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なぜバルサは好調を維持しているのか?カンテラーノの台頭とハンジ・フリックの手腕。

森田泰史スポーツライター
ゴールを喜ぶヤマル(写真:ロイター/アフロ)

スタートダッシュに、成功している。

今季、開幕から好調なのがバルセロナだ。リーガエスパニョーラ5試合で5勝とすべての試合で勝利を収め、首位を走っている。

■補強と財政

バルセロナは、今夏、ニコ・ウィリアムスの獲得を検討していた。

アトレティック・クルブでプレーするニコは、この夏、ドイツで開催されたEURO2024で躍動した。左サイドのウィンガーとして突破力を見せ付け、スペイン代表の優勝に大きく貢献した。

ニコの契約解除金は5800万ユーロ(約92億円)に設定されていた。しかし、バルセロナは資金を準備できず、ニコの獲得を断念した。

ダニ・オルモとレヴァンドフスキのセレブレーション
ダニ・オルモとレヴァンドフスキのセレブレーション写真:ロイター/アフロ

一方、バルセロナは移籍金固定額5500万ユーロ(約89億円)でライプツィヒからダニ・オルモを獲得。中盤を補強して、陣容を整えた。

■カンテラーノの成長

近年、バルセロナでは、カンテラーノが台頭してきている。

ラミン・ヤマル、パウ・クバルシを筆頭に、今季もマルク・ベルナル、マルク・カサード、セルジ・ドミンゲスと若いタレントが成長している。

バルセロナと言えば、カンテラだ。2010年のバロンドール(当時FIFAバロンドール)の授賞式では、リオネル・メッシ、アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデスが最終候補に残った。結果的に、受賞を果たしたのはメッシだったが、カンテラーノの3名があの場にいることはバルセロニスタの大きな誇りだった。

ジョゼップ・グアルディオラ政権(2008年―2012年)においては、ペドロ・ロドリゲス、セルヒオ・ブスケッツといった選手が活躍した。あの頃のバルセロナが魅力的なフットボールを展開していたのは間違いない。しかし、それに加えてカンテラーノの成長が多くのファンを魅了した。

■ブスケッツの穴

今季、ベルナルやカサードといったタレントが出てきたのには、示唆的なものがある。彼らはブスケッツと同じポジションでプレーする選手たちだからだ。

ベルナルはグアルディオラと同じ街、サンペドール出身だ。育成年代で、ヒムナスティク・マンレサという街クラブからバルセロナのカンテラに入団したという経緯まで酷似しており、アンカーの系譜を継いでいる。昨季はバルセロナBでラファ・マルケス監督に重宝され、35試合に出場。191cmの長身でアンカーに居座る様は、まさにブスケッツのようだった。

カサードは昨季、バルセロナBで、中盤とサイドバックでプレーした。チームメートからは『(ジョシュア・)キミッヒ』というニックネームを授かり、プレーの幅を広げた。

元々、“戦術マニア”として知られている。育成年代では、カルレス・マルティネス監督(現トゥールーズ)の指導を受け、大きく成長した。「試合がスタートした時点で、(ベンチから)カサードとアイコンタクトをすれば、それで十分だった。『相手チームの中盤はダイヤモンド型だ。ウィングのところでプレスを回避できる』といったことが言わずとも伝わった」とはC・マルティネス監督の弁だ。

「カサードを指導することになった時、私と彼はすぐに打ち解けた。性格的には、非常に親しみやすく、友好的な青年だった。誰とでも仲良くなれるタイプだったね」

成長著しいカサード
成長著しいカサード写真:なかしまだいすけ/アフロ

ベルナルとカサードはプレシーズンでハンジ・フリック新監督の信頼を勝ち取った。ベルナルの負傷離脱は残念だったが、それでも彼らの重要性は変わらない。

バルセロナの「4番」は難しいポジションだ。故ヨハン・クライフがルイス・ミージャにそのポジションを任せたところから、グアルディオラにバトンが渡された。そのグアルディオラは、カンテラからブスケッツという才能を発掘した。

アンカーは錨(いかり)を意味する。チームを固定するために存在し、構造を抜け難くするために、打ち込まれる。【4−3−3】のシステムでは、アンカーのポジションを軸に、チームが動いていく。

現在のバルセロナでは、【4−3−3】と【4−2−3−1】の可変システムが使われている。インテリオールーボランチの位置に配置されるのはペドリ・ゴンサレスで、その選手と組むカサードには複雑なタスクが求められる。

加えて、ここからフレンキー・デ・ヨング、ガビらが負傷から明けて戻ってくる。ダニ・オルモの負傷があり、中盤に再構成の必要が生じているが、カンテラーノをどのように起用していくかを含め、ハンジ・フリック監督の腕の見せ所になる。

バルセロナを率いるハンジ・フリック監督
バルセロナを率いるハンジ・フリック監督写真:ロイター/アフロ

「フリック監督からはプレッシャーを感じずにプレーするように言われている。僕たちは厳しいトレーニングをしていて、それは試合で反映されている。70分、80分の時間帯でも、僕たちのフィジカルは落ちない」

「僕たちは非常に向上した。監督からの指示をよく理解して、ピッチ上でどのように配置すべきかを心得ている。(直近のジローナ戦では)ヤマルのプレスから先制ゴールが生まれたんだ」

これはペドリの言葉だ。

新監督の下で躍動するペドリ
新監督の下で躍動するペドリ写真:なかしまだいすけ/アフロ

リーガで開幕から5連勝。全勝しているのはバルセロナのみで、その価値は大きい。

だがシーズンはスタートしたばかりだ。ヤング・パワーと新監督のブーストで、バルセロナがどこまで行けるか。注目したい。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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