シリアのアル=カーイダの支配下にあるイドリブ県で新型コロナウィルス感染予防対策進まず
シリアは22日から市場を閉鎖、商業、福祉、文化、社会活動を中止
シリアのイマード・ハミース首相は3月21日に声明を出し、すべての省庁に対して、22日から追って通知があるまでの期間、新型コロナウィルス感染予防および拡大防止のために必要な措置を講じるよう通知した。
ハミース首相は声明のなかで、生産部門での操業は継続しつつも、必要最低限まで職員の数を減らすなどして公務を遂行するよう指示した。
ハミース首相はまた、各県知事に対して、22日から追って通知があるまでの期間、市場を閉鎖、商業、福祉、文化、社会活動を中止することで、住民の外出を最低限に抑える措置を講じるよう指示した。
なお、食料と医薬品の販売、宅配、民間の医療施設はこの限りではない。
シリア保健省によると、政府支配地域で新型コロナウィルスの感染は確認されていない。
アル=カーイダ支配地域で新型コロナウィルス感染者いまだ確認されず
シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を掌握するイドリブ県の反体制派支配地(いわゆる「解放区」)で保健衛生活動を行っているという「イドリブ保健局」(Mudiriya Sihha Idlib、ムンズィル・ハリール局長)は21日に声明を出し、新型コロナウィルスの感染者はいまだ確認されていないと発表した。
声明は「解放区」内での感染拡大の噂が広まるなかで発表されたもの。
イドリブ保健局はまた「一部病院で予防策が取られているのは当然のことだ。感染が疑われる患者と接するにあたって行われているためだ」と付言した。
そのうえで「我々はすべての関係機関と住民に、信用できない筋が発信する情報を拡散しないよう、また噂を鵜呑みにしないよう求める…。イドリブ保健局は感染者が確認された場合、正式に発表する」と強調した。
イドリブ保健局はこれに先だって、新型コロナウィルス感染に備えて、医療体制を強化すると発表、住民に通院・手術のスケジュールの変更を呼びかけるとともに、感染が疑われる場合の通院方法について告知した。
一方、トルコのガジアンテップで活動する暫定内閣のアブドゥッラフマーン・ムスタファー首班は、住民に必要のない外出を控えて、自宅にとどまるよう呼びかけるとともに、状況次第では外出禁止令を発出すると強調した。
暫定内閣はシリア革命反体制勢力国民連立(シリア国民連合)傘下組織で、同内閣の保健省は「自由イドリブ保健局」(Mudiriya Sihha Idlib al-Hurra)を所轄している。
この「自由イドリブ保健局」は上記の「イドリブ保健局」とは別組織。
だが、イドリブ県の反体制派支配地の自治は、暫定内閣ではなく、シャーム解放機構に行政を委託されている救国内閣や各地の地元評議会によって担っており、暫定内閣の呼びかけにはほとんど効果がないものと思われる。
進まない感染予防対策
英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は、イドリブ県の「解放区」では、ほとんどの住民が、新型コロナウィルスの世界的な感染に対して関心を向けないまま生活を続けていると発表した。
「イドリブ県の保健局」(Mudiriya al-Sihha bi-Idlib)によると、感染を予防するためのマスクや医療用手袋はほとんどなく、またこれらの医療用品の値段も高騰している。感染者の隔離や治療が可能な医療施設、病院も当然十分ではないという。
なお「イドリブ県の保健局」が、「イドリブ保健局」なのか、「自由イドリブ保健局」なのか、あるいはこれらとは別組織なのかは不明。
「イドリブ県の保健局」によると、市場、公園、病院、モスクは、通常通り住民で賑わっており、イドリブ大学も授業の中止に踏み切っていない。感染拡大が懸念される現状を踏まえたいかなる決定も下されていないという。
シリア人権監視団によると、反体制派の支配地には400万人が暮らしており、その半数以上が国内避難民(IDPs)としてキャンプでの生活を余儀なくされているという。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)