初戦を迎える、なでしこジャパン。相手は成長著しいスペイン代表(1)
続々とアルガルベ入りした各国
アルガルベ地方は、ポルトガルの首都リスボンから260kmほど南に位置する、国際的なリゾート地である。1年を通して気候は温暖で、美しい海岸があり、魚介が美味しく、物価は安い。夏には欧州から大勢の観光客が詰めかける。
中心都市であるファロは、地中海に面した小さな港町だ。多くのヨットが停泊し、石畳の路地が広がる旧市街の街並みは中世の面影を残す。
街中で、今大会に出場する国の選手バスを何台か見かけた。3月1日に開幕するアルガルベカップに向け、各国の代表チームが続々と現地入りした。
24日に現地入りしたなでしこジャパンには、26日にフランス(オリンピック・リヨン)からキャプテンの熊谷紗希が、そして、27日にはドイツ(バイエルン・ミュンヘン)から岩渕真奈が合流し、23人の選手全員が出揃った。
初戦の相手、スペイン女子代表とは?
初戦の前日、28日の午後には、今大会に出場する各チームの監督が出席し、記者会見が行われた。
唯一、間に合わなかったのが、日本の初戦の相手であるスペインのホルヘ・ビルダ監督だ。
スペインは参加チームの中では最も遅く、開幕戦(3月1日)の前日に現地入りした。
その理由は、スペインだけが唯一、ポルトガルと国境を接する隣国であり、移動や時差(スペイン−1時間)、気候の面でも適応に時間がかからないためである。また、スペインの女子サッカーのトップリーグは、9月から5月にかけて行われるため、現在はシーズンの大詰め。選手たちは先週末の26日にリーグ戦を戦ったばかりで、中2日で大会初戦に臨む。
一方、なでしこジャパンは24日に現地入りして調整を続けているが、なでしこリーグはシーズン前であり、90分間の実戦感覚ではスペインに分がある。
スペインの男子A代表は言わずと知れた強豪だが、女子は、国際大会での実績は日本が優っている。日本が準優勝した2015年の女子ワールドカップ・カナダ大会で、スペインは初出場を飾ったものの、グループリーグで敗退している。最新のFIFAランキング(2016年12月23日付)では、日本が7位、スペインは14位。アルガルベカップは日本が6回目の参加となるのに対し、スペインは今大会が初出場となる。
だが、スペインが近年、力をつけてきている国であることは間違いない。成長著しいスペインは、今大会でその実力を証明することになると期待している。
今大会でスペインを率いるホルヘ・ビルダ監督は、2009年から同代表の育成年代を指導し、世界大会で実績を残してきた。
ビルダ監督が女子A代表の監督に就任したのは、2015年の女子ワールドカップ直後のことだ。
前任のイグナシオ・ケレーダ監督は、1988年から28年もの間、スペイン女子代表監督の座を務めてきた人物だった。
だが、2015年のワールドカップで、1分2敗の成績でグループリーグ敗退となり、大会後に異例の事態が起こった。大会前の準備のずさんさや女性を蔑視するような言葉を用いるなど、独裁的なチームマネジメントを行ってきたケレーダ監督に対し、ワールドカップに出場した23人の選手が退任要求の声明を出したのだ。積み重なった不満がそのような形で顕在化したことで、ようやく、スペインサッカー協会が動いた。ケレーダ監督は解任され、新たにビルダ監督が就任したのだ。
リーダーが変われば、チームは変わる。
昨年9月に行われたUEFA欧州女子選手権(Women’s EURO)2017のグループ予選で、スペインは8試合で全勝。39得点2失点の成績で、今年7月にオランダで開催される本大会への出場権を勝ち獲った。
1年半あまりの間に、スペイン女子代表を取り巻く環境は大きく変化した。FCバルセロナをはじめとする、世界トップクラスの育成メソッドを持つスペインサッカー界だけに、女子の強化に本腰を入れれば、短期間で強豪国の仲間入りできる可能性は秘めている。
日本はスペインとA代表同士の対戦経験はないが、育成年代では、これまでに何度も対戦している。近年では、2014年の同U-17女子ワールドカップのグループリーグと決勝で2度対戦し、いずれも日本が2-0で勝利した。
一方、この時のメンバーが多く参加した(21人中、日本は8人、スペインは10人)昨年末のU-20女子ワールドカップ(グループリーグ)では、日本が0-1で敗れた。
この時にU-20スペイン女子代表が見せたサッカーは、パスをつなぎ、ポゼッションを重視するスタイルであった。個々の能力は高く、体格の良さに加えて、足元の技術も高かった。
今大会に臨むA代表のサッカーの方向性も、大きくは違わないだろう。そうなれば、日本にとってはスタイルの近いチームとの対戦となる。ビルダ監督の下で1年半以上の月日をかけてチームを作り、ユーロ予選など国際大会で経験を積んでいるスペインと日本の初戦は、見ものである。
さらに、ビルダ監督にとっては、今回の日本戦で負けられないもう一つの理由がある。2014年のU-17女子ワールドカップで、同氏が率いたU-17スペイン女子代表は準優勝という成績を残した。だが、この時に唯一、勝てなかったのが高倉麻子監督率いるU-17日本女子代表だった。しかも、グループリーグと決勝の2試合とも、スペインが2-0で完封負けしている。
ビルダ監督は、大会に向けた意気込みを次のように話している。
「(スペイン、日本、アイスランド、ノルウェーが入った)グループBは今大会でもっとも難しいグループだ。ワールドクラスのレベルのチームが揃っている。フレンドリーマッチではなく、これはトーナメントだ。しかも、(試合ごとに)たったの24時間しかリカバーの時間がない。勝ち抜くことは難しいが、楽しみだ。」(ビルダ監督)
選手を積極的に起用しながら、結果も求める大会に
なでしこジャパンは初戦を翌日に控え、前日の午後には紅白戦を行った。
「パン!」「パーン!」という、ボールを叩くメリハリの効いた音に、今回の合宿で強調されているパススピードへの意識の高さが表れている。
大会が始まれば、8日間で4試合を戦わなければならない。1試合目と2試合目、3試合目と4試合目の間は中1日しかなく、まさに総力戦での戦いが求められる。
1試合あたり、交代は6人まで可能だ。
「初戦のスペイン戦は、コンディションの良い選手を起用します。その中で、新しいポジションの抜擢も含めて全員がある程度の時間帯をプレーできるように考えながらも、勝つことにこだわっていきます。そのバランスは難しいと思いますが、私自身のチャレンジでもあります。(この会見場で)全チームの監督に会ってみて、負けたくないという気持ちが強くなりました。立派なトロフィーを持って帰りたいです」(高倉監督)
前日の記者会見の壇上に上がった11人の監督は、他国へのリスペクトを口にしつつも、一様に目は笑っておらず、優勝トロフィーを前に静かな火花が散っていた。
スペイン戦では90分間ゲームをコントロールすることが大事だが、厳しい局面にも遭遇するだろう。そんな試合の中で、いかにチームの課題に取り組めるかを見極めたい。
そして、どの大会においても、初戦の結果は最も重要である。
新生なでしこジャパンにとって初の国際大会が、いよいよ今日、幕を開ける。
※アルガルベカップでの日本の全4試合は、フジテレビ系列にて全国生中継(一部地域を除く)。
初戦のスペイン戦は3月1日(水曜日)、23時45分(日本時間)にキックオフを迎える。放送は、23時30分から。