Yahoo!ニュース

米サッカー10歳以下ヘディング禁止規則。その後はどうなっているのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

昨年11月、米サッカー協会は10歳以下の子どものヘディングを禁止、11-13歳以下の子どもは練習中のヘディング回数を制限すると発表した。脳震盪や脳への長期的な影響を防止するためだ。

ニュースを伝えるCNN.co.jpの記事。10歳以下のヘディング禁止、サッカー協会が新規定 米

この時点では、ヘディング禁止規則は、米サッカー協会傘下のユースナショナルチームとその育成アカデミーに所属している子どもが対象となっていた。この他の団体やリーグについてはこの規則の導入を強く推奨はするものの、最終的な判断は個々の団体やリーグに委ねるというものだった。

この発表直後にミシガン州でサッカーチームを運営するコーチに話を聞いたところ「禁止するよりも、ケガをしにくいヘディングの技術を指導したほうがよいと思う」という意見だった。

米サッカー協会傘下以外の各団体にとっては、10歳以下のヘディング禁止は推奨されているが、どうしても守らなければいけない禁止規則ではない。そのため、全米各地ですぐさま禁止規則が浸透していくかどうかは、そのコーチも筆者も懐疑的だった。

しかし、今年に入ってから、10歳以下のヘディング禁止規則を導入するという他団体からの発表が続いている。

米サッカー協会とは別の団体で、全米各地に50万人の選手を抱えるThe American Youth Soccer Organization(AYSO)は2月に、11歳以下の選手にはヘディングを禁止すると発表。U11というカテゴリーを持たないリーグやチームには、12歳以下までヘディングを禁止することと、14歳以下の選手はヘディング練習は1週間のうち30分以内、ヘディング回数は15-20を超えないことと付け加えた。

ほぼ同じ時期に、8万人の参加者がいるイリノイ州のイリノイユースサッカーでも、10歳以下のヘディング禁止を発表した。

フロリダ・ユースサッカー・アソシエーションでも、米サッカー協会の推奨に従い、10歳以下のヘディングを禁止すると発表。ペンシルバニア・ウエスト・ユース・サッカー協会でも11歳以下のヘディングを禁止。4月にはミシガン州ユースサッカー・アソシエーションでも同様の発表があった。

ヘディングをした場合には相手チームのフリーキックにするなどを規則に加えるようだ。

ここに挙げた団体や組織は、筆者が新聞報道や各ホームページで確認できたものだけを紹介したもの。実際にはこれより多い団体がヘディング禁止規則を取り入れていると推測される。

子どもたちの健康や安全は、サッカーが上達することよりも何よりも最優先されなければならない。脳震盪の後遺症に苦しんだり、長年のヘディングにとよって脳にダメージを受けることは避けなければいけない。

それと同時に、米国のサッカーが10歳以下ヘディング禁止をしたことは 実際に子どもたちを守るために、どれだけの効果があるのかは検証されなければいけないだろう。

サッカーの練習や試合中に発生する脳震盪はサッカーボールをヘディングするよりも、他の形のフィジカルコンタクトのほうが発生率が高いという調査も出ている。もし、そうであるならば、フィジカルコンタクトを制限しなくてはいけないということにもある。

それに、現在の幼少期からの競技化傾向が、子どもの身体に負担がかかっているというスポーツを取り巻く状況も考慮しなければいけないだろう。

大人たちのサッカーや国際大会の競技規則でヘディングが許されている以上、中学、高校、青年期までサッカーを続けていく子どもたちは成長の過程で頭部にダメージを受けにくいヘディングの技術を身に着ける必要がある。大けがをしにくいフィジカルコンタクトも学ばなければいけない。

米サッカー協会が昨年11月にヘディング禁止を発表したのは、2014年に米サッカー協会などを相手取って、裁判を起こされたことがきっかけになっている。原告はサッカー選手の保護者グループで、原告との合意内容にヘディングの禁止や脳震盪について啓蒙することなどが盛り込まれていた。

10歳以下のヘディングが禁止になったのは裁判で原告側と和解するために必要な条件だったという一面もあるようだ。他の団体がこの禁止規則を次々と取り入れていったのも、子どもの健康を守るという目的のほかに、訴訟対策という意味合いもあるようにも思える。もし、この禁止規則が、訴訟対策のために安易に広まっていくのだとしたら、サッカーをする子どもの体を守るという問題の本質を見失っていかないか、注意しなければならないと思う。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

谷口輝世子の最近の記事