「アメリカが台湾人の血で作ったウイルスで中国人を絶滅させる」という偽情報が流れたワケ?
「台湾の医療機関が台湾人の血液をアメリカに提供し、アメリカがウイルスを作り中国人を絶滅させる」といった“ニュース”がSNSで流れ、台湾で注目されている。台湾メディアは、これはフェイクニュースと断じているが、荒唐無稽なウソが流れるにはワケがある。
台湾人の血を使う生物兵器計画?
SNSで流れた“ニュース”とは、台北市内にある病院が「15万人分の血液を提出するよう割り当てられた! 台湾精準医療計画は、アメリカのP4実験室に協力し100万人の台湾人の血液サンプルをアメリカ在台湾協会に引き渡し、ウイルスを製造して中国人を絶滅させる」というもの。
台湾精準医療計画とは、2019年から台湾総統府直轄の中央研究院が台湾の複数の医療機関と共同で進めている研究計画。遺伝子情報を先進医療に利用することなどを目的としている。
アメリカ在台湾協会とは、正式な国交の無いアメリカが台湾に大使館代わりにおいている施設。事実上のアメリカの政府機関だ。
同計画を進める中央研究院は、8月4日にこの“ニュース”が虚偽であるとする声明を出し、同計画の本来の目的を改めて説明。台湾人の資料や血液が海外に流出することはないと強調し、「同計画がアメリカのP4実験室に協力云々は全て作り話」と完全否定した。
15万人の血液提供を割り当てられたという病院も、8月5日に声明で「全くの嘘であり荒唐無稽」と“ニュース”の内容を否定。同院と台湾の公衆衛生医療を誹謗するものとして、捜査機関に捜査を依頼したと明かした。
生物兵器騒ぎの影に中国?
台湾メディアやファクトチェック団体は、結論としてこの“ニュース”は虚偽であり、完全なるフェイクニュースとして扱っている。
実は、台湾の“生物兵器騒ぎ”は先月もあった。台湾の新聞「聯合報」が、「アメリカが台湾国防部傘下の研究所に生物兵器の研究開発を秘密裏に進めるよう促している」などという内容を報じたのだ。だが、台湾の国防部や外交部はすぐに「報道の内容は虚偽である」と説明、誤報であると断じた。
6日付の「自由時報」は、民進党の立法委員(国会議員に相当)の話として、こうした偽情報の出所は中国共産党の疑いがあり、台湾とアメリカとの間の信頼関係を傷つけることを狙っている可能性があるという見解を紹介している。
中国が台湾内外の世論に影響を与える「認知戦」を仕掛けているというのは台湾では常識となっている。中国が台湾統一を見据え、台湾内に有事の際に「アメリカが助けてくれないのではないか」というアメリカに対する懐疑論を蔓延させることもその目的の一つとみられている。