生成AIのアウトプットを証拠として主張した裁判例について
私がXで行った以下の投稿が、なぜか私史上最大のインプレッション数を記録していますので説明しておこうと思います(Xの記事埋め込み機能がうまくいかないので仮で画像貼付けしています)。
問題の裁判は、特許料納付や審査請求などの期限日を超過したとにより取消処分を受けた特許権の回復を特許庁に対して求めるものです。弁理士先生がうつ症状により適切な業務をできずに期限超過をしてしまったとのことです。この裁判と同じ当事者で同様の裁判が何件も行われていますが、本題には直接関係ないのでこれ以上は触れません。
過去においては、特許法に定められた特許料納付等の期限はかなり厳格で、期限を逃してしまうと、たとえば天変地異や出願人・代理人の病気入院等の相当な事情がない限り覆されることはありませんでした。ゆえに、期限管理は特許事務所としてはきわめて重要な業務です。おそらく、弁護士事務所よりもシビアだと思います。
しかし、2023年4月日より施行された特許法改正により、「故意でない」という条件により、多くの期限超過が救済されるようになりました(ただし、20万円強という結構な額の手数料が必要です)。この裁判で問題になっている期限超過はこの改正以前のものです。
判決文によると、原告(控訴人)は、
と、上記の期限超過の緩和はもっと早くに有効になっていないとおかしいので、今回の期限超過も救済されるべきと主張しています(太字は栗原)。
これに対して、裁判所は、
と生成AIだからどうという点は完全スルーで真っ向から否定しています(そもそも、平均より公布に時間がかかかっているので違憲・無効と主張すること自体にかなり無理があるので、ほとんど論点化されていません)。
ちなみに、今、ChatGPTやGeminiに「日本の法律の公布から施行までの平均期間は?」と聞くと「日本の特許法改正における公布から施行までの期間は、改正内容や準備状況により異なりますが、一般的には約6か月から1年程度が多いとされています。」との答が返ってくるので、平均が4.5カ月というのはどこから来たのかよくわかりません(訴訟準備時点ではそう答えていたのかもしれませんが)。
一般的に言って、少なくとも現時点での生成AI(より正確に言えばLLM(大規模言語モデル))は、「表現については頼りになるが事実については頼りない」といえます。データベースやウェブサイトを検索するわけではなく、次に来る単語を予測するだけというLLMの仕組み(いわば、カナ漢予測変換のお化け)を考えれば明らかです。RAG等、この問題を解決するための技術はありますが、それでも、あまり一般的ではない特定の事実をピンスポットで調べるような場合には、まだ平気でウソをつきますので、注意が必要です。GoogleのSearch Labで提供されている生成AI機能も、少なくとも現時点ではまだまだですよね。このような事情を知らずに、LLMに正確な事実を求めてしまう人がまだいるように思えます。
一方で、「表現」のアドバイザーとしてはなかなか便利で、たとえば、英文レターを書くときに「もう少しプロフェッショナルな感じに」とか「カジュアルな感じに」と指示すればいい感じの英文を出してくれます(もちろん、最終チェックは必要ですが)。本記事を書くときにも、弁理士業界ではよく使われる「期間徒過」がわかりにくいのではと思い、ChatGPTに聞いて見ると「期限超過」、「期日が過ぎる」などの代案を出してくれました。こういう用途では本当に頼りになります。