ボーイング737MAX トランプ氏がすぐに運航停止に踏み切らなかったワケ
エチオピア航空の墜落事故を受け、すぐに30カ国以上がボーイング737MAX8を運航停止にしたが、トランプ氏も、ようやく、同機の運航停止に踏み切った。
なぜ、トランプ氏はすぐに運航を停止させなかったのか?
背後には、トランプ政権とボーイング社との間に深いつながりがあることが指摘されている。
12日(米国時間)朝、トランプ氏は「飛行機は飛ぶにはあまりに複雑になりつつある」とツイートして航空機の安全性を疑問視したが、この後、ボーイング社CEOのデニス・マレンバーグ氏はトランプ氏に電話し「737MAXは安全なので、運航停止にする必要はない」と伝えたと言われている。マレンバーグ氏は、いわば、自ら、トランプ氏に対してロビー活動のようなことをしたのだ。そんなやりとりが影響を与えたのかはわからないが、昨日の時点では、FAA(米国連邦航空局)は運航を続行すると発表していた。
トランプ政権に入り込む
トランプ氏は、今回の件によらず、マレンバーグ氏とは以前から連絡を取り合っていた。特に、次に購入を考えているエアフォースワンの価格が高過ぎることから、個人的に同氏に価格の値下げ交渉を行っていたという。
マレンバーグ氏自身、先月、ラジオのインタビューで「トランプ氏とは連絡を取り合っていた。彼とは違う考えのこともあり、すべてにおいて同じ考えだったわけではない」と話している。
トランプ氏にとってボーイング社は、税制改革成功の象徴的存在でもあった。2018年3月、トランプ氏が、大型減税による税制改革の効果をアピールしたのは、多くの従業員を雇用したボーイング社のセントルイス工場だったのだ。
ボーイング社はトランプ政権にも入り込んでいる。国防長官代行のパトリック・シャナハン氏は、国防省入省前、ボーイング社に31年間勤務、ボーイングミサイル防衛システムズでは副社長に就任し、787ドリームライナーのゼネラルマネージャーも務めていた。
また、ボーイング社は2月、元国連大使のニッキー・ヘイリー氏を取締役に選任する議案を4月29日に開催予定の株主総会に提出すると発表したが、ヘイリー氏は今もトランプ政権には近いところにいると言われている。
ボーイング社のセールスマン
トランプ氏はボーイング社の航空機や戦闘機を同盟国などに売る”セールスマン”的役割も果たしてきた。昨年は、クウェートのサバハ首長との電話会談で、100億ドル(約1兆円)規模に上るボーイング社の戦闘機を購入するよう圧力をかけた。
先日の米朝会談の際にハノイを訪問した際にも、ベトナムの航空会社がボーイング社の航空機を大量に発注したことを自負している。バンブー・エアウェイズは787-9型機10機約30億ドル(約3300億円)相当を、ベトジェットは運航停止となった737MAX100機約127億ドル相当を購入する契約に調印したのだ。
何より、ボーイング社の航空機を中国に売ることは、トランプ氏にとって、米中貿易摩擦を解消するためにも重要だ。昨年9月のボーイング社の予測によれば、中国は同社から7690機を新規購入する見込みだ。マレンバーグ氏も「中国がアメリカの航空機を購入すれば、現在交渉中の貿易問題の一掃に貢献する」と話していたという。
アメリカ経済の屋台骨
また、軍需産業を支えている米国第2位の防衛機器大手ボーイング社はアメリカ経済の大きな屋台骨である。トランプ氏は、大型減税を行ってアメリカ経済を回復に導いたことを何よりも自負しているが、2回目の米朝会談が合意に至らず、外交政策の失敗が批判されたばかりなだけに、アメリカ経済だけは失速させたくないところだろう。そのためには、アメリカ経済への影響力が大きいボーイング社の株価下落を防ぎたかったはずだ。
トランプ政権とボーイング社のキャピタリズムをめぐる深い繋がり。
しかし、30カ国以上が運航を停止し、民主党議員だけではなく、共和党のテッド・クルーズ議員なども737MAXの運航停止を訴えるなど、内外から来るプレッシャーにはトランプ氏も勝てなかったようだ。何より、乗客や乗務員たち、そしてアメリカ国民の「空の安全」に対する不安の声が高まっていた。「国境の壁」で国民の安全を守ると豪語しているトランプ氏としては、キャピタリズムの前にひれ伏して空の危険から目を背けることはできなかったのかもしれない。