまで、0.1秒かかる。これを短縮することは難しい。
すると、秒速6800mで動ける殺せんせーは、こちらが行動を起こそうとしている0.1秒のあいだに、680mも迫ってくることができる!
つまり680m以上離れた場所から撃たなければ、こちらがやられてしまうわけで、でもそんなに離れていたら、狙いが定まらないだろう。
難しい。マッハ20ともなると、暗殺するのは本当に難しいのだ。
こんなふうに『暗殺教室』には、自分だったらどうするか……と考える楽しみもあった。何よりも、本当に面白く、心が温まる素敵なマンガだった。
いつまでも読んでいたかったなあ、としみじみ思う。