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小泉進次郎は「年金は80歳まで1円も払わない」とは言っていないが「80歳まで引き上げる」と言う意味

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
自民党総裁選の小泉候補が年金は80歳からと言った、というのはミスリードである(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

アンチ小泉進次郎な人たち「年金80歳から、ふざけるな」とミスリードで燃え上がる

自民党の総裁選が盛り上がっています。次の総理大臣候補と考えれば注目が集まるのは必然ですが、今回は女性初となる自民党総裁を目指す候補もあれば、過去最年少の40歳代総裁を目指す候補ありと、多様性の観点でも注目されています。

自民党 自民党総裁選2024特設ページ

このうち、最年少候補(43歳)となるのが小泉進次郎氏ですが、とかくネットで叩かれている人物のひとりでもあります。例のセクシー発言だって、その前にUNFCCCの事務局長の女性が発言した「今こそ、グリーンセクシー(環境セクシー)に取り組む時であり、それを標準にする時です。」という言葉の引用なので、エロい意味ではまったくありません。しかし、日本ではバカの代名詞のように紹介されています。

小泉進次郎公式サイト 自民党総裁選特設ページ

Yahoo!ニュースエキスパート 「気候変動問題をセクシーに取り組む」の違和感はこうして生まれた(そもそもsexyとはどういう意味か)

今回の総裁選に関しても「彼は年金は80歳からでいいと過去に発言している」という記事が最近SNSでは拡散されていたりして炎上気味です。

でも実はこれ、ミスリードで燃え上がっていることにお気づきでしょうか。

そもそも総裁選公約のページには年金受給開始年齢引き上げを早期に実現とはしていないし、解釈も誤っている

そもそも、総裁選公約のページには、年金受給開始年齢を早期に引き上げる、といった記述はありません(解雇規制緩和も炎上していますが、こちらは公約ページに記載があります。また前提として教育訓練を求めるなど、「いきなり明日から無職」を認めるわけではない)。

年金については過去の発言を引っ張ってきての炎上のようで、例えば日刊ゲンダイ(炎上元のひとつ)だとこういう感じです。

年金の受給開始年齢は「80歳でもいいのでは」と語ったこともある。
意味するところは「死ぬまで働け」──。

2024/9/11 日刊ゲンダイDIGITAL 小泉進次郎氏「死ぬまで働け」戦慄の年金プラン “標準モデル”は萩本欽一…なんでそうなるの?

SNS投稿などで散見するのも「80歳まで年金を一円もよこさないとはふざけるな」的レスポンスです。これをもって小泉総裁はありえない、という論調になります。

これは明らかにミスリードを誘っています(投稿主も誤解したうえで、拡散をねらっている節がある)。

そもそも論として、現在の年金制度も「65歳が標準の受給開始年齢であり、前後60~75歳までの好きなタイミングでもらい始めることができる」仕組みとなっています。早くもらえば(繰り上げ)年金額を減らし、遅くもらい始めると(繰り下げ)年金額を増額する調整が行われますが、平均寿命で考えれば中立的な設計としています。

これについて、繰り下げ上限を80歳までとし、長くしっかり稼げる人、年金額が少なめなので増やしたいと希望する人などに、年金をもらい始める「上限」年齢を80歳にしたっていいじゃないか、というのが本旨です。

これについてはInfact のファクトチェック「【Fact Check】小泉進次郎は年金の支給開始年齢を「80歳でもいい」とは言っていない。」も解説していますので、ご確認ください。

2024/9/14 Infact  【Fact Check】小泉進次郎は年金の支給開始年齢を「80歳でもいい」とは言っていない。

健康寿命73.4歳で年金を65歳からもらう日本、健康寿命63.9歳で年金を67歳からもらうアメリカ

日本の制度はダメだと吠える人たちがとりあえず文句を言いたいのと、小泉氏は未熟で稚拙な発言が多いから、と印象操作をしたいのは分かりますが、実は彼、社会保障には詳しい人なので、そこで論争を挑んでも、たぶん勝てないと思います。そして、社会保障に詳しい人の視点で見ても、彼はそうおかしなことを言っていないと思います。

実のところ、日本の年金制度は「世界的にも早くもらえすぎる」国です。例えばアメリカは、67歳からもらい始める制度に移行しています。アメリカの健康寿命は63.9歳なので、介護の世話になってもおかしくないくらいの年齢になってようやく年金が出るという感じです(繰り上げ制度はある)。

これに対し、日本人の健康寿命は73.4歳のところ、年金は標準で65歳からもらえます。健康寿命とのあいだに8年あるということは、リタイアしてからも8年セカンドライフを楽しむ時間を持てるということです。

勘違いが多いのですが、「働けなくなったから年金が収入を支える」というのが本来の制度の目的であって「払った金を返してもらう」のが社会保障の目的ではありません(もうひとつ、平均以上に長生きした場合は、払った保険料以上になろうとも年金給付をもらい続けることができることになりますが、これはまさに社会保障の役割です。こちらの「得」についてはなぜかほとんど論じられません)。

とかく年金批判をしたがる人は、「年金制度の破たんリスクを回避させるべき」という批判と「オレが払った保険料を早くもらわせてくれ」という批判を使い分けますが、これは両立しないズルい理屈です。

前者は給付カットをするか受給開始年齢を一律に引き上げる選択で解消できますが当然反対します。後者は制度の破たんリスクは放置してとにかく早く受けさせろと言う選択ですから、破たんリスクは解消されません。要するにないものねだりです。

実のところ、今の年金制度改革はうまくやっている

今、国の年金制度は給付水準の調整(マクロ経済スライド)をやっていますが、これはよくできた仕組みで、すべての世代を対象とします。すでに年金受給をしている人もその対象となるからです。

年金制度の受給開始年齢を一律に引き上げる、つまり65歳でもらえる100%の年金額を67歳ないし70歳までずらすような改正をやると「これからもらう人だけ減らされる」ということになります。どちらが全世代に公平かといえば、今やっている制度のほうがベターなわけです。

ただ、このままでは全世代の年金水準が低下していきますから、制度の収支バランスが取れれば引き下げは終了します。しかし「標準のリタイアが65歳」という非現実的な年齢だけを、いつまでも固定していいのか、という問題は残ります。

実際、60歳代後半の男性は半数以上が働いているほどで、もう「高齢者」の定義は健康寿命を考えれば75歳でもいいような時代となっています。これも

そのギャップを調整するのが、給付水準の引き下げに合わせて「60~75歳の受取開始年齢の自由選択(増減を自分で決める)」であり、選択の自由を拡大する80歳までの繰り下げ年齢拡大というわけです。

今でも、「オレの払った保険料、1日でも早くくれよ」という人は60歳からもらうことができます。今後の給付水準引き下げが気になる人は67歳(16.8%増)か68歳(25.2%増)まで繰り下げて年金増額すると、十分に不安をカバーする増額率となります。

決めるのは国ではありません。自分自身で決められるようにしているのが日本の年金制度なのです。

誰が自民党総裁になり、総理大臣となるのか、冷静に見守りたい

今回、小泉候補を年金の誤解で攻撃している人(気楽に拡散に加担している人も攻撃の一員である)は、自分の無理解を拡散している、ということは理解してほしいと思います。

政策というのはまず意見があって、議論を踏まえて形にしていくものであって、それが確定事項というわけではありません。今回の、80歳も、異論反論ありきで、あえて声をあげることはあっていいと思います(なお、日本老年医学会は学術的見地からも高齢者の定義は「75歳以上」としてもいいと提言しており、政治家が勝手に言っているわけではない)。

私はむしろ、差し障りのないことだけをいう候補のほうが面白みに欠けると思います。

誰が自民党総裁になるのか、そして総理大臣となるのかは、冷静に見守ってほしいと思います。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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