天の川銀河中心の巨大ブラックホール「いて座A*」の直接撮影に成功!
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「天の川銀河中心のブラックホールの直接観測に成功」というテーマで動画をお送りしていきます。
日本時間5月12日の22時、人類史上初めて天の川銀河の中心部にある超大質量ブラックホール「いて座A*」の直接観測に成功したと発表があり、Twitterのトレンドに載るほどの大きな話題を呼んでいました。
今回はこの話題について、詳しく解説していきます。
●銀河系の中心には何がある?
私たちの太陽系は、太陽のように自ら光輝く恒星が2500億個も集まっている超巨大な星の大集団である、天の川銀河に属しています。
そんな天の川銀河の中心部には、一体何があるのでしょうか?
1974年に地球から見て天の川の中心部があるいて座の方向を電波望遠鏡で観測した結果、周囲と比べて異常に強くコンパクトな電波源を発見したんですね!
この電波源は、「いて座A*」と名付けられました。
電波源いて座A*には巨大なブラックホールがある可能性が高いと考えられていましたが、確証を得るためにはいて座A*にある巨大な質量が非常にコンパクトな領域に密集していることを示す必要がありました。
そんな中、ラインハルト・ゲンツェル博士とアンドレア・ゲッズ博士は、それぞれ別々のチームを率いて、1990年代半ばから実に26年間に渡っていて座A*を観測し続け、見事周囲で公転する星々の正確な軌道を特定することに成功しました。
この動画は、過去16年間で得られた実写画像を組み合わせて動画化した、まさに実写動画です。
この動画では恒星の動きは3200万倍速く表現されています。
このような観測によって特定した星々の公転軌道から、いて座A*には実に太陽の430万倍にも及ぶとてつもない質量をもった天体が、非常にコンパクトな領域に集中していることが明らかになりました。
その結果、天の川銀河中心部には太陽の430万倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在していることがほぼ確実視されるに至ったというわけです。
人間の想像を遥かに超える超大質量ブラックホールがこの宇宙に、さらにこの天の川銀河内に実在していることを示すことができた功績から、ゲンツェル博士とゲッズ博士は2020年のノーベル物理学賞を受賞しています。
ただし理論上その存在はほぼ確実視されていましたが、その姿が実際に捉えられたことはなく、あくまで理論上の存在となっていました。
●いて座A*の姿を直接撮影!
そんな中、つい昨日、天の川銀河中心のブラックホールいて座A*の姿を遂に直接撮影することに成功したと発表があり、非常に大きな話題を呼んでいます!
そもそもブラックホールとは、物質があまりに高密度に集まり、重力が強くなりすぎてその周囲から光すらも脱出できなくなった天体のことを指します。
つまりブラックホールからは光すらも出てこれないので、ブラックホールから放たれた光を捉えることはできません。
ですがブラックホールの周囲にあるガスなどの物質は、光速に極めて近い速度でブラックホールを公転し、超高温で光輝く円盤状の構造(降着円盤)を形成します。
降着円盤から放たれた光がブラックホールの重力で進路を歪められ地球に届くと、ブラックホール本体が存在する部分にぽっかりと黒い影(ブラックホールシャドウ)が浮かび上がります。
今回の画像ではこのブラックホールシャドウが直接示されたことで、これまで理論上の存在だったブラックホールが実在することを証明しました。
新たに公開された画像のシャドウは、直径が約6000万kmありました。
これは一般相対性理論から推定されるブラックホールシャドウの大きさと一致しています。
この画像から計算されるいて座A*の質量は、太陽の400万倍です。
2019年4月には、今回発表を行ったのと同じEHTのチームによって、今回と同様のメカニズムで映り込んだ、地球から約5500万光年離れたM87という銀河の中心にあるブラックホールのシャドウの姿も公開されています。
M87のブラックホールの質量は、太陽の65億倍にもなります。これはいて座A*の実に1500倍に相当します。
ブラックホールシャドウの半径は質量に比例するため、今回のいて座A*の画像はM87の1500分の1の大きさしかありません。
具体的には、M87の画像の内部にある冥王星軌道の約120分の1の大きさしかない水星軌道が、いて座A*の画像ではその構造の外周部に位置しています。
●どうやって観測したの?
いて座A*は地球から約27000光年も彼方の銀河中心部にあるため、地球からの見た目の大きさは、なんと月面に置かれた直径約8程度のドーナツに相当します。
M87の見た目の大きさも大体同じくらいです。
このような極めて小さな構造を捉えるには、単一の望遠鏡の性能では足りません。
そこでEHTでは、世界中の8つの主要な電波望遠鏡をリンクさせ、1つの地球サイズの電波望遠鏡を実現しています。
このような手法をとることで、人間の視力換算で実に300万という観測性能を手に入れることに成功しています。
M87、いて座A*共に2017年4月に行った観測のデータから画像化に成功していますが、いて座A*の画像化は特に難しく、より長い時間がかかりました。
いて座A*を撮影するのが難しい理由として、天の川の方向にあることが挙げられます。
天の川は非常に物質の密度が高く、ブラックホールからやってきた光の情報が遮られてしまいます。
そしてもう一つ画像化が難しい理由として、いて座A*はM87と比べて非常に小さいために、短期的な構造の変動が起こっているという点が挙げられています。
どちらのブラックホールの周囲でも、そこを公転する物質の速度は光速に近い点で同じです。ただし同じ光速でも、いて座A*はM87の約1500分の1の大きさしかないため、見た目の変化が分刻みで起こってしまいます。
そこでいて座A*の画像化においては、2017年の観測データをもとに様々な手法によって膨大な数の画像を生成し、それらの画像に共通する平均的な構造を抽出しました。
数年間にわたる作業の末、膨大な画像から、ノイズに左右されない共通の構造(リングとブラックホールシャドウ)が得られました。
●画像の意義と今後の課題
今回得られた画像によって、史上初めていて座A*の存在を直接示すことに成功しました。
これまでも存在はほぼ間違いないとされていましたが、確実にあると言えるようになったのは、大きな進歩でしょう。
また、このような画像から、一般相対性理論の検証ができます。
いて座A*のブラックホールシャドウの大きさは理論上予想されていたものと同程度だったことから、改めて理論の正しさが証明されました。
そしていて座A*をより深く知ることで、天の川銀河全体の構造や歴史をより深く理解することにも繋がります。
ブラックホールの進化と銀河の進化は切っても切り離せません。
一方で、課題も残されています。まず、ブラックホールから放たれていると考えられているジェットの根元が今回も撮影されていない点です。
M87のブラックホールからジェットが放たれていることは間違いなさそうですが、いて座A*からジェットが放たれているかどうかには議論の余地があります。
今後より詳細な観測によりその真偽が明らかになることに期待がかかります。
また、ブラックホールの動画化も課題として残ります。
いくつもの画像を組み合わせて動画化するには、さらに長い時間がかかるとされています。
遠くないうちにブラックホールの「実写動画」が公開されるのが、今から本当に楽しみですね!