アメリカに敗れて2連敗のなでしこジャパン。「一番手応えのある試合」から見えた収穫と課題とは
【アメリカの3倍のシュートを放つも…】
なでしこジャパン(日本女子代表)は、4か国対抗戦「SheBelieves Cup」で、日本時間20日にFIFAランク1位のアメリカと対戦。
アメリカの3倍となる15本のシュートを記録したが、ゴールネットを揺らすことはできず、1本のカウンターからしたたかに仕留めたアメリカに0-1で敗戦。ブラジル戦に続く連敗となった。
初戦から先発5人を入れ替えターンオーバーしたアメリカに対し、日本は3トップの左にFW岩渕真奈を、GKには山下杏也加を投入。中2日の連戦でメンバーを大きく変える可能性もあったが、メンバーをほぼ変えずに臨んだ。池田太監督はその狙いについて、「1戦目を戦って出た課題を中2日で話し合って、この試合にどれだけ活かせるかという流れを(重視し)、W杯までの試合数とのバランスで決めました」と語っている。
アメリカは、2011年と15年のワールドカップ決勝や12年のロンドン五輪決勝など、これまで何度も大舞台で対戦してきた相手。
これまでの対戦では、立ち上がりの15分までに怒涛の攻撃で先制を許すことが多かったが、この試合は違った。日本が高い位置からアグレッシブな守備で押し込み、テンポよくボールを繋ぐ。その流れは指揮官にとってもいい意味で想定外だったようだ。
「(相手の4バックに対して)我々の3バックでシステムのズレをうまくつければボールを運べると予想していましたが、ゲームの入りはもっとアメリカが(勢いよく)くると思っていたので、予想をうまくひっくり返してくれました。その流れでうまくゲームに入れたところがポイントだったと思います」(池田監督)
ナッシュビルのエクスプロリア・スタジアムは25,471人の観客がスタンドを埋める“超アウェー”だったが、その雰囲気に飲まれることはなかった。日本はコンパクトな3-4-3の陣形を保ちながら、連続性のあるプレッシングでアメリカの縦に速い攻撃を牽制。素早い切り替えから、前半4分にはDF清水梨紗とFW植木理子へのホットラインで決定機を創出した。
アメリカはロングボールで状況打破を試みるが、日本はDF熊谷紗希、DF三宅史織、DF南萌華の3人がラインコントロールを徹底しながらリスクを管理。前線では、岩渕と植木とMF藤野あおばの3トップが流動的に動きながら、ウイングバックのMF杉田妃和と清水、ダブルボランチのMF長谷川唯とMF長野風花が距離感よく攻撃を組み立てた。
18分に藤野がドリブルで相手を振り切ってシュートに持ち込み、19分には岩渕がカットインから右足を振り抜く。相手にブロックされたこぼれ球をダイレクトで長野が狙ったが、枠を外れた。22分には杉田が縦への突破からフリーでクロスを上げ、25分には植木がドリブルからポストすれすれのシュートを放つ。そして37分、藤野が左サイドから相手2人の間をドリブルで突破しようとして倒されたシーンでは、会場がため息に包まれた。
攻め込みながらもなかなかゴールが決まらない日本に対し、前半終了間際の45分にアメリカが一撃必殺のカウンターを決める。FWアレックス・モーガンからパスを受けたFWマロリー・スワンソンが、スピードに乗ったドリブルで三宅を振り切り、ゴール左隅に流し込んだ。
カナダ戦でも2ゴールを決めていたスワンソンに対しては日本も十分に警戒していたはずだが、フルスピードでボールを完璧にコントロールされてはなす術がない。
ピッチの芝が濡れて思いの外ボールが伸びたことも、三宅にとっては誤算だったようだ。試合後には、「アメリカは一発(のチャンス)で決めてくることを考えれば、ファウルで止めなければいけないところだった」と悔しそうに語っていた。
後半は、FW浜野まいか、FW遠藤純、終盤にはMF宮澤ひなたを前線に投入し、攻撃に変化を加えてゴールを目指したが、1点は遠かった。79分には長野のミドルがクロスバーを叩き、81分には宮澤のクロスに中央で長谷川が合わせる理想的な崩しを見せたが、GKケイシー・マーフィーのファインセーブに阻まれ、間もなく試合終了の笛が鳴った。
【世界王者との対戦で見えたもの】
ブラジル戦に比べると攻撃パターンが多く、課題だったシュートの意識も高まっていたが、結果的には無得点。これで、なでしこジャパンは格上相手に4連敗、無得点試合を4に伸ばした。試合後、攻撃陣は責任を口にした。
「点を取らないと勝てないし、自分は攻撃の選手としてそこの責任はすごく感じています」(岩渕)
「間違いなく勝つチャンスがあった試合だと思うので、もったいなさすぎるし、自分も含めて前の選手たちの責任は本当に重いなと感じます」(長谷川)
「勝てた試合だったと思いますが、相手の一本のチャンスで負けてしまったので、その責任は強く感じています」(藤野)
7月のワールドカップに向けて、「いかにゴールを奪うか」が最大のテーマになりそうだ。
ただし、内容面ではブラジル戦に続いて収穫も多い一戦だった。
ボール支配率はほぼ互角(アメリカ51%、日本49%)だが、シュート数に3倍の差がついたことからもわかるように、効果的にチャンスを作っていた。アメリカがターンオーバーしていた面もあるにせよ、チャンピオンに対してここまでボールを持てたのは、2012年のロンドン五輪決勝以来だと思う。勝利したアメリカのブラトコ・アンドロフスキ監督も、「日本は流動的に動いてスペースを見つけられるとても組織的なチーム」と、日本の戦いぶりに賞賛の言葉を送った。池田監督は、こう振り返る。
「積み上がっていること、自分たちがやろうとしていることをできている分、結果としてそれを喜べない悔しさはあります。ですが同時に、最後のラストピースを積み上げるところまで来ている、というポジティブな捉え方もできるんじゃないかと思います」
熊谷は、代表のキャリアでアメリカと15回以上対戦している。直近の4試合で強豪相手に結果が出ない厳しい現実を受け止めつつも、確かな感触を得ているようだった。
「アメリカに対して一番手応えのある試合でしたし、(日本が作ったのは)1本、2本のチャンスではなかったと思います。結果だけ見れば何一つ得ていないとは思いつつも、できたこともありました。だからこそ、勝ちたかったです」
ブラジル戦も含めて、内容は1試合ごとに上向いている。その要因として考えられるのは、メンバー間のコンビネーションが高まったことと、流動的に動きやすい3バックのシステムが日本の選手たちに合っていることだ。
主軸を固定して試合を重ねることで、試合中の調整や修正が早くなり、ワンタッチプレーが増えた。3バックの特性を活かして選手同士が良い距離感でボールを動かせている。今大会で初めてダブルボランチを組んだ長谷川と長野のバランスも、好感触だ。
1対1に強い選手が増え、サイドで主導権を握れるようになったことも大きいと感じる。杉田、遠藤、清水といった海外組や、19歳の藤野の目覚ましい成長が、チームの攻撃にバリエーションを与えている。だからこそ、サイドのクロスを確実に得点につなげられるようにしたい。杉田は言う。
「中盤のラインにボールが入ってからの攻撃にもっとバリエーションを持たせて、サイドチェンジからのクロスや、アーリークロスなど、相手の守備が狙いにくいチャンスボールを増やしていきたいと思います」
日本は中2日で、カナダと対戦する。カナダは東京五輪の優勝国で、日本は同大会のグループステージで対戦し、1-1(ゴールは岩渕)で引き分けた。カナダは現在FIFAランク6位。代表キャップ数「321」、ゴール数「190」と男女合わせて代表チームの歴代記録を更新し続けるFWクリスティン・シンクレアがいる。移民国家でさまざまなバックグラウンドを持った選手が揃い、センターバックのDFカデイシャ・ブキャナンを筆頭に、身体能力の高い選手が多い。日本はその相手からゴールを奪うことができるか。これまでの2試合の修正を生かしつつ、今大会の集大成となる大一番だ。
アメリカ戦で、日本の選手たちは紫のリストバンドを左手に巻いて戦った。男女平等への思いを込めたもので、アメリカの選手たちから「一緒にやりませんか」と提案があり、賛同したという。初戦では、男子との待遇格差解消を求めて抗議を続けるカナダ代表に対し、アメリカ代表の選手たちが賛同の意を示して試合前に輪を作るひと幕もあった。
女子サッカーの待遇や格差について声を上げる国が増えている中、日本もWEリーグや代表の現状を改めて見つめ直す必要がありそうだ。