本年度の賞レースを牽引する「ラ・ラ・ランド」は夢見たがり屋たちの勝負作!!
みんなが「泣いた」ミュージカル映画!?
今年もそろそろアワードシーズンが到来する。シーズンのクライマックスは来年の2月26日に行われるアカデミー賞(R)だが、現時点で賞レースを牽引することになりそう、否、なるに違いないのが、すでに観た多くのジャーナリストが「泣けた!」と口を揃えるミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」だ。
他人の映画評は当てにならないし、そもそも今どきミュージカル映画で泣くことがあるだろうか!?それが、あるのである!!理由は後で述べるとして、まずは物語だ。成功を夢見て世界中から若者たちが集まってくるロサンゼルスで、女優を目指し、映画スタジオ内にあるカフェで働くミア(エマ・ストーン)は、受けても受けても落っこちるオーディションに嫌気がさしていたある夜、場末のバーでピアノを弾くセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会い、恋に落ちる。オーナーからアドリブは厳禁と釘を刺されていたのに、思わずジャズピアニストの性が出てメロディを大幅に逸脱し、テーブルで語らう客をどん引きさせてしまうセバスチャンも、実はミアと同じ。自分の未来を藻掻きながら模索する夢追い人の1人だったのだ。
ダンスシーンの背景はトワイライトのL.A.
映画は冒頭から、明日を信じて頑張る若い男女がハイウェイで渋滞に巻き込まれた車内から次々と飛び出し、ボンネットの上に立ち、各々の思いを歌と踊りで発散するミュージカル・シークエンスでスタートする。以降、ミアとセバスチャンが初デートの後、ダウンタウンを見下ろす丘の上でジャジーなメロディに乗ってアステア&ロジャーズのようにステップを踏むシーン、2人が映画館で「理由なき反抗」を観た後、映画の舞台になったグリフィス天文台までドライブし、プラネタリウムが映し出す星空に舞い上がるシーン等々、主に意図して設定されたに違いない、L.A.が最も美しく光り輝くトワイライトタイムを背景に綴られる珠玉のショットが挿入されていく。タイトルの「LA LA LAND」とは、ロサンゼルス、特にハリウッドの愛称であり、同時に、現実離れした状態を指す言葉。これほど映画の内容にマッチする題名があっただろうか!?
監督が仕掛ける捻り技が至福のひとときをもたらす
やがて、セバスチャンは旧知のバンド仲間に誘われ、ジャズピアニストの道からは外れて、収入が約束された人気ユニットのキーボードとしてツアーに参加することに。一方、オーディションに落ち続けたミアは、有り金を叩き、自分が書いた戯曲の舞台に主演女優として立つという勝負に出る。こうして、夢を諦めた無名のピアニストと、あくまで追い続けようとする未来の女優は、お互いの間に生じた温度差に直面することになる。現実離れした映画の都で約1世紀以上も繰り返されてきたであろう夢の代償は、あまりにも現実的で大き過ぎるけれど、ここで、監督のデイミアン・チャゼルが究極の捻り技を使って、もう一度、映画を夢の世界へと引き戻す。実はそこが、思わず嗚咽させるポイントだ。もしも、ままならない人生の一コマ一コマを違うルートで辿り直すことができたら!?現実ではあり得ない願いが、映画だけに許された手法で一瞬にして叶ってしまうラストの10分は、まさに至福のひとときと言える。
若者の野心と夢が詰まった映画に栄光あれ!
チャゼルは前作「セッション」でジャズをモチーフにしたスポコン映画という新ジャンルを確立し、多くの映画賞にも輝いて一躍ハリウッドの明日を担う新鋭監督として認知された人。実は、その「セッション」は「ラ・ラ・ランド」を作るための布石としてあえて挑戦した作品であることを、監督自身が取材の席で告白している。彼は監督としてのアドバンテージなしに、フランチャイズ映画が主流の現ハリウッドで、観客を選ぶミュージカル映画など作れないことを知っていたわけで、これはクレバーな選択だったと思う。そんなミアやセバスチャンと同じ若者(チャゼルは31歳!)が放った渾身の勝負作「ラ・ラ・ランド」に栄光あれ!と、心から叫びたい!!
「ラ・ラ・ランド」2月24日(金) TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー!
配給 ギャガ
EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.
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