まだまだ続く「京都芸術大学」名称問題(+判決文解説)
京都市立芸術大学と京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)の名称に関する争いの地裁判決については、少し前に書きました。判決では、京都市立芸術大学が求めた、「京都芸術大学」の名称の使用差し止めは認められませんでした。これに対し、京都市立芸術大学側が大阪高裁に控訴したとのことです(参照記事)。
また、商標権侵害による仮処分を申し立てていたそうですがこちらは取り下げたそうです(参照記事)。おそらく、8月に登録された「京芸」「京都市立芸術大学」という商標に基づいた仮処分だと思いますが、後述のとおり、地裁判決で「京都市立芸術大学」と「京都芸術大学」は、(少なくとも不正競争防止法の文脈では)非類似という判決が出てしまったので、仮処分が認められる可能性も低くなり、不正競争防止法による裁判の方にフォーカスした方が得策であると判断されたためと思われます。
さて、前回の記事を書いたときには非公開だった地裁の判決文が公開されています。基本的には、前回の記事で推測したのと同じですが、以下にまとめます。
本訴訟は、不正競争防止法に関するものです。関連する条文は以下です。
大雑把に言うと、(1)著名名称と同一・類似の名称の使用(2条1項2号)、(2)周知名称と同一・類似の名称の使用により、需要者に混同を生じさせている(2条1項1号)、の2パターンです。商標登録がなされていない名称に関する争いでは典型的に見られるパターンです。商標登録がされている名称の場合は、基本的に類似関係のみが争われることになりますが、不正競争防止法の訴訟では、原告側は、加えて、著名であるか(パターン1)、あるいは、周知+混同が生じていること(パターン2)を立証しなければならず、原告側のハードルが上がります。
なお、「著名」とは「周知」よりも有名度が高い状態のことを言います。「著名」とは、全国的にほぼ誰でも知っているような状態を指します。たまに、不正競争防止法による権利行使を考えているお客様が「うちの店は一度テレビで紹介されたから『著名』なはずだ」的なことを言われることがありますが、そのレベルでは不正競争防止法の文脈で言う「著名」にはまったく達しません。
今回、問題になった名称(商品等表示)は、以下の5つです。
1. 京都市立芸術大学
2. 京都芸術大学
3. 京都芸大
4. 京芸
5. Kyoto City University of Arts
まず、これらの名称の著名性に関する判断(パターン1)です。
前述のとおり、「著名」のハードルは高いですが、大学名に関する不正競争防止法の訴訟で「青山学院」の著名性が認められた例もありますので、まったく無理筋とは言えません。しかし、裁判所は「京都市立芸術大学」では著名ではなく、ゆえに、「京都芸術大学」「京都芸大」「京芸」「Kyoto City University of Arts」も著名ではないとしました。
次に、周知性と混同に関する判断(パターン2)です。
裁判所は、「京都市立芸術大学」の周知性を認めましたが、「京都芸術大学」「京都芸大」「京芸」「Kyoto City University of Arts」については周知ではないとしました。なお、周知は需要者(=京都近隣に住み芸術に関心のある人)の目線で判断されます。
そして、「京都芸術大学」という名称が周知でないとされた以上、次は、「京都市立芸術大学」と「京都芸術大学」が類似するかどうかが論点になりました。直観的には市立のあるなしだけなので類似でありそうに思えますが、裁判所は非類似(混同を生じさせているかは判断するまでもない)との結論を出しています。
商標や商品等表示の類似判断はメカニカルに行なうのではなく、需要者目線で、取引の実情を加味して行なうこととされています。そして、一般に大学名では、微妙な違いがあっても需要者は区別して混同することはないという取引の実情があるので、市立のあるなしは大きいと判断されました。これは、まあ、妥当な判断ではないかと思います。
京都市立芸術大学側にとっては厳しい結果になってしまいました。私見になりますが、証拠の出し方次第で「京都市立芸術大学」が、名称の著名性、あるいは、「京都芸術大学」という略称の周知性を認められる可能性はあると思っていますので、控訴審の結果に注目しています。