Yahoo!ニュース

任天堂が対パルワールド訴訟で使用した特許はたぶんこれ

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:特許7545191号公報

「任天堂と株式会社ポケモン、「パルワールド」開発のポケットペアを特許権侵害で提訴」というニュースがありました(任天堂のプレスリース)。ご存知のように、パルワールドに登場するモンスターの造形がポケモンに類似しているのではとの意見はありましたが、著作権侵害を問うのは難しい(寄せてはいるがギリギリで回避している)状況でした。任天堂は著作権ではなく特許権により権利行使したわけです。差止めと損害賠償が請求されています。

パルワールドは無料プレイできないので、YouTube上の紹介動画等から推測しますが、モンスターの造形の話は別として、ゲームシステムとしてはポケモンとはそれほど似ていないようで、Ark等に類似するオープンワールド型ゲームのようです。共通点があるとすれば、ボールのようなものをモンスターに投げつけて捕獲する部分です。特許権を侵害しているとすれば、このあたりかと思います。

ポケモン社と任天堂が共同で訴訟を提起していることから、当然に特許も両社の共願であると想定すれば28件に絞れます。その28件の中で、パルワールドのサービスイン(2024年1月19日)以降に分割出願されたものは4件あります。

一番出願日が新しいものは、特許7545191号です。今年の7月30日に出願され、8月6日に審査請求され、早期審査請求され、8月22日にはもう特許査定となっています。スーパー早期審査という制度を使ったものと思われます。

以下、特許7528390号(3月5日出願、7月26日登録)、特許7493117号(2月26日出願、5月30日に登録)、特許7505854号(2月6日出願、6月17日登録)と続きます。すべて、早期審査(おそらくスーパー早期審査)が請求されています。

いずれも2021年12月22日の出願の分割出願ですので、実効出願日は2021年12月22日となり、2024年1月19日にサービスインしたパルワールドに権利行使可能です。俗に「嵌め込み」と呼ばれる手法で、訴訟で使用するために、既存の特許の分割出願の権利範囲を被疑侵害物件の構成に「寄せて」補正したものと思われます(これについては、コナミの対サイゲームス「ウマ娘」訴訟の時に解説記事を書いています)。タイミング的には、これらの特許の成立を待って、訴訟を提起したと考えるのが自然に思えます。

では、これらの中でわかりやすく、かつ、権利範囲が広そうな特許7493117号の内容を見てみましょう。請求項1の内容は以下のとおりです。

【請求項1】
情報処理装置のコンピュータに、
第1のモードにおいて、
方向入力である第1の操作入力に基づいて、仮想空間内における照準方向を決定させ、
第2の操作入力が行われた場合に、前記照準方向を仮想空間内のフィールド上に配置されたフィールドキャラクタに向けさせるとともに、第1の指標を表示させ、
第3の操作入力に基づいて、前記照準方向に前記フィールドキャラクタを捕獲するための捕獲アイテムを放つ動作をプレイヤキャラクタに行わせ、
前記捕獲アイテムが前記フィールドキャラクタに命中した場合、捕獲が成功するか否かに関する捕獲成功判定を行わせ、
前記捕獲成功判定が肯定判定された場合に、前記捕獲アイテムが命中したフィールドキャラクタをプレイヤが所有する状態に設定させ、
前記第1の指標は、前記捕獲成功判定の肯定判定し易さを示す情報である、ゲームプログラム。

結局言っていることは、ボール(捕獲アイテム)をモンスター(フィールドキャラクタ)に投げて、捕獲成功判定を行い、捕獲成功ならばモンスターを所有状態にできる、その際、捕獲の成功しやすさを何らかの指標(数字ではなく色やデザインでも良いと明細書に書いてあります)で示すというだけのことです。ポケモンぽいゲームを作ろうと思うと回避は大変そうですし、意識していないと抵触してしまいそうです。キラー特許という感があります。他の特許については追って解説する予定です。

もちろん、これらの特許が使われていることの確証はありませんし、これら以外の特許も使われている可能性もあります。任天堂あるいはポケモン社が単独権利者になっている特許を使って別の訴訟を提起している可能性もあります。対コロプラの訴訟で使用された「通信ゲームで相互に登録済のユーザーとしかゲームをしないという制限をかける」特許等(関連記事)、任天堂は、信じられないほど強力な特許を持っていることでも知られていますので、そのような「伝家の宝刀」が使われている可能性もあります。

対コロプラの訴訟の時にも言われていたことですが、任天堂は超強力な特許ポートフォリオを持ってはいても、自分から積極的には権利行使はせず、自社の知財が浸蝕されそうになった場合のみ徹底的に戦うという企業ポリシーであるように思えます。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

栗原潔のIT特許分析レポート

税込880円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

栗原潔の最近の記事