特別警報が発表となった熊本・鹿児島を中心として、今日も明日も雨に警戒
特別警報の発表
気象庁では、平成25年(2013年)8月30日から「特別警報」の発表を開始しました。
これは、予想される現象が特に異常であるため、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい旨を警告する新しい防災情報です。
警報が発表されるときは、重大な災害がおきるときでしたが、特別警報が発表されるときは、警報の中でも特に危険な状態が迫っている時で、国や地方自治体等の防災機関は、最大限の防災対応が求められています。
県から市町村への特別警報の伝達が義務化され、確実に伝達されます。
気象等の特別警報が対象とする現象は、複数の府県にまたがる広い範囲で、甚大な災害が同時多発的に発生する現象です(表1)。
具体的には雨量などが「50年に1度」の値を超えたときに発表するなどの発表基準が決められています。
気象庁では、被害が発生した令和元年(2019年)の台風15号(特別警報の発表なし)と台風19号(13都県で大雨特別警報を発表)への対応を検証していた外部有識者で構成される「防災気象情報の伝え方に関する検討会」の検討結果を踏まえ、令和2年3月に特別警報の発表基準の見直しを決めています。
現在、気象庁では、土砂災害や水害の発生との結びつきが深い指数を用いた新基準を1km四方単位で設定し、令和元年10月11日から試験的に伊豆諸島北部で運用しています。
また、令和2年度は、同じような新基準を運用する地域を拡大し、全国の市町村の大半から意見を聞いたうえで、準備の整ったところから運用を開始するとしています。
気象庁は、「気象現象の予報」から、「災害被害の予報」にかじを切ったといえるかもしれません。
令和2年(2020年)7月上旬の特別警報
令和2年(2020年)7月4日は、未明から梅雨前線の活動が活発となり、前線上に発生した小さな低気圧が通過したタイミングで記録的な大雨となりました(タイトル画像、図1参照)。
気象庁は令和2年7月4日4時50分に熊本県と鹿児島県に最大級の警戒を必要とする大雨特別警報を発表しました。
3時30分に熊本県芦北町付近で120ミリ以上等の記録的短時間大雨情報を発表するほどの集中豪雨が降ったためです(表2)。
記録的短時間大雨情報とは、1時間に80ミリ以上の猛烈な雨を観測または解析し、さらにその地域にとって数年に一度程度しか発生しないような大雨である場合に発表される情報です。
雨量計による観測で発表することに加え、雨量計による観測がない場所でも、レーダー等を用いた解析雨量を使って発表となりますが、このときは精度の問題で一番大きな値が「120ミリ以上」です。
つまり、今回の熊本県芦北町付近の雨量は、これ以上の値がないという最大限の雨量ということです。
記録的短時間予報が発表された周辺地域ではり、土砂災害や河川の増水など、災害の危険性が高まっているため警戒が必要となりますが、熊本県やそれに隣接する鹿児島県は、まさにそのような状態になっています。
大雨特別警報は、11時50分に大雨警報に切り替えになりましたが、熊本県の球磨川で6時30分頃に球磨村の右岸で氾濫するなど、大きな被害が発生しました。
大雨特別警報が警報に切り替わる時、昨年までは「大雨特別警報解除、大雨警報発表」という伝達の仕方をしていましたが、今年からは「大雨警報に切り替え」ということを前面に出しています。
これは、大雨特別警報解除という言葉が安全であるとの誤解をあたえることがあったためです。
活発な梅雨前線は、特別警報が発表となった熊本・鹿児島両県だけでなく、東海から四国にかけて、多い所で24時間に200ミリ以上の雨を降らせました(図2)。
梅雨前線の活発な活動
梅雨前線は多少の南北方向の移動はありますが、ほぼ同じ位置で活発化しています。
気象庁が発表した大雨情報によれば、7月5日6時から6日6時までの24時間に、九州南部では200ミリ、東海地方では150ミリなどの雨が降ると予想しています。
そして、その後の24時間ではもっと雨が強まり、東海地方で300~450ミリ、九州南部で300~400ミリなどと予想しています(表3)。
気象庁では、早期注意情報を発表し、5日先までに警報を発表する可能性を「高」「中」の2階級で示しています(図3)。
これによると、7月5日(日)の日中は熊本・鹿児島・宮崎の3県で、5日(日)夜から6日(月)明け方までは3県に加えて静岡県の4県で、6日(月)朝から夜遅くまでは愛知県が加わった5県で大雨警報を発表する可能性が「高」となっています。
また、西日本・東日本および東北地方では「中」の県が少なくありません。
ほぼ全国で、今日も明日も雨に警戒が必要です。
特に九州地方は、7日(火)も、8日(水)も「中」となっていますので、厳重な警戒が必要です。
地面の中にかなりの水分が含まれている所にさらに大雨が降って土砂災害が起きやすくなっており、その状態は長く続きます。
命を守るため、マスクや体温計などを持参し、早めに避難所や避難場所に移動する必要があります。
タイトル画像、図2、図3、表3の出典:ウェザーマップ提供。
図1、表1の出典:気象庁ホームページ。
表2の出典:気象庁資料をもとに著者作成。