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宮崎県の埠頭で捨て猫が180匹、青森県の展望台で野犬が10匹... 両者の運命の差とは

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
(写真:アフロ)

「宮崎県の埠頭で捨て猫180匹」と「青森県の展望台で野犬10匹」のふたつのニュースが流れました。行政の対応は、猫と犬では違います。一方で、野良猫、野良犬は、どちらも人が作り出したものです。野良猫や野良犬も、好き好んで外で生活をしているわけではありません。こうなってしまった経緯を踏まえつつ、野良猫と野良犬を待ち受ける運命の差について読み解いてみましょう。

 宮崎港(宮崎市)で捨て猫が絶えない。病気や事故で死ぬ例も相次ぎ、宮崎市に拠点を置く市民団体「宮崎ねこの会」が「もう捨てないで」と呼びかけている。不定期に餌を与える人もいて、周辺にはゴミや糞(ふん)が散乱。同会は初めての一斉清掃に取り組んだ。

 山本さんたちは昨年2月、緑地帯に暮らす猫たちを「地域猫」として登録し、これまでに201匹の不妊・去勢手術を済ませた。

 だが、手術をしていない猫が後から後から見つかり、追いつかない状況という。

 野良猫の寿命は4~5年程度とされる。手術をすれば繁殖できず、全体の数は減るはずなのに、「ここでは一向に減らない」(山本さん)。現在、緑地帯で暮らす野良猫は約180匹とみられる。病気やけがをする猫も多く、毎月数匹の死骸が見つかるが、それとほぼ同じペースで捨て猫が加わっていると推察される。

出典:埠頭で止まらぬ捨て猫180匹 「餌がある」期待されて

この野良猫のニュースをざっくりまとめると、宮崎県の埠頭で野良猫が、繁殖を続けて180匹ほどにまで増えてしまったそうです。そのため、市民団体「宮崎ねこの会」が動いて、ゴミや糞を処理をして、地域猫として避妊・去勢手術をしているということです。行政は動いていません。一方、次の記事を見てください。

 青森県大間町の観光スポット「西吹付山展望台」付近で野犬が目撃されるようになり、展望台につながる遊歩道が今月、立ち入り禁止となった。町と県動物愛護センターが昨年から捕獲を試みている。野犬が捕獲されるまで、展望台からの眺めは、お預けになりそうだ。

出典:野犬怖い… 絶景しばらくお預け/西吹付山展望台(大間)で多数目撃/立ち入り禁止 町など捕獲へ

こちらのニュースもざっくりまとめると、青森県の展望台で昨年、1〜2頭の野犬が確認されてから、現在では10頭ほどにまで増えてしまったそうです。まだ実際には野犬が人を襲っていないけれど、危険だということで、行政がこの地域を立ち入り禁止にして、捕獲を試みるということです(この場合は、10匹ですが、たとえば1匹の犬でも住民から通報があれば、行政は捕獲します)。

このニュースの大きな差は、猫と犬ということで、行政の対応が違うことです。猫の場合は、市民団体が動き、犬の場合は、行政が動いています。なぜ、違いがあるのかを考えてみましょう。

狂犬病予防法からの犬と猫の違いとは?

大学時代の獣医師の同級生は、行政で働いている人もいます。彼らは、基本的に動物好きですから、犬猫を助けたいと考えています。でも、自分の感情で動くわけではなく、法律に沿って仕事をしているわけです。犬猫に関する法律のひとつに「狂犬病予防法」というものがあります。この法律は、「狂犬病の発生を予防し、そのまん延を防止し、及びこれを撲滅することにより、公衆衛生の向上及び公共の福祉の増進を図ることを目的」としています。抑留という以下のような項目もあります。

(抑留)

第6条  

予防員は、第4条に規定する登録を受けず、若しくは鑑札を着けず、又は第5条に規定する予防注射を受けず、若しくは注射済票を着けていない犬があると認めたときは、これを抑留しなければならない。

2  予防員は、前項の抑留を行うため、あらかじめ、都道府県知事が指定した捕獲人を使用して、その犬を捕獲することができる。

狂犬病予防法サイト より

簡単に説明すると、狂犬病予防法より、野犬は、鑑札を着けていないし、狂犬病を受けていない疑いがあるので、青森県の展望台の犬は、捕獲が試みられているのです。宮崎県の猫は、この狂犬病予防法に触れないので行政は犬と同じことをしないのです。犬は、噛みに来ることがありますが、猫は、あまりそういうことがない(中には、飛びかかってくる子もいますが)ので、このような法律になっています。

私が、子どもの頃、野良犬はまだ、多くいました。小学校からの下校途中で、野良犬に噛まれそうになった経験もありますが、いまでは、都会では放し飼いの犬をあまり目にすることがなくなりましたね。その一方、外で猫を目にします。これは、全国的に問題になっています。

野良猫を作り出さないためには

環境省 新・普及啓発用パネル
環境省 新・普及啓発用パネル

・第一は、やはり避妊・去勢手術をしましょう。猫はつがいで飼っていると1年で20匹ぐらい増える動物です。

・猫を捨てる行為は、「動物の愛護および管理に関する法律」に違反します。逮捕・起訴され、100万円以下の罰金に処せられることもあります。

猫はハトやスズメのような野生動物ではありません。猫は人が長い時間をかけて作り出した愛護動物であり、その命を人に依存しています。

大阪市の公園の猫と取り組み

大阪市では、公園猫適正管理推進サポーターという制度を決めて以下のようなことをしています。

1、不妊去勢手術の実施

公園猫適正管理推進サポーター制度においては、不妊去勢手術の助成はありません。サポーターの方は、手術費用の全額もしくは一部をご負担していただいて、活動をしています。

2、餌の放置をしない

・餌を放置すると、カラスやハトなどが食べるほかに虫がわくなど衛生上の問題が発生します。

・知らない間に猫が食べにくるので、管理ができにくくなります。

・管理のできない猫によって繁殖につながる可能性があります。

・サポーターの人たちが、適正に餌をあげると、決まった時間に並んで待つようになり、手術や保護が容易となります。信頼関係ができるのですね。

3、周辺清掃をする

・サポートの人たちが、猫の糞だけでなく、その他のごみも片づけます。

・公園の美化活動は、他の公園利用者の方にも猫を理解していただきやすくなります。

公園における飼い主のいない猫対策について」 より

野良犬を作り出さないためには

環境省 新・普及啓発用パネル
環境省 新・普及啓発用パネル

・猫と同様、避妊・去勢手術をしましょう。

・室内飼いか、もしくは、外で飼う場合は逃亡しないようにしましょう。

・猟などで犬が行方不明にならないようにしましょう。

まとめ

猫や犬は、長い年月をかけて人と暮らせるように作り出しています。外にいると、自分で餌を探し、雨が降れば濡れます。暑いと熱中症にもなります。そんな環境下いることは、不幸ですね。避妊・去勢手術をするということは、聞き慣れたことかもしれませんが、それを飼い主に理解していただき、行動に移してもらうことは、大切です。そして、飼い主が、病気、老い、家族の事情などどうしても飼えなくなったら、捨てるのではなく、新しい里親を探すなど最大限の努力をしてくださいね。このようなことを辛抱強く伝えて、みなさんに啓蒙していくことで、野良猫や野良犬がいない国になると信じています。

   

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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