消滅時効を中断させるために訴訟提起-時効について弁護士が解説
損害賠償請求権の消滅時効を中断させるために、訴訟提起がなされたというニュースがありました。
消滅時効と訴訟提起と、どのような関係があるのでしょうか。
そもそも時効とはどのような制度か?
時効とは、所有権や債権などの財産権について、権利が行使されない事実状態が一定期間継続した場合に、この事実関係にしたがった権利関係を認める制度です。
このような時効制度は、真実の法律関係はさておき、長期間にわたって一定の事実状態が存続し、それを前提として社会生活が営まれている以上、そのように築かれた社会の安定性を重視して、事実状態を尊重すべきという趣旨を根拠としています。
他方、事実状態を尊重する結果、真実の権利者が権利を失ったとしても、長期間権利を行使しなかった以上、保護に値しないと考えられています。
また、本当に権利者の場合でも、長期間を経過してしまった後では、証拠が散逸してしまい、自らの権利を証明することが大変になってしまうことから、後から証明をしなくても事実状態に基づいて権利を認めようという趣旨も含まれています。
本件ではどのように時効が問題となっていたか
ニュースの事件のように、不法行為を受けたことによる損害賠償請求権については、被害者やその遺族などが、不法行為による損害があったこと及び、その損害賠償請求が可能な程度に加害者のことを知った時から、3年間、権利を行使しなかった場合に時効によって消滅します(民法第724条前段)。
また、加害者の居場所などを全く知らないままでも、不法行為があった時から20年が経過してしまうと、権利は消滅してしまいます(民法第724条後段)。
しかし、訴訟提起をして、勝訴し、その判決が確定すると、消滅時効になるまでの期間は10年間延長されます(民法第174条の2)。
ニュースの事件では、1990年12月に不法行為が起きましたが、加害者が特定できない状態が続いており、3年の期間制限は生じませんが、20年の期間制限にかかってしまうため、何もしなければ2010年12月に権利が消滅してしまいます。
そのため、その前に損害賠償請求訴訟を提起していたのだと思いますが、この判決が確定し、一旦、消滅時効までの期間が10年間延長になったものの、2018年4月には再び消滅時効にかかってしまうことから、再度訴訟提起に踏み切ったものと思われます。
このように、消滅時効が迎えそうになるたびに訴訟提起をして消滅時効にかからないようにし続けることは可能ですが、これは権利者が長期間権利を行使しなかったことにならないため、権利者の権利が消滅させられるいわれはないからです。
今後、犯人の居場所を特定して財産を探して回収を図っていくことは大変な道のりではありますが、逃げ得を許さないためにも何か進展があれば良いですね。
公訴時効とは?
以上は民法上の時効についての話でしたが、公訴時効とは、刑事手続きにおいて、起訴して刑事裁判にかけることが可能な期間制限のことをいいます。
そして、ニュースの事件については、事件が起きた1990年12月の時点では、殺人罪については15年の公訴時効が定められており、また当時の刑事訴訟法では、ある事件について公訴時効が成立する前に、刑事訴訟法の改正により公訴時効が延長されても、従前の例によると定められていたことから、事件から15年後の2005年12月に公訴時効が成立してしまったのです。
このように、公訴時効については、民法上の時効のように中断して延長される規定がないため、現実に時効が満了してしまうということが起こりやすいのです。
しかし、公訴時効については、犯人が処罰されていない事実状態がいくら続いたとしても、被害者感情が薄れることはないことや、刑事手続きにおいては、全ての立証責任を検察官が負っている以上、仮に事件の真相を究明する証拠が散逸してしまっていたとしても、被疑者が不当に処罰されることもないことなどから、公訴時効は撤廃すべきという意見が高まっていました。
そのため、現在の刑事訴訟法では、2010年の法改正により、殺人罪や強盗殺人罪については、公訴時効が撤廃され、いつまででも刑事事件として扱うことが可能になり、その他の罪についても公訴時効が延長されたりしました。
本件ニュースでは悔しくも公訴時効が成立してしまいましたが、今後はこのようなことは許されず、罪を犯した場合には、いつかは裁かれる可能性が高まっています。
※本事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。