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プレーオフ争いの道のりを整理してみた。/リーグワンD1第11節ベスト15【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
サンゴリアスとの激戦を制したイーグルス。球を持つのはマフィ(写真提供=JRLO)

 国内リーグワン1部では、上位4傑からなるプレーオフ進出争いが激化。12チーム中3~5位までの勝ち点が6以内、4~8位までの勝ち点が10以内と拮抗している。

 3月下旬にあったシーズン最後の休息週を経て、4月6、7日の第12節以降は勝負の5連戦に挑む。シーズン中に2巡あるうちのふたつめにあたる、同じカンファレンス内(12チームがカンファレンスA、Bにわかれている)での対戦が続く。

「リーグの競争力の高さ(の表れ)です。接戦になったのも驚いていない」

 東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダーがこう話したのは3月24日。東京・秩父宮ラグビー場でのことだ。

 この日は、今季最後の交流戦(異なるカンファレンス同士の対戦)にあたる第11節に臨んでいた。

 12チーム中10位だったリコーブラックラムズ東京には、40―33と辛勝。一時は、2人の一時退場者を出し33―33と同点とされていた。今季15年ぶり開幕8連勝などで話題のクラブは、翌週に組まれた休息期間を前に学びを得たと言える。

 秩父宮では前日にもクロスゲームがあった。12チーム中5位と、2年連続プレーオフ進出へ切迫した状況下にある横浜キヤノンイーグルスが、同3位の東京サントリーサンゴリアスに37―35と勝った。

 前半を10―35と大きくリードされながら、じりじりと迫って逆転した。おとり役を絡めた攻め、その日に効いたモールを多用してエリアと得点機をもぎ取る判断…。かような、組織としての積み上げが活きた。

 就任4年目の沢木敬介監督はこうだ。

「目の前の試合を1試合ずつ勝っていく。きょうは、その第一難関を突破できた。また次に向けて、しっかり準備していかなきゃいけない」

 コベルコ神戸スティーラーズとの第6節、クボタスピアーズ船橋・東京ベイとの第10節といった注目カードを僅差で落とし、ブレイブルーパスには第7節で7―27という最終スコア以上の凄みを示されて完敗。サンゴリアス戦で勝負強さを取り戻して残り5試合を見据えられることに、やや安堵したか。

 シーズン途中に大駒を怪我で欠いたイーグルスは、そのひとりであるジェシー・クリエルは終盤戦での復帰へ再調整中だと説明。ブレイブルーパス戦前に「何かを変えなければ」(チーム関係者)と緊急補強のローハン・ヤンセ・ファンレンズバーグも、持ち前のラン、タックルの力をクラブのプラットフォームにシンクロさせつつある。上昇カーブを描きそうではある。

 そのイーグルスにとって順位上の障壁となっているのは、現在4位のスティーラーズ。こちらもシーズン中の進歩がみられる。

 ニュージーランド代表81キャップで昨年の世界最優秀選手であるアーディ・サヴェアら、他クラブがうらやむタレントを擁するスティーラーズ。今季からデイブ・レニーヘッドコーチが就任し、「昨季9位のチーム。成長させなくてはいけない点はたくさんある」。戦力の最適化のために厳格さを打ち出す。

 第11節ではライナーズを60―17で制した。象徴的だったのは69分頃。ハーフ線付近右のラインアウトでミスを犯し、こぼれ球を自陣深くに蹴り込まれた時のことだ。

 そのまま相手にボールを拾われたら失点というシチュエーションにあって、大きく駆け戻ったウイングの松永貫汰が捕球し、その地点より駆け上がる。

 その周りへ走っていたセンターのラファエレ ティモシーへキックパス。スティーラーズの継続はライナーズのペナルティーを引き出した。

 そうして敵陣ゴール前に進んだ71分、トライを決めた。

 自分たちのミスで迎えたピンチを、自分たちのハードワークと判断で自分たちのスコアにコンバージョンできた。

 未勝利のチームから22点リードのタイミングだったとはいえ、戦力十分のクラブが戦力の有無を問わない類の献身を示したのは確か。そもそも我慢比べの時間帯には、自陣の深い位置で堅陣を張ってもいた。

 さらにさかのぼって第10節では、優勝候補の埼玉パナソニックワイルドナイツに対して横一列の防御ラインを崩さずに保つシーンを多く作った。決定機を逃したのが響き18―28と惜敗も、序盤の5試合の頃と異なる風情を醸した。

 段階的に強化する算段だったなか、1年目にあたるシーズンの終盤にきて属人的でないよさを示しつつあるのだ。

 特定の主力選手が全て怪我なくプレーするのなら、すでに対戦を終えたチームにとっては幸運で、これから対戦しなくてはならないチームにとっては厄介な存在となりうる。

 スティーラーズはサンゴリアス、ブレイブルーパスといった上位陣と同じカンファレンスAにいる。1順目ではこの2カードを打ち合いの末に黒星を喫しているが、今度は違う姿を見せられるか。

 同じ組には現在7位の静岡ブルーレヴズもいて、大胆なアタックが機能し出している。カンファレンスBのイーグルスが最終節で首位のワイルドナイツとぶつかるのに対し、スティーラーズはタイトなロードを歩むこととなる。

リーグワン ディビジョン1 第11節 結果

クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 22―55 埼玉パナソニックワイルドナイツ

静岡ブルーレヴズ 24―8 トヨタヴェルヴリッツ

東京サントリーサンゴリアス 35―37 横浜キヤノンイーグルス

東芝ブレイブルーパス東京 40―33 リコーブラックラムズ東京

三重ホンダヒート 26—31 三菱重工相模原ダイナボアーズ

コベルコ神戸スティーラーズ 60―17 花園近鉄ライナーズ

リーグワン ディビジョン1 第11節 私的ベストフィフティーン

1,茂原隆由(静岡ブルーレヴズ)…75分間プレー。一連の流れで何度もボール保持者となったり、鋭い出足のタックルでゲインラインを封鎖したり。スクラムは序盤こそ角度をつけられたと判定されて苦しむも、徐々に微修正。フッカーの日野剛志らとの共同作業で、組み始めから自分たちの型を作れるようになればプレッシャーをかけられた。

2,中村駿太(横浜キヤノンイーグルス)…前半10分頃に自陣深い位置のスクラムで反則を誘い、次のラインアウトでは跳躍を伴わないサインプレーでスコアをおぜん立て。フィールドでは終始、鋭いタックル、ジャッカルを重ねた。

3,具智元(コベルコ神戸スティーラーズ)…スクラムは優勢。突進、タックルを繰り出せば当たり勝った。

4,フランコ・モスタート(三重ホンダヒート)…献身的にタックルを重ね、要所でラインアウトスティールを決めた。ゲインライン上で球を持てばブレイクダウンの裏側へ出る推進力を示す。

5,ハリー・ホッキングス(東京サントリーサンゴリアス)…タックル、ブレイクダウンへの絡みで存在感を発揮。相手が大外まで展開し、中央側へ折り返した際の接点でよく球を奪った。

6, 徳永祥尭(東芝ブレイブルーパス東京)…後半開始早々、防御ラインに人数が足らないと見て素早く穴を埋めてタックル。その約5分後には抜け出す相手に反応して自陣深い位置の危険なエリアをカバー。

7, 山本凱(東京サントリーサンゴリアス)…防御を突き破るランに力強いタックルを連発。

8,アマナキ・レレイ・マフィ(横浜キヤノンイーグルス)…再三のボールキャリーでゲインラインをこじ開け、71分には防御を引き寄せながらのパスで貴重なトライをおぜん立て。1点差を追う79分には、鋭いジャッカルで相手の反則を誘発。その向こう側に、ラストワンプレーでの逆転ペナルティーゴールがあった。

9,小山大輝(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…緩急をつけ試合を制御するなか、接点の脇からパスダミーを交えてのランを繰り出した。

10,松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…勝ち越した直後の前半17分頃、自陣深い位置で相手の攻めを読み切って好タックル。味方のジャッカルによるペナルティーキックを誘い、連続得点のきっかけを作った。以後は攻撃方向に大きく回り込む動き、防御を引き寄せながらのパス、着実なタッチキックで攻防を引き締める。

11,松永貫汰(コベルコ神戸スティーラーズ)…抜け出した同僚をサポートすれば、その折にできたスペースを端的にえぐる。いざ相手に捕まっても、味方がサポートしやすい形のラックを形成。複数の防御に囲まれても細やかなフットワークを刻んでボールキープ。499,分には敵陣ゴール前左端で味方のキックパスをもらうや、内側から迫ってきたタックラーを内側方向へのステップでかわしてフィニッシュ。決定力が光った。 

12,ダミアン・デアレンデ(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…防御の隙を突いてビッグゲイン。そのままフィニッシュして勝ち越したのは14分だった。

13,ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…快足を活かしてスペースを切り裂いた。

14,キーガン・ファリア(静岡ブルーレヴズ)…右大外で待ち構えてパスを受け、ペナルティートライを誘ったのは5分。自らトライを決めてから迎えた55分頃には、自陣の深い位置で好タックル。エリアゲームでも好キックとカバーを重ねた。

15,アイザック・ルーカス(リコーブラックラムズ東京)…ギャップのなさそうなエリアも鋭くラインブレイク。大量ビハインドを背負いながら一気に追い上げた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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