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動画やアプリのだらだら利用は乳幼児に悪影響?  親子で取り組みたい「終わりにする練習」

森山沙耶ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士
(写真:イメージマート)

子どもにせがまれて動画を見せたり、スマホのアプリで遊ばせたりする機会は多いと思います。そのようなとき、求められるままに動画やアプリを使わせて大丈夫なのかと不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、特に乳幼児の保護者に向けて、育児に動画やアプリなどインターネットを取り入れる際の注意点と取り入れ方について解説します。

■乳幼児にインターネットを利用させる際の注意点

近年、乳幼児のインターネット利用について、「低年齢化」「長時間化」していることが危惧されています。

インターネットなど電子メディアに長時間接触することによる影響として、例えば、東北大学加齢医学研究所など(1,2)により、子どものゲームの利用時間の増加や頻回なインターネット利用が言語機能の低下と関係があることが報告されています。そのほか視力の発達への影響、体力・運動能力への影響などさまざまな側面で指摘されています(3)。

日本小児科医会では、「スマホに子守をさせないで」「遊びは子どもの主食です ~スマホを置いて ふれあい遊びを~」と、ポスターやリーフレットなどで乳幼児の保護者に向けての啓発活動も行なっています(4)。

「スマホに子守りをさせないで」リーフレット(公益社団法人 日本小児科医会HPより)
「スマホに子守りをさせないで」リーフレット(公益社団法人 日本小児科医会HPより)

また、世界保健機関(WHO)では、子どもの健康な発育のために「5歳未満の子どものスクリーンタイム(テレビやスマホなどの視聴時間)」についての目安を示しています(5)。

年齢ごとの目安については、以下のとおりです。

スクリーンタイム(1日の推奨時間)

・1歳未満:推奨しない

・1歳児:推奨しない

・2歳児:1時間以内

・3〜4歳児:1時間以内

この目安を見て、「ウチの状況はおかしいかもしれない」と感じてしまう保護者もいるかもしれません。

そういう方は、こちらはあくまで参考として捉えてもらい、「子どもに使わせ過ぎているかも?!」と感じた場合には、まずは利用時間や頻度を見直してみることから始めてみてください。「必ずこの目安を守らなければならない」と考えてしまうと、保護者も子どもも息苦しくなってしまうだけです。下記の取り入れ方など参考にしながら、少しずつ出来ることから試していきましょう。

■家庭内でのインターネットの取り入れ方を考えよう

利用時間やシチュエーションを限定させてみよう

保育園が休園になったり、子育てに協力してくれる人が身近にいなかったりという状況では、子どもの面倒は家でみるしかありません。家事をしている間はもちろん、最近ではリモートワークで会議や作業に集中したい時など、動画やアプリに頼らざるを得ない場合も多いでしょう。

そういう時、例えば料理を作る間や会議中など、時間やシチュエーションが特定できるのであれば、ある程度は利用も許容していいのではないでしょうか。家事や仕事がままならなくなると、保護者自身も心の余裕がなくなり、子どもとじっくり向き合い、遊ぶ時間を取ることも難しくなるかもしれないからです。

本当にインターネットでないといけないのか?他の代替手段も考えてみる

YouTubeのような動画サイトの場合、視聴者の興味関心に合わせた動画が次々に表示されるため、子どもに区切りをつけさせるのが難しいと思います。しかし、動画やゲームなどは「やればやるほど、もっとやりたくなる」という特性を持っています。子どもが求めるままに利用させてしまうと、長時間の利用が定着してしまい、依存的な状態になる可能性があるので注意が必要です。

どうしても子どもに静かに過ごしてほしいという場合であっても、例えばインターネットの動画ではなく録画したアニメを見せる、スマホの子ども向けゲームではなくパズルやブロックで遊ばせるなど、インターネット以外の何かに置き換える工夫を試みるようにしてください。

親子で「終わりにする練習」をしましょう

子どものインターネット利用に関する相談を筆者が受ける中では、「終わりにしようとすると泣くのでやめられない」という声が多く聞かれます。

対処法としては、動画などを見る前に、「見る時間」や「本数」を決めておくことをおすすめしています。動画などを見ている間は、「あとどれくらいで終わりか」を確認するようにしましょう。さらに終わる時間になったら、一緒に終了ボタンを押してあげることで、「自分で終われた!」という感覚を持てるような工夫をしてあげてください。最後に、見ることを一緒に終われたときには、たくさん褒めてあげましょう。終われたことに対して十分に褒めてあげることで、決めた時間に終わることをポジティブな経験として学習することができるからです。

それでも続きを見たがって泣いてしまうようなとき、「泣かないの!」という言葉かけは、火に油を注ぐような結果となり、効果的ではありません。だからといって、見続けさせてしまうのはもっといけません。子どもは、それまで夢中になって見ていた動画やアプリが目の前からなくなると、その瞬間はひどく感情的になります。ただ、それはあくまで一時的なものに過ぎません。激しく泣く子どもを前にすると、保護者も戸惑ってしまうとは思いますが、慌てずゆったりと構えるようにしましょう。「もっと見たかったよね」と、気持ちに寄り添う言葉を掛けながら、子どもの感情が自然に落ち着いてくるのを待ってみてください。散歩に行く、別の興味関心のある遊びに誘うなど、うまく気持ちを逸らしてみるのも良いでしょう。

子どもにとっては、自分のやりたい、したい!という気持ちをコントロールすることは、まだまだ難しいことなのです。続きが見たくなるような動画やスマホのアプリなどなら、尚更です。だからこそ、子どもが少しずつでも自分の気持ちに折り合いをつけていけるよう、ゆるやかに見守る姿勢も大切となるのです。

〈引用・参考文献〉

(1) Takeuchi, H., Taki, Y., Hashizume, H., Asano, K., Asano, M., Sassa, Y., Yokota, S., Kotozaki, Y., Nouchi, R., & Kawashima, R. (2016). Impact of videogame play on the brain’s microstructural properties: Cross–sectional and longitudinal analyses. Molecular Psychiatry, 21(12), 1781–1789.

(2) 東北大学加齢医学研究所「頻繁なインターネット習慣が小児の広汎な脳領域の発達や言語性知能に及ぼす悪影響を発見」https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20180710_04web_internet.pdf

(3) 中島匡博 (2018). メディア・スマホと「三つ子の魂」幼児の成長と発達に与える影響. 小児保健研究, 77(6), 586-589

(4) 公益社団法人 日本小児科医会「子どもとスマホ」https://www.jpa-web.org/information/sumaho.html

(5) World Helth Organization「Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age」

https://apps.who.int/iris/handle/10665/311664

ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i 臨床心理士

臨床心理士、公認心理師、社会福祉士。一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事。東京学芸大学大学院教育学研究科修了後、家庭裁判所調査官を経て、病院・福祉施設にて臨床心理士として勤務。2019年 独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターにて「インターネット/ゲーム依存の診断・治療等に関する研修(医療関係者向け)」を修了後、同年 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)を立ち上げ。現在はネット・ゲーム依存専門のカウンセリングや予防啓発のための講演・セミナー活動を行う。2021年から特定非営利活動法人ASK認定 依存症予防教育アドバイザー。

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