「ニュースを捨てる」Meta、Google、X、相次ぐ表明の理由とは?
「ニュースを捨てる」メタ、グーグル、Xが相次いでそんな姿勢を打ち出している――。
メタは9月5日、英国、ドイツ、フランスで同社のニュース専用タブ「フェイスブックニュース」を年内に廃止する方針を明らかにした。
メタはすでに同様の対応を米国でも進めている。
カナダでは、メタとグーグルはニュース使用料支払いを要求する新法制定を受け、ニュースコンテンツのブロックを打ち出している。
そしてXは8月、投稿されたリンクのプレビュー枠から、ニュースの見出しとテキストを削除して画像のみを表示する方針を表明した。
プラットフォームとメディアの、ニュース使用料の支払いをめぐる攻防が、国内外で注目を集める。
一方でプラットフォームは、「ニュースを捨てる」というカードを切り始めている。
●ニュース配信契約を終わらせる
メタは9月5日、公式サイトでそう述べた。さらに廃止の理由をこう指摘している。
メタはニュース専用タブへのコンテンツ提供に対して、メディアにニュース使用料を支払う、という「フェイスブックニュース」の取り組みを、英国では2021年1月、ドイツでは2021年5月、フランスでは2022年2月にそれぞれ開始している。
契約を締結しているのは、英国ではエコノミスト、ガーディアン、インディペンデント、フィナンシャル・タイムズ、デイリー・メール、デイリー・テレグラフ、チャンネル4ニュース、スカイ・ニュース、ハーストなど、主要メディアが並ぶ。
ドイツではディー・ツァイト、デア・シュピーゲル、フランクフルター・アルゲマイネ、アクセル・シュプリンガー傘下のビルト、ヴェルト、ビジネスインサイダ―など100を超すメディア。
フランスでも、フィガロ、レゼコー、パリジャン、リベラシオンなど100を超すメディアが対象になっている。
3カ国でのフェイスブックニュースの閉鎖は2023年12月初旬としているが、メディアとの契約期間は3年間。このため、タブの閉鎖後も、残る期間中は契約が継続されるという。
つまり、サービスは廃止しても、ニュース使用料は契約満了までメディアに支払い続けるということだ。サービス廃止への、メタの強い姿勢がうかがえる。
フェイスブックニュースは2019年10月、まず米国で開始された。だが3年後の2022年7月、契約先メディアに打ち切りを表明していた。
この時、フェイスブックの広報担当者は、こうコメントしている。
契約額は、ニューヨーク・タイムズが年額2,000万ドル以上、ワシントン・ポストが年額1,500万ドル以上。ウォールストリート・ジャーナルは年額1,000万ドル以上だったという。
※参照:Facebookがついにニュースを見限った、その3つの理由とは?(08/01/2022 新聞紙学的)
ウォールストリート・ジャーナルによれば、メタCEOのザッカーバーグ氏は、「フェイスブックやアルファベット傘下のグーグルなどのプラットフォーム上に表示されるあらゆるニュースコンテンツについて、メディアへの支払いを強制しようとする世界的な法規制の動きに失望した」のだという。
ニュース使用料支払いを後押しする新法「ニュースメディア・デジタルプラットフォーム契約義務化法」を制定したオーストラリアでは、同法成立後の2021年8月にフェイスブックニュースが開設されている。
「フェイクブックニュース」を展開していたのは米国、英国、ドイツ、フランス、オーストラリアの5カ国。
今のところ存廃が明らかになっていないのは、オーストラリア版のみということになる。
●ニュースをブロックする
2023年9月1日付のロイター通信は、メタのそんな声明を紹介している。
カナダ政府はこの日、6月に成立した「オンラインニュース法」の施行規則案を公表。メタの声明は、これを受けたものだ。
メタは同法の成立前から、フェイスブックとインスタグラムの、カナダでのニュース配信停止を限定的に実施。法成立を受けて、8月1日から国内の全ユーザーに対してニュース配信停止を開始した。
同社はオーストラリアでの「契約義務化法」成立直前にも、一時的にニュース配信停止を実施した経緯がある。
メタだけではない。
グーグルも「オンラインニュース法」成立から1週間後の6月29日、同法施行後にはカナダメディアのニュースリンクを削除する方針だとしている。
さらに、日本を含む22カ国、2,300を超すメディアが契約を結ぶニュース専用タブ「グーグル・ニュースショーケース」も終了する予定だ。カナダでは150を超すメディアと契約しているという。
カナダの法案審議でも、グーグルは限定的なニュース配信停止措置を実施していた。
同社は、これまでにも欧州で同様の措置を取ってきた。
2014年、スペインが著作権法を改正し、プラットフォームにニュース使用料支払いを罰金付きで義務化した。グーグルはこれを受け、法施行前の同年末をもって、スペイン版のグーグルニュースを閉鎖している。復活したのは8年後の2022年になってからだ。
※参照:“グーグル税”はメディアにどれだけのダメージを与えたか(08/02/2015 新聞紙学的)
このほかにも2022年12月、チェコの著作権法改正によるニュース使用料をめぐる規定が「不釣り合いに高額な罰金を科される危険性」があるとして、同法に抵触する可能性のあるニュースのプレビュー用テキストと画像、動画を、検索、ニュース、ディスカバーから削除し、見出しとリンクのみの表示にしたという。
●見出しとスニペットを排除する
Xは8月21日、そんな方針を公表した。この方針変更は、フォーチュンが8月21日付で報じ、Xが事実として認めたものだ。
Xでリンク付きニュースを投稿した場合、現状では、メインの画像とともに見出しとテキストの一部(スニペット)が、プレビュー(カード)枠に表示される。
これを今後は、見出しとテキストを削除し、画像に限って表示する方針なのだという。
この方針は、オーナーであるイーロン・マスク氏の判断であり、投稿の表示スペースの圧縮、ページビュー獲得のためのクリック・ベイト(クリック狙い)の見出しを排除する狙いがある、と説明している。
だが、ここには別の狙いがあると、フランスメディアは指摘する。
EUが2019年に制定した「デジタル単一市場における著作権指令」によって、メディアのニュース使用料の権利(著作隣接権)を明確にしたことに対して、Xがその支払いを回避しようとしている、との指摘だ。
この「デジタル著作権指令」をいち早く国内法に適用したフランスでは、グーグル、フェイスブックとも、上述のニュース専用タブなどと合わせて、メディアとニュース使用料契約を締結している。
だが、Xはその契約を締結していなかった。
フランスのAFP通信は2023年8月2日、Xがニュース使用料のための協議を拒否したとして、提訴したことを明らかにしている。
マスク氏は同日、Xでそう反論している。
プレビュー枠の見出しやテキストの削除方針は、ニュース使用料契約逃れ、とフランスメディアは受け止めている。
法的リスクが発生するなら、ニュースは削除する――メタやグーグルが掲げる対抗措置と、同様の発想だ。
●プラットフォーム依存とダメージ
メタのニュース離れは、特に加速している。
CNNは8月17日付の記事で、米大手メディアへのフェイスブックからのトラフィックの流入が30~40%という規模で減少している、との関係者の証言を紹介している。
フェイスブックなどのプラットフォームへのメディアの依存は、プラットフォームの方針が転換された際のダメージの大きさにつながる。
今まさにそれが起きている。
ロイター通信によれば、カナダ政府は、オンラインニュース法の施行によって、グーグルから年間約1億7,200万カナダドル(約190億円)、フェイスブックからは年間約6,000万カナダドル(約66億円)のニュース使用料がメディアに支払われると見込む。
両社のニュース配信停止の方針がこのまま法施行後も続けば、その胸算用は消失する。
また、ロイター通信の8月29日付の記事では、ネット調査会社「シミラーウェブ」のデータをもとに、メタがカナダでニュース配信停止を開始した8月1日以降、フェイスブックの同国での1日ごとのユーザー数(デイリー・アクティブ・ユーザー)、アプリの利用時間とも、ほぼ変化はないと報じている。
メディアのプラットフォーム依存の現状は、日本の公正取引委員会が9月21日に公表した「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」でも指摘されていた。
特に新聞、雑誌は、直接的、間接的にプラットフォームに依存するデジタル収入の割合が8割を超す、としている。
※参照:「ニュースポータルとの契約に不満」6割、なのにメディアが配信を止められないこれだけの理由(09/25/2023 新聞紙学的)
メディアが依存する巨大プラットフォームが、ニュースを捨てたら、依存しているメディアはどうなるか。
海外の動きは、日本とも地続きの問題だ。
(※2023年9月29日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)