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拝啓 張本勲氏、あなたの「喝」は、パリで全仏テニスをプレーした錦織圭に届いていません

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
全仏テニスでラケットを壊した錦織。グランドスラムで初めてだった(写真/神 仁司)
全仏テニスでラケットを壊した錦織。グランドスラムで初めてだった(写真/神 仁司)

錦織圭(ATPランキング9位、5月29日付け)の2017年ローランギャロス(全仏テニス)は、準々決勝で王者アンディ・マリーに敗れて終わりを告げた。

大会前、そして大会中の錦織のフィジカルコンディションの悪さを考えれば、ベスト8は決して悪い成績ではないと個人的にはとらえている。

ただ、現地パリで取材をしていて黙認できないことがあった。

6月4日にTBS系テレビで放映された「サンデーモーニング」の「週刊・御意見番」のスポーツコーナーで、「喝でしょ。この人、よくやるよ。世界的な選手ですよ。世界に笑われますよ」という張本勲氏のコメントだ。

このコメントは、ローランギャロス3回戦で、第8シードの錦織が、チョン・ヒョン(67位、韓国)と対戦している時、第4セット0-3になった直後に、フラストレーションが頂点に達して、ラケットをテニスコートに叩きつけて壊したことを受けて、張本氏が発言したのだ。

まず、錦織がラケットを壊したことは、試合中の一時的な激情があったにせよ、マナーを重んずるテニスにおいては決して褒められた行動ではないことは間違いなく、張本氏の指摘は一理ある。

「シンプルにセットを落としたのと、2回ブレークされたので、それなりのイライラはたまっていました」と錦織は、その瞬間を述懐しただけにとどまり、弁明不足であったことは否めない。いつでも試合中には何が起こるかわからない要素はあるものだが、試合後の会見で錦織は、きちんと恥ずべき行為であったことを弁明すべきであった。錦織のトッププレーヤーとしての資質を問われていたのである。

だが、張本氏の「この人、よくやるよ」のコメントの部分には賛同できない。

私は、2001年から錦織を取材してきたが、錦織が、ラケットフレームがグニャリと曲がるほど壊すのを目の前で見たのは、今回が初めてだった。テニスの4大メジャーであるグランドスラムでラケットを壊したのは初めてだったと記憶する。

また錦織のキャリアを通じても、ラケットを壊したのは少ない。最近では2017年のATPリオデジャネイロ大会1回戦。あと、2012年ATPアカプルコ大会2回戦と2010年ATPマスターズ1000・上海大会の予選で壊したという情報もある。

つまり今回のローランギャロスも含めて、今まで錦織がラケットを折ったのは4回で、他の選手と比較しても決して多い方ではなく、張本氏の「よくやるよ」は適切な表現ではなかった。

たしかに錦織が、イライラして試合中にラケットをテニスコートに放り投げることはよくある。

だが、ラケットを壊すことと、放り投げることは、当たり前だが違いがある。選手が、ラケットを壊せば、ラケットを交換する必要が生じ、その時点で必ず主審から警告を受けるルールになっている。

そして、私がローランギャロスの現場で取材していた一人として、最も違和感を覚えずにいられなかったのは、張本氏が現場で取材しないで番組でコメントをしたことだ。

私の記憶が正しければ、張本氏は、元プロ野球選手で、現在は野球評論家であり、テニスは門外漢だ。さらに、張本氏がグランドスラムの現場で取材しているところを見たことがなければ、ATPワールドテニスツアーの大会の現場でも見たことはない。

ジャーナリズムの基本の一つが、真実を伝えることであることは言うまでもない。その意味で、張本氏が現場に来て取材することなく、テレビ局のスタジオ内だけで、錦織に関して事実と異なる内容をコメントしたことは決して容認されるべきではない。そもそも取材せずに話した張本氏のコメントには説得力がなく、一体どんな価値を見出せるというのだろうか。

そんな東京で発せられた張本氏の「喝」は、パリでプレーしていた錦織には届いていない。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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