日本アカデミー賞の装いを総チェック クラシックを今っぽく 透け服やスリット入りも
「第47回日本アカデミー賞」の授賞式ではクラシックでオーセンティック(正統派)な装いが目立ちました。流行に左右されない「タイムレス」や、落ち着いた品格ルックが主流に。主張を抑えた「クワイエット・ラグジュアリー(Quiet Luxury)」のトレンドが背景にあります。
その一方でシアー(透ける)やスリット、きらめきパーツなどで華やぎを添える、セレモニーならではの演出も。おしゃれのコツを知る俳優たちの着こなしエッセンスは私たちのコーディネートにもお手本にできそうです。
優秀主演女優賞は綾瀬はるかさん(『リボルバー・リリー』)、安藤サクラさん(『怪物』)、杉咲花さん(『市子』)、浜辺美波さん(『ゴジラ-1.0』)、吉永小百合さん(『こんにちは、母さん』)が選ばれました(50音順)。
■「シアーとキラキラ」をエレガントに取り入れて
最優秀主演女優賞を受賞した安藤サクラさん(『怪物』)は足元に深いスリットを入れて、あでやかな女優感を印象づけました。助演とのダブル受賞で、円熟期を証明しています。黒ドレスはシックでありながら、実は手仕事技が施された緻密なデザイン。透け感があるシアー素材はトレンドを押さえた装いです。きらめきビジュウとフラワーモチーフが優雅な雰囲気を醸し出しています。シルエットは縦長で落ち着いたムードでありつつ、両耳にたくさんのイヤーカフを重ね付け。エレガンスの中にしっかり自分らしさを織り込みました。
■「シンプル×エッジィ」 王道アイテムにひねりをプラス
綾瀬はるかさん(『リボルバー・リリー』)はワンショルダーの白シャツルックを披露。凜としたシャツ姿に左右アシンメトリー(非対称)の肌見せが意外性を加えました。ボトムスは黒のハンサムなパンツで合わせて、フェミニンとマスキュリンをミックス。シンプルを裏切るようにエッジを効かせるのは、モード界から提案されている新スタイリングです。
着物姿だったのは杉咲花さん(『市子』)。若々しい振り袖で、フレッシュな着映えに仕上げています。浜辺美波さん(『ゴジラ-1.0』)は動くたびに透かしレースの隙間からボディの輪郭がほのかにのぞく装いです。立体感のある花モチーフが手仕事技やヴィンテージテイストを感じさせます。ロマンティックな雰囲気を帯びながら、首元は詰まっていて、半袖でストンとしたシンプルなシルエットという、異なる表情を宿した装いです。吉永小百合さん(『こんにちは、母さん』)は大女優らしいブラックのロングドレスに身を包みました。シルバーのストライプがほのかにきらめき、ほとんど素肌を見せない品格スタイリングです。
■正統派の装いを自分らしくアレンジ
優秀主演男優賞は阿部サダヲさん(『シャイロックの子供たち』)、神木隆之介さん(『ゴジラ-1.0』)、鈴木亮平さん(『エゴイスト』)、水上恒司さん(『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』)、役所広司さん(『PERFECT DAYS』)が受賞しました(50音順)。
最優秀主演男優賞の役所広司さん(『PERFECT DAYS』)はベーシックなタイドアップ姿ですが、抜かりのない着こなし。レッドカーペット慣れした風格を漂わせていました。
優秀主演男優賞は5人全員が白シャツに黒スーツ(タキシード含む)のオーソドックスな出で立ち。賞の格付けにふさわしい正統派のチョイスです。
阿部サダヲさん(『シャイロックの子供たち』)はベスト付きのスリーピースで、特大サイズの蝶ネクタイにウィットを込めました。シャツのボタンは黒です。神木隆之介さん(『ゴジラ-1.0』)のジャケットはVゾーンが深め。縦長感が強まって、一段とクールに仕上がっています。
長身の鈴木亮平さん(『エゴイスト』)は体格に映える、ウエストを軽く絞ったダブルブレストジャケットを精悍に着こなしました。水上恒司さん(『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』)は蝶ネクタイではない黒系ネクタイをワイドスプレッド気味の白シャツに締めて、おしゃれな遊び心を寄り添わせています。
■クラシック感や伝統美、職人技をモダナイズ
優秀助演女優賞は安藤サクラさん(『ゴジラ-1.0』)、上戸彩さん(『シャイロックの子供たち』)、永野芽郁さん(『こんにちは、母さん』)、浜辺美波さん(『シン・仮面ライダー』)、松坂慶子さん(『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』)が選ばれました(50音順)。
最優秀助演女優賞を受賞したのは、主演とのW受賞となった安藤サクラさん(『ゴジラ-1.0』)。上戸彩さん(『シャイロックの子供たち』)はブラックドレスをチョイス。裾が優美に広がったチュールがミルフィーユ状に重ねられたような、手仕事技を感じさせるロングドレスです。肩が全部出るベアショルダー。1本だけのショルダーストラップが斜めに走ったディテールがアクセントになっています。
グリーンにつやめく、クラシカルな五分袖ドレスを着たのは永野芽郁さん(『こんにちは、母さん』)。ウエストに共布のベルトのような飾りパーツがあしらわれて、凜としたあでやかさを演出。起伏を抑えたミニマルなフォルムがノーブルな印象を強めています。浜辺美波さん(『シン・仮面ライダー』)は上記で解説した通り。大物俳優の松坂慶子さん(『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』)は着物で登場。赤紫系の渋い色味に、まばゆい帯を締めて、風格と伝統美を印象付けました。
■ブラックフォーマルに新感覚のバランス
優秀助演男優賞は磯村勇斗さん(『月』)、伊藤健太郎さん(『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』)、大泉洋さん(『こんにちは、母さん』)、加瀬亮さん(『首』)、菅田将暉さん(『銀河鉄道の父』)が受賞しました(50音順)。
最優秀助演男優賞を受賞した磯村勇斗さん(『月』)はシャツまでオールブラックのスーツに身を固めました。シックに見えて、実はこだわりやひねりが冴える着こなしです。黒のシャツは襟なしで、スカーフタイのようなデザイン。ダブルブレストのジャケットはクロップド丈でバランスを揺さぶりました。
今回は各賞の男性陣にオールブラックの装いが目立ちました。伊藤健太郎さん(『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』)はスタンダードなタキシード姿。ポケットチーフも挿してキリリとした印象に。大泉洋さん(『こんにちは、母さん』)はオールブラックでシャツもタイも黒。ジャケットには少しラメが入っていて、静かなラグジュアリーへの目配りをうかがわせます。唯一、黒を着なかったのは加瀬亮さん(『首』)。茶系のスーツを選び、シャツは喉元のボタンをオフ。気負わないムードの装いでレッドカーペットに臨みました。
「おしゃれ番長」の定評がある菅田将暉さん(『銀河鉄道の父』)はボトムスにワイドパンツを選んで、フォーマルなジャケットとのバランスを覆しました。フォーマルを崩すというモード界のスリリングな新トレンドを自己流に取り入れています。金髪と黒ルックのコントラストも強烈。黒く縁取るアイメイクでパンキッシュな反骨マインドを示すのも最先端トレンドへのさすがの目配りです。
話題賞俳優部門の山田裕貴さんは首元の詰まった「GIVENCHY(ジバンシィ)」の黒シャツに、黒スーツ、シューズのオールブラックで登場。スマートなジャケットシルエットで凜々しさを際立たせていました。
■ハンサム、レトロ、ロマンティック 異なるムードを交差
新人俳優賞の女性陣で元BiSH・アイナ・ジ・エンドさん(『キリエのうた』)は黒のセットアップをまといました。ハイネックにダブルブレストのマニッシュな上半身に、スリット入りのラップ風マキシ丈スカートをマッチング。さらに黒タイツでモードな雰囲気を添えました。一方、桜田ひよりさん(『交換ウソ日記』)は真っ赤な膝丈のプリーツドレス。マント風のふんわりした袖がやさしげにボディを包んでいます。メタリックのストラップ付きヒール靴で膝下の伸びやかなレッグラインを印象づけています。
原菜乃華さん(『ミステリと言う勿れ』)はクリーム色のノースリーブ・ロングドレスで清らかな雰囲気を醸し出しました。メタリックな花柄を全体にあしらって、華やかな風情に。しなやかなシルエットが引き立ちました。福原遥さん(『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』)は細かいドット柄を散らした黒系のロングドレスに身を包みました。ふんわりとした袖口のドレープと首回りのシャーリング使いが印象的。肌を覆っていながらも、薄手のシアー生地のおかげで、腕と脚線がほのかに透け見え。ヘルシーでロマンティックな色香をまといました。
■きれいめでスマートな新メンズフォーマル
新人俳優賞の男性陣では市川染五郎さん(『レジェンド&バタフライ』)が唯一、帽子をかぶって登場。スマートなシルエットにネクタイと襟ブローチでエレガントな印象を加えています。ダブルブレストの黒スーツを選んだのは黒川想矢さん(『怪物』)。柊木陽太さん(『怪物』)はスリーピースの黒スーツをチョイス。高橋文哉さん(『交換ウソ日記』)はシャツまでブラックで統一。白いポケットチーフを差し色にして、ハンサム&クールに決めています。
■スタンダードや正統派にひねりを加えてアップデート
柄物が減って、黒主体の単色が主流になったのも今回の「クワイエット・ラグジュアリー」化を示しています。素材の上質感や、テーラリング・カッティングの巧みさを際立たせるルックが多かったのは今年の傾向。スタンダードでミニマルな装いの中に、ディテールやシルエットで控えめに自分らしさを盛り込むスタイリングがセレモニーを静かに華やがせました。シアー素材やキラキラ系モチーフが上品さとフェミニン感を同居させています。飾り立てすぎずに品格とおしゃれ感を引き出すスタイリングは、イベントやセレモニーが戻ってきた私たちのおしゃれにも参考になりそうです。
(関連サイト)
日本アカデミー賞協会
https://www.japan-academy-prize.jp/
(関連記事)