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若手を育てながらベテランを主将に。エディー・ジョーンズの考えに迫る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
左から立川、ジョーンズ(写真提供=JRFU)

 ラグビー日本代表は現地時間25日からパシフィック・ネーションズカップ(PNC)に参戦する。エディー・ジョーンズヘッドコーチは、大会中の主将に立川理道を指名した。

 立川は、身長180センチ、体重94キロの34歳。所属するクボタスピアーズ船橋・東京ベイでも2016年度から主将を務め、22年度には国内リーグワンで初優勝を果たしている。

 日本代表へは、ジョーンズが最初に指揮を執り始めた12年に初選出された。15年のワールドカップイングランド大会では、南アフリカ代表などから歴史的3勝を挙げている。

 ジェイミー・ジョセフ体制下でも2016、17年に共同主将を務めた。

 本人の弁。

「プレッシャー、責任を感じることもありました。ただ、いまいるメンバーには将来性がありますし、所属チームで主将をしていて、僕よりも多くのワールドカップに出ている選手もいる。そういう選手と一緒にチームを作り上げてPNCに向かえる楽しみ、役割をいただけた光栄な気持ちのほうが、(重圧よりも)大きくなっています。僕自身の成長にもいいチャンスだと思いました」

 一時、代表から離れることもあった。しかしジョーンズは、約9年ぶりに復帰するや6~7月のサマーキャンペーンの途中に立川を追加招集。実際には、5月の候補合宿からの招へいも検討していたと見られる。

 サマーキャンペーンでは、ワールドカップ4大会出場のリーチ マイケルが主将だった。今回、リーチが休養するのを受け、立川に白羽の矢を立った。

 今回も3名の大学生を呼ぶ(練習生を含めれば4名)など大幅な若返りを図るジョーンズだが、主将には熟練者を登用している。

 ジョーンズは、立川の主将抜擢の意図を語る。

「若いチームのお手本となる主将として選出しました。56キャップ(テストマッチ=代表戦出場数)を持っていて、所属しているスピアーズが優勝した時の主将でもある。ウィニングキャプテンの経験もある。他選手への態度も真摯。リスペクトし、お互いに厳しい要求をし合うというバランスを取れる。

 現状ではハル(立川)が主将です。最初に日本代表のヘッドコーチに任命された時、主将はリーチか立川がふさわしいのかなというイメージを持っていました。以前(2015年まで)に一緒に仕事をしたこともあるし、100パーセント、信頼を置いている選手です。立川は全身全霊、チームに尽くしてくれる」

 第2次ジョーンズ政権は、7月までのキャンペーンを1勝4敗としている。10日からの宮崎合宿では、選手たちがフォワードとバックスにわかれてスキルアップを目指す。

 国同士の代表戦はここまで未勝利。選手育成と同時に結果も求める。

 8月の宮崎合宿では立川、坂手淳史ら、ワールドカップを経験している中堅およびベテランが戦術略の領域を先導。若手のリーダー候補は、チーム文化の醸成にまつわるエリアを任されている。

 今年初選出され、サマーキャンペーン中に関連のJAPAN XVで共同主将を張った原田衛は、「(代表戦前に歌唱する)君が代を(周りに)教える」というタスクを担う。

 14日、ジョーンズは立川とともにオンラインで会見。立川を主将にした理由のほか、今後のチーム作りのプランへも言及した。

 将来性のある若者に主将を任せる意図はないのか。

 さらに海外出身者をプレーさせる考えはあるか。

 適宜、たとえ話を用いながら答えた。

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——主将を支えるリーダー陣の構成は。

「チームの作り方としては環境面、フィールド内外の取り組み方を見てくれるリーダーグループがあり、別途、ゲームリーダーのグループも構成しています。こちらはラグビーの戦術をドライブします。他方、経験値のある選手が若手を世話するというグループも作っている。それぞれのメンバーを紹介すると、スコッド全員の名前が挙がるのが現状です。

 まとめますと、選手全員にリーダーとして活躍するチャンスはあると思っています。若手をリーダーとして輩出していくには、経験のあるシニア選手が役割を自覚し、日本ラグビーの未来を形作っていくようにしていく必要があると思っています」

——今後、ワールドカップを経験していない若手を主将にする可能性はあるか。チームを若返らせているなか、27年のワールドカップオーストラリア大会までの主将選択のプランは。

「木を育てるのに似ている。いま、10本の苗木を植えているとします。毎日、水をやり、草むしりをし、土を入れ替える。ただし、10本の木は同じ成長速度で伸びるとは限らないと思います。植えた『木』のなかで、一番成長が速いのは誰か。それを見たいです」

——十分な成長の見られる選手がいたら、主将候補に検討するとの理解で間違いないか。

「リーダーシップの素質を備えた選手がいるかを見ていきたい。リーダーシップとは、いかに自分の底力を引き出せるか、周りを巻き込んで全員のベストを引き出せるかです。リーダーシップはスキル。育てていかないといけない。自分自身でリーダーシップの資質を伸ばしたい選手に期待したいです」

 ナショナルチームの主将を担えるのは一定の水準を満たした選手のみと、ジョーンズは考えているのだろう。若手選手がその水準をクリアするまでの成長を、じっくり見守っているような。

 中長期的な展望でいえば、来年以降のスコッドの編成も注目される。

 国際統括団体のワールドラグビーは、連続居住に伴う代表資格の取得条件を緩和。「5年連続居住」から「当該協会に5年連続登録」とした。

 この決定により、日本代表に選ばれやすくなるリーグワン加盟の外国出身者が増えるとみられる。2020年以降のウイルス禍などで長期帰国を余儀なくされていたメンバーなどが、一転して資格取得に近づくからだ。

 その条件にあたりそうな1人は17年に来日したセンターのマイケル・リトルか。現在31歳。若手を軸とする現代表へ迎え入れるノンキャップ戦士としては年齢を重ねているように映るが、希少な突破役であるのも確かだ。

 今回の会見では質問者、回答者とも、選ばれていない海外選手の名前を出すことはなかった。ただし代表資格に関する質問はあり、ジョーンズはこのように答えた。

「個人的には若い日本人の育成にしか注力、懸念していない。若手を輩出することが今後の日本ラグビーの肝。もちろん代表資格のある外国人選手も適宜、選んでいくつもりですが、日本人を育てるのが大事。前回のサマーキャンペーンでも、今回のPNCでも若手を選んでいる。それぞれ活躍している。今回は村田大和、海老澤琥珀、矢崎由高(いずれも大学生)を選んでいて、いい形でトレーニングに励んでいる。このような選手をどんどん発掘したいです」

 あくまで代表強化の初期段階では、学生をはじめとした国内勢の国際化に尽力したいようだ。

 スタッフによればいまのジョーンズは、海外出身者を選ぶ際もその選手が日本語を話せるかどうかをチェックする。

 環太平洋大学出身で現コベルコ神戸スティーラーズのティエナン・コストリー、高校時代からこの国にいるファウルア・マキシはいずれもその条件をクリア。ディラン・ライリーも取材こそ英語で応じるが、質問者の日本語を概ね理解しているような反応を示す。

 ジョーンズは母国のオーストラリア、ラグビー大国の南アフリカ、フットボールの母国と見られるイングランドでも代表チームを指導。その要諦に関し、持論を有している。

「先ほどの代表資格の質問で言えば…」と切り出し、このようにも述べた。

「リーグワンのシーズン終盤、立川は手の怪我をしていました。彼はそれ以降、(復帰まで)かなりフィジカル面を改善させて戻ってきた。それは、立川の持つジャパンでプレーしたい熱意、渇望が強かったからです。

 これは、外国人選手の件にも通じる話です。

 もちろん代表資格のある外国人選手は選んでいきたい。ただ、立川が持っているようなジャパンでプレーしたいという熱意が必要不可欠です」

 ただテストマッチに出たい選手より、日本代表の一員として全力を尽くしたい選手を求める。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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