安くて高品質、アマゾンがプライベートブランド続々投入
米アマゾンは先頃、「YouTube」に似た動画配信サービスを日本など世界5カ国で始めると発表し、米グーグルと対抗する姿勢を示したが、同社は本業の小売り事業でもライバルに対する攻撃の手を緩めないようだ。
アマゾンも“YouTube”を始める時代に、グーグルとの競争ますます激しく(小久保重信) -Yahoo!ニュース個人
ウォールストリート・ジャーナルなどの米メディアの報道によると、アマゾンはまもなく、新たなプライベートブランド(PB)を複数立ち上げる予定という。
食品、衣料品、日用品など多岐に
その内容は、ナッツ類や香辛料、コーヒー・紅茶、食用油などの「Happy Belly(ハッピー・ベリー)」、スナック食品の「Wickedly Prime(ウィキッドリー・プライム)」、洗剤などの「Presto!(プレスト)」、離乳食や紙おむつなどの「Mama Bear(ママ・ベアー)」。
これにより同社はPB事業で食品分野に初めて本格参入する。
ウォールストリート・ジャーナルによると、これらPB商品の範囲がどの程度にまで及ぶかは今のところ分かっていない。
だがアマゾンはこれまでに、パスタ、グラノーラ(朝食用シリアル)、ポテトチップス、チョコレートなどの食品、かみそり刃、芳香剤といった日用品の商標登録申請を行っている。
そして同社はこれらの新ブランド商品を今年の5月末あるいは6月初めに同社の米国eコマースサイトで販売するという。これを会員制の有料プログラム「Prime(プライム)」のメンバーに限定販売することで、同社はPrimeの拡大につなげたい考えだと、ウォールストリート・ジャーナルは報じている。
アマゾンがこうしたPBを立ち上げるのは初めてではない。
同社は2014年の12月に赤ちゃん用の紙おむつやおしりふきの「Elements(エレメンツ)」と呼ぶPBを立ち上げたが、その後もシーツやタオルなどリネン製品のブランド「Pinzon(ピンゾン)」を展開。
さらにパソコンやスマートフォンのアクセサリー製品ブランド「AmazonBasics(アマゾンベイシックス)」からは、スマートフォンケースやパソコン用マウス、乾電池など数百種類の商品を販売している。そして先頃は「Lark & Ro(ラーク&ロー)」や「North Eleven(ノース・イレブン)」といったアパレルのPBを立ち上げた。
米国のPB市場は12兆円規模
アマゾンのPB事業については、これまでも様々に報じられていた。
例えばウォールストリート・ジャーナルやシーネットなどの米メディアは昨年6月、アマゾンが商品の製造を委託するパートナー企業を探しており、すでに大手のPB食品メーカーと交渉していると伝えていた。
今回のウォールストリート・ジャーナルの記事が引用したPB製造業者協会(PLMA)のリポートによると、米国の消費者が昨年PB商品に費やした金額は1184億ドル(約12兆8700億円)で、前年から22億ドル(約2390億円)増加した。
PBをかつてのように、低品質のノーブランド商品と考える消費者は減っており、今や量販店にとって、高収益と顧客ロイヤルティ向上が見込めるビジネスになっているという。
そうした中、アマゾンはPB事業を本格展開し、利益率が高いニッチ市場で売り上げ増大を狙う。
または自社のeコマースサイトに商品を提供するメーカーよりもいち早く新商品を開発することで、同社は有利な立場に立てる可能性があると、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。
食品のPBにはリスクも伴う
一方で、自社ブランドの食品はリスクも伴うと指摘されている。
例えばアマゾンは一昨年、前述のElementsブランドで赤ちゃん用の紙おむつを販売したが翌年1月、その販売を中止すると発表した。同社はその理由について詳細を明かさなかったが、これは品質に問題があったためだと当時伝えられた。
アマゾンがElementsブランドの立ち上げに際し強調していたのは透明性の確保。原材料やその供給元、製造年月日や製造場所、推奨使用期限などの情報をアマゾンのモバイル端末用のアプリで確認できるようにし、安心安全の商品を提供すると説明していた。
今回、食品のPBを扱うことで、アマゾンにはいっそうの品質管理強化が必要になるが、同社はそれを管理体制が様々に異なるメーカー各社に依存しなければならない。消費者の健康被害に起因する商品回収は、どのようなものであってもアマゾンの企業イメージに悪影響を及ぼすだろうとウォールストリート・ジャーナルは伝えている。
(JBpress:2016年5月17日号に掲載/原題「アマゾンがプライベートブランドを拡充、いよいよ食品分野に本格参入」)