なぜレアルは大型補強を行わなかったのか?エムバペの獲得と世界標準の補強戦略。
現在、フットボールの世界で、重要なのは総合力だ。
それを体現しているクラブの一つがレアル・マドリーだ。昨季、チャンピオンズリーグとリーガエスパニョーラを制してドブレーテ(2冠)を達成したマドリーだが、この夏にキリアン・エムバペとエンドリッキを獲得。陣容を整え、新たなシーズンに備えている。
「我々はすべてのマドリディスモに希望を与えるため、働き続ける。我々には、世界で象徴的な存在になれるようなスポーツ的戦略があり、それに忠実に動いていく」とはフロレンティーノ・ペレス会長の弁だ。
「そのポジションで世界最高峰の選手たちと若い才能ある選手たちを組み合わせる。若い選手たちは、現在と未来において、主役になり得る存在だ。そうして、ずっと記憶に残るような時代を築き上げる」
■派手な補強と地味な補強
ただ、マドリーはこの夏に大型補強を行ったわけではない。エムバペを移籍金ゼロで、エンドリッキを移籍金固定額3500万ユーロで獲得している。
今夏、最も“派手”に動いたのはチェルシーだった。ジョアン・フェリックス、ジェイドン・サンチョを筆頭に、13選手を獲得。2億3850万ユーロ(約381億円)を費やして、補強を敢行した。
また、直近、およそ10年のデータを見ると、興味深い事実が浮かび上がる。
『CIES』の発表によれば、2015年から2024年にかけて、最も補強にお金を費やしているはチェルシーだ。その額、27億8000万ユーロ(約4448億円)。圧倒的な数字だ。
そして、マンチェスター・シティ(19億6000万ユーロ)、マンチェスター・ユナイテッド(19億5000万ユーロ) 、パリ・サンジェルマン(19億ユーロ)、ユヴェントス(17億7000万ユーロ)、バルセロナ(16億7000万ユーロ)と続く。
マドリーは、トップ5はおろか、トップ10にも入っていない。“金満クラブ”というイメージの強いマドリーであるが、実際のところ、財布の紐は堅いのだ。
■高まる選手の価値
一方、「市場価値」に着目すると、異なる側面が見えてくる。
エムバペ(1億8000万ユーロ)、ヴィニシウス・ジュニオール (1億8000万ユーロ)、ジュード・ベリンガム(1億8000万ユーロ)、アーリング・ハーランド(1億8000万ユーロ)がトップに君臨。そこに、フィル・フォーデン(4位/1億5000万ユーロ)、ブカヨ・サカ(5位/1億4000万ユーロ)が続いている(ソースは『Transfermarkt』)。
フロリアン・ヴィルツ(6位/1億3000万ユーロ)、ロドリ・エルナンデス(1億3000万ユーロ)、ジャマル・ムシアラ(1億3000万ユーロ)がランクインして、ラミン・ヤマル(10位/1億2000万ユーロ)、フェデリコ・バルベルデ(1億2000万ユーロ)、デクラン・ライス(1億2000万ユーロ)でトップ10が締めくくられる。
偉大な選手とヤング・タレントの融合。冒頭の言葉にある通り、それがマドリーの、そしてペレスの戦略だ。なお、ヤング・タレントが偉大な選手に成長する、という文脈がそこに加わる。
典型例はヴィニシウス、ロドリゴ・ゴエス、バルベルデだろう。
マドリー移籍が決定した2017年5月の段階で、ヴィニシウスの市場価値は2000万ユーロだった。それが、7年経過した現在、およそ9倍の価値に膨れ上がっている。
ロドリゴは、マドリー移籍前の2018年、市場価値が1000万ユーロだとされていた。現在、その額は1億1000万ユーロになっている。
バルベルデは、ウルグアイのペニャロルでプレーしていた頃、45万ユーロの市場価値だった。いまでは、1億2000万ユーロと、比べるべくもない数字になっている。
■敏腕スカウトであるカラファトの存在
マドリーのヤング・タレントの発掘の背景には、ある人物が潜んでいる。ジュニ・カラファトである。
カラファトがマドリーに入閣したのは2013年だ。当初は、ブラジルのマーケットを中心に見て回り、主にカスティージャ(Bチーム)の補強に注力していた。だが、徐々に、その手腕が認められ、実質的にホセ・アンヘル・サンチェスGD(ゼネラルディレクター)と並び、ペレスの側近になっていく。
現在では国際フットボール部門のトップを務めるカラファトだが、彼がバルベルデ、ヴィニシウス、ロドリゴの獲得に一枚噛んでいた。とりわけ、ヴィニシウスとロドリゴの獲得に際しては、一年以上をかけ、ピッチ内外での行動を調査し、最終的に補強を進言した。
敏腕スカウトと連動しながら、ペレスの語るスポーツ的戦略=補強戦略における足場は固められてきた。
チェルシーやパリSGのように、外資やオイルマネーに頼って、大型補強を行うのも良いだろう。だがマドリーはソシオ (会員)制のクラブだ。それはできない。
そのような状況で、先述のようなアプローチを編み出してきたマドリーというのは、間違いなく、刮目に値する。