ガザで使用されたDIME(高密度不活性金属爆薬)について詳しい補足説明
ガザでイスラエル軍が使用した「無数の細かい金属片を入れ、殺傷能力を高めた砲弾」と伝える報道がありましたが、しかし該当する兵器の設計意図や立ち位置が現実の扱いと掛け離れている内容のため、当記事では補足説明を行います。
いくつか矛盾した証言もありますが、同様の兵器が2008~2009年のガザ紛争「オフェレット・イェツカー作戦(キャスト・レッド作戦)」でイスラエル軍による使用が報告されているという点から見て、この兵器の正体はアメリカ軍が開発したDIME(高密度不活性金属爆薬)だと推定されます。実は2006年頃から使用報告があり、20年近く前から知られている兵器です。この「特殊兵器」がDIMEである場合は、
- 金属片ではなく金属粉末(タングステン粉末)
- 弾殻破片を無くし危害半径を小さく抑える目的
- 4000人の子供が手足切断は通常の爆弾を含めた全体の被害数
DIME(高密度不活性金属爆薬)について
- DIME(Dense Inert Metal Explosive、高密度不活性金属爆薬)
- MBX(Multiphase Blast Explosive、多相爆発爆薬) ※DIMEの別名
- FLM(Focused Lethality Munition、集中致死性弾薬) ※DIME搭載SDB
- SDB(Small Diameter Bomb、小直径爆弾) ※GBU-39A/B、約130kg
小直径爆弾(SDB)のGBU-39A/BにDIME爆薬を搭載した派生型「SDB FLM(GBU-39A/B FLM)」はSDBの鋼鉄製の弾殻をカーボン複合材に置き換えてDIME爆薬を搭載しています。これにより「SDB FLM」は弾殻破片がほとんど発生せず、市街地で使いやすいように危害半径を小さくする目的で設計されています。
爆弾の効果は「爆風圧」と「弾殻破片」に大別されます。そして危害半径は爆風圧よりも弾殻破片の方が遠くまで届きます。鋼鉄製の弾殻をカーボン製にすれば爆発時に有効な破片がほとんど発生しません。爆発してもカーボン複合材は細かい繊維となり燃え尽きて消失していきます。
しかし単に爆風圧のみでは打撃力が少なくなり過ぎて困るので、DIMEでは爆薬だけでなく金属粉末を入れておきます。小さく細かい金属粉末は爆発飛散しても一定の短い距離を越えると急速に速度を失います。限定された狭い範囲で打撃力を保ちつつ遠くまでは影響を及ぼさないという兵器です。
不活性金属というのはタングステンは粉末状にしても燃え難いからです。実は鉄粉やアルミ粉は激しく燃焼していまいます。劣化ウランも粉にすると燃えやすく不適当で、燃え難く重い金属としてタングステンの粉末が選ばれています。
危害半径の小さなDIMEによる攻撃は死傷者数を確実に減らします。ただしDIMEの攻撃を生き残った人は治療が困難な重金属の粉末が体内に残ることになります。しかし、もしこれが同じ位置で起爆したのが通常の爆弾であったならば確実に死んでしまっていたでしょう。
つまり人道目的で開発されたDIMEを非人道兵器だと糾弾して使用を止めさせた場合は死傷者数が確実に増えることになります。治療困難な傷が非人道的であるとしても、確実に死ぬのと比べてどちらがマシなのかという選択を迫られることになります。
【参考資料】
- Dense Inert Metal Explosive (DIME) | GlobalSecurity.org
- BLU-129/B – Very Low Collateral Damage Weapon (VLCDW) | GlobalSecurity.org
- GBU-39A/B FLM Bomb | Air Force Armament Museum Foundation
- This Is The USAF’s “Safer” Carbon Fiber Bomb That’s Also Extraordinarily Expensive | The War Zone
※「SDB FLM」と同じコンセプトのVLCDW(Very Low Collateral Damage Weapon、超低付随被害兵器)というカーボン製弾殻の爆弾もある。ただし通常の鋼鉄製弾殻の40倍もの製造コストが掛かってしまう。
散弾を内蔵した兵器:そもそも「特殊兵器」ではない
もう一つの候補としては単純に散弾を内蔵した兵器の可能性です。戦車砲用のM1028キャニスター弾やM329 APAMクラスター弾、M339榴弾、DM11榴弾。クレイモア指向性地雷、DM51手榴弾。他にもHIMARS多連装ロケット発射機用のM30A1誘導ロケット弾など沢山あります。またドローン用小型爆弾やクラスター子弾に破片強化用として散弾を内蔵するケースもあり多種多様です。
これに該当するイスラエル軍の国産装備としてはM329やM339があります。またドイツから購入していればDM11も使用している可能性があります。
しかし榴弾に散弾を追加した破片強化用の場合は、そもそも「特殊兵器」とは言いません。昔からよくある一般的な設計の兵器です。保有も使用も違法ではありません。破片強化あるいは調整破片という扱いになります。これを問題のある「特殊兵器」とレッテルを貼る発想は理解できません。
前述のDIMEならば「特殊兵器」と呼べますが、ただの散弾や調整破片を「特殊兵器」と呼ぶことは想像の埒外です。古くから指向性地雷や手榴弾に鉄球が仕込まれているものは珍しくないのです。
最近の有名な兵器を例に出すとアメリカ軍のHIMARS用のM30A1誘導ロケット弾は、クラスター弾を廃棄するための代替手段として用意された新型弾頭(代替弾頭)を搭載していますが、これは目標の直上の空中で炸裂し約18万個ものタングステン散弾を撒き散らします。既にウクライナに供与されて実戦で使用されています。これが問題視されたことはありません。
ウクライナ軍がタングステン散弾兵器を使用するのは問題ないが、イスラエル軍がタングステン散弾兵器を使用するのは問題だという理屈は成り立ちません。問題があるとすれば市街地で市民の巻き添えを気にせず使用したかどうかであり、それは兵器の種類の問題ではなく、軍隊の使用意図の問題である筈でしょう。
ウクライナ軍がHIMARSからM30A1ロケット弾を使用して、ロシア軍のBM-21グラド多連装ロケットを撃破した様子
※M30A1(タングステン散弾空中炸裂弾頭型)、GMLRS(HIMARS/MLRS用の誘導ロケット弾の総称でM30/M31を指す)、AW(代替弾頭の略。Alternative WarheadないしAlternate Warheadの頭文字)
民間人に危険をもたらすクラスター爆弾・砲弾を代替する新型弾薬:米陸軍 New munitions replace cluster bomb rounds that pose danger to civilians | U.S. ARMY
※M30A1の代替弾頭はクラスター弾を廃棄した代わりとなるべく、空中炸裂により18万2千個のタングステン・ボール散弾を広範囲に撒き散らす。しかし成形炸薬を内蔵したDPICM(対人・対装甲クラスター子弾)と異なり対装甲貫通力が無く、軟目標にしか通用しない。
DM11戦車砲弾。榴弾の前方に破片強化の散弾を追加した設計
※ドイツのラインメタル社製DM11戦車砲弾。アメリカもMk324の名称で採用。榴弾(HE)であり、成形炸薬弾(HEAT)よりも炸薬量が2倍ほど多い。またプログラマブル信管を搭載し空中炸裂が可能。砲弾の前方のみタングステン・ボール散弾(約1000個)を搭載しているのは補助用としての設計になる。砲弾の弾殻破片は側面やや斜め前方に高密度になる傾向があり、つまり真正面は弾殻破片の密度が低くなるので、この弱点を埋める目的で散弾が追加されている。イスラエルElbit社製のM339戦車砲弾も同様の設計。
M329 APAMクラスター弾。6個の子弾に立方体の散弾(調整破片)
※イスラエルIMI社のM329 APAMクラスター戦車砲弾は6個の子弾を内蔵し、それぞれの子弾の側面に小さな立方体の調整破片が内蔵されている。広範囲に散開した歩兵を纏めて制圧する兵器。親弾はプログラマブル信管を搭載し空中で各子弾を放出する。この小さな立方体の調整破片はイスラエル国産の他の兵器、スパイク対戦車ミサイルやミホリット空対地ミサイル(無人攻撃機用)にも採用されていると推定されており、特殊兵器ではなく一般的なもの。
M1028キャニスター弾(戦車砲用の巨大な散弾)
M1028開発時の試験発射(1分19秒以降に多数目標同時撃破)
※米ジェネラル・ダイナミクス社のM1028キャニスター弾は戦車砲用の巨大な散弾で、榴弾の強化ではなく散弾そのもの。直径9.5mmのタングステン・ボール散弾を砲口初速1410m/sで約1100個発射する。対北朝鮮用として在韓米軍の要望で開発された。