「ライドシェア」実際に使った人からは好評との調査
ライドシェアの導入に向けた議論が始まっている中、10月26日にMM総研が公開した調査では、海外での利用経験の有無による興味深い違いが出ています。
ライドシェアのメリットとデメリットはどのようなものか、筆者の視点を加えながら解説します。
使った人からはおおむね好評
MM総研の調査は、全国の15~79歳の男女3000人を対象にしたWebアンケートによるものです。
これによると、ライドシェアの国内導入について「賛成」「どちらかといえば賛成」を選んだ比率は、利用経験がない人の「35.6%」に対して利用経験がある人は「84.1%」と、大きな違いが出ています。
ライドシェアの利用経験がある人は、どこにメリットを感じているのでしょうか。大きく差があるのは「キャッシュレス決済でトラブルが発生しにくい」「乗り降りがスムーズ」といった点です。
一方、これはやや誤解を招きやすい点ともいえます。たとえば「GO」のようなタクシーの配車アプリでも同じ機能がある、といった指摘を見かけることがあります。
たしかに配車アプリの使い勝手はライドシェアのアプリによく似ており、乗りたい場所をマップで指定し、車内で支払いが発生しないので降りるときもスムーズです。
しかしライドシェアの特徴は、アプリで配車できることではなく、「乗客と多様なドライバーのマッチング」にあります。
たとえばタクシーが捕まらないときでも、空席のあるクルマが走っている場合、「お金を払うので乗せてほしい」「お金をもらえるなら乗せてあげる」というマッチングが成立すれば、社会全体がずっと効率的になります。
ドライバーは、単にお金を稼ぐだけでなく、休日にクルマを走らせたい人、地域に貢献したい人など、さまざまな目的の人が参加することが重要です。そしてこの点がタクシー業界からの大きな反発を呼ぶ理由にもなっています。
ところで、普通は知らない人のクルマに乗るのは不安があるものです。調査では、ライドシェアの利用経験がない人の46.4%が、「犯罪などに巻き込まれる可能性」をデメリットに挙げています。
一方、利用経験がある人は27.7%と、犯罪についてそこまで深刻にとらえていないことが分かります。海外でのライドシェアのトラブルや事件が大きく報じられることで、利用経験がない人はマイナスイメージを抱きやすい印象を受けます。
実際にどんな人がライドシェアのドライバーをやっているのかというと、クルマが好きで自慢してくる人、学校教師の副業としてやっている人、エンジニアの仕事を求職中の人が、筆者の中では印象に残っています。
いずれも安全面での不安を感じたことはありません。ただ、この点について筆者は男性であり、女性はまた違う意見になるかもしれません。
「接客の質が不安」という項目にも大きな差がついています。利用経験がない人は42.4%が不安を持っているのに対し、利用経験がある人は25.5%とあまり心配していません。
筆者の経験では、ライドシェアのドライバーは基本的に親切な人が多く、車内の空調やBGMに気を遣ってくれたり、ペットボトルのドリンクやキャンディを勧めてくれたりする人が印象的でした。
他の都市から出稼ぎに来たようなドライバーの場合だと、基本はマップに従って走るだけなので道に迷うことはないものの、ホテルへの入り方がマップだけでは分からず、細かく指示を出したこともあります。
料金の安さについては、利用経験の有無にかかわらずメリットと考える人が多いようです。ただ、実際にはライドシェアが必ずしも安いとは限りません。混んでいるときには料金が2倍、3倍と跳ね上がることがありました。
料金の高騰について、Uberは「ドライバーの稼働率と乗客の需要のバランスを回復させるため」と説明しています。ドライバーにとっては稼ぎ時になる一方、乗客は様子を見る人が増えるため、やがて価格は落ち着くという仕組みです。
タクシーの料金は規制されており、ぼったくりなどの心配もないのは安心といえます。ただ、タクシー待ちに長蛇の列ができるような状況は本末転倒です。どちらかといえば料金が需給に応じて変動するほうが健全ではないかと考えます。
本質はAI競争か
仮にライドシェアが解禁されたとしても、サービスの内容によっては「タクシーのほうが便利」となる可能性は十分にあります。
乗客にとっては、アプリを起動したとき近くにライドシェアのドライバーがいなければ、タクシーを呼んだほうが早いわけです。
一方、ドライバーにとっては配車の注文が次々と入らなければ稼ぐことができず、他の仕事をしたほうがマシと思うでしょう。
このマッチングの采配を握るのがAIです。2018年7月のSoftBank Worldでは、AI企業への投資に熱心な孫正義社長がライドシェア解禁を訴える姿が印象的でした。
現在はタクシー不足の解消という視点でライドシェアの導入が議論されているものの、その本質は、フードデリバリーなど他のマッチングプラットフォームと同様に「AIの競争」といえそうです。