結果を出したマルセリーノを解任。安定感を欠くバレンシアは再生できるのか。
ビッグマッチを前に、バレンシアが監督解任を決断している。
マルセリーノ・ガルシア・トラル監督が解任され、アルベルト・セラーデス新監督が招聘された。この夏を通じて繰り広げられた現場とフロントの戦いに、決着が着いた格好だ。
現場とは、マルセリーノ監督とマテウ・アレマニーSD(スポーツディレクター)を指し示す。フロントとは、オーナーを務めるピーター・リムと、その右腕であるアニル・マーシー会長だ。彼らは補強方針をめぐり、真っ向から対立していた。
■補強をめぐる対立
マルセリーノ監督とアレマニーSDが求めていたのはマキシ・ゴメス、デニス・スアレス、ラフィーニャ・アルカンタラの獲得だった。だが、確保できたのはM・ゴメスのみ。一方、フロント側はニコラス・オタメンディ、ラファエル・レオン、ラダメル・ファルカオの獲得に乗り出そうとしていた。
それだけではない。得点源であるロドリゴ・モレノが移籍に傾いていた。ロドリゴの移籍に関して、リムはマルセリーノ監督の承諾を得ずに移籍金6000万ユーロ(約70億円)でアトレティコ・マドリーと合意していたようだ。ロドリゴはバレンシアのチームメートに別れを告げ、ロッカールームを整理していた。彼のアトレティコ移籍は秒読み段階に入っていたのである。
その裏で、ジョルジュ・メンデス代理人が暗躍していた。メンデス代理人とオーナーのリムは、旧知の仲である。メンデス代理人には、ミランでプレーしていたアンドレ・シウバのバレンシア移籍、アトレティコに所属するアンヘル・コレアのミラン移籍、ロドリゴのバレンシアからアトレティコへの移籍を実現させるという理想のプランがあった。
そのオペレーションはいずれも成立しなかった。だが、マルセリーノ監督の怒りは収まらず、会見で上層部を度々批判していた。両者の溝は、一向に埋まらなかった。
■繰り返される監督交代
リムがバレンシアを買収したのは、2014年10月のことだ。財政難で苦しんでいたバレンシアにとっては、まさに救いの手だった。
多くのバレンシアニスタが、リムのオーナー就任を歓迎した。だが、クラブに安定はもたらされなかった。2008年から2012年にかけてバレンシアで指揮を執ったウナイ・エメリ監督が退任して以降、マウリシオ・ペジェグリーノ、エルネスト・バルベルデ、ミロスラフ・ジュキッチ、ニコ・エステべス、フアン・アントニオ・ピッツィ、ヌノ・エスピリト・サント、ガリー・ネビル、パコ・アジェスタラン、チェーザレ・プランデッリ、ボロと監督交代が繰り返されてきた。
10人の指揮官が代わる代わるバレンシアを率いてきた。戦術とシステムが、逐一変わる。選手たちとしては、プロとはいえ、ひとたまりもない。いくら、変化の激しいスペインにおいても、過剰である。
レアル・マドリーとバルセロナの2強時代が長く続いたリーガエスパニョーラで、バレンシアはスペインの「第三のクラブ」を担う存在と目されていた。だが、気付けばその座はアトレティコ・マドリーの定位置となっている。そのアトレティコは、ディエゴ・シメオネ監督が長期政権を築き、プレースタイルとフィロソフィーを確固たるものにした。バレンシアとは対照的だ。
■カンテラーノの存在
アレマニー会長曰く、カンテラーノの登用と積極起用が、セラーデス新監督招聘の理由だという。フェラン・トーレスやイ・ガンインの出場機会について、暗にマルセリーノ監督への不満を吐露したが、彼らとてマルセリーノ監督の下でトップデビューした選手たちである。
また、マルセリーノ政権で、カンテラ出身のGKハウメ・ドメネク、ホセ・ルイス・ガジャ、トニ・ラト、ナチョ・ビダル、カルロス・ソレール、ナチョ・ヒルらがトップデビューしている。そもそもマルセリーノ監督は、バレンシアを率いる前から各クラブでカンテラーノを積極的に使ってきた指揮官である。つまり、上層部の主張が道理でないのは明らかで、それは言い訳の材料に過ぎないのだ。
バレンシアがリーガでトップ3に入ったのは、2011-12まで遡る。4位の座でさえ、2014-15シーズン以来、確保できていなかった。
それが、この2シーズン、4位でフィニッシュしてチャンピオンズリーグ出場権を獲得している。昨シーズンは、コパ・デル・レイ決勝でバルセロナを破り戴冠に成功した。そして、マルセリーノ監督に対する選手たちの信頼は厚かった。
それでも、マルセリーノ監督のクビは切られた。リムとの確執が、その引き金となったのは自明である。安定しないバレンシアの目前に、現地時間14日のリーガ第4節バルセロナ戦、17日のチャンピオンズリーグ・グループステージ第1節チェルシー戦が控えている。