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新NISAで「米国株」も手数料無料に。松井証券の狙いとは

山口健太ITジャーナリスト
新NISAで米国株も手数料無料(松井証券のプレスリリースより、筆者撮影)

8月31日、松井証券は新NISAに向けた施策として、米国株を含む売買手数料の無料化や、投信残高ポイントの新サービスを発表しました。

証券会社にとって貴重な収入源であるはずの米国株の手数料まで無料化しても大丈夫なのか、松井証券に聞いてみました。

新NISA口座で米国株が売買手数料無料に

2024年に始まる新NISAでは、これまでのNISAと同様に、1つの金融機関でしか口座を開設することができない(移管は可能)ため、獲得競争が激化しています。

この新NISA口座において、松井証券は日本株、米国株、投資信託の売買手数料を無料化することを発表。一時的なキャンペーンではなく、恒久的な施策としています。

新NISA口座での取引は、米国株の売買手数料も無料に(松井証券のプレスリリースより)
新NISA口座での取引は、米国株の売買手数料も無料に(松井証券のプレスリリースより)

松井証券の場合、米国株の取引手数料は税込0.495%、上限は22ドルで、ネット証券としては他社と横並びの水準です。新NISA口座ではこれが無料になるというわけです。

米国株の取引手数料(松井証券のWebサイトより)
米国株の取引手数料(松井証券のWebサイトより)

注意したいのは、手数料が無料になるのは新NISA口座で取引した場合のみです。特定口座や一般口座での取引には通常通りの手数料がかかります。

楽天証券SBI証券の米国株はどうかというと、NISA口座では米国を含む海外ETFの「買付」手数料が無料となっており、買ったETFをそのまま持ち続けるのであれば、実質的に無料といえます。

しかし、新NISAでは売却しても翌年には「枠」が復活することも特徴の1つとなっています。ETFの売却や個別銘柄の売買を考えている人であれば、松井証券に優位性があるといえそうです。

取引手数料以外のコストとして、米国株投資では日本円とドルを交換する際の為替手数料(スプレッド)も考慮する必要があります。

松井証券では片道25銭となっているものの、ドルの買い付け時には手数料が無料となるプログラムを実施しています。キャンペーンなので終了する可能性はありますが、最近は為替手数料の競争も激化していることから、継続を期待したいところです。

ところで、証券会社にとって新NISAは旨みが少ないと言われる中で、貴重な収入源であるはずの米国株の手数料まで無料化して、本当に大丈夫なのでしょうか。

他のネット証券との違いとしては、松井証券では従来のNISA口座で米国株の取引に対応しておらず、新NISAから新たに対応する予定となっています。

その上で、収益化については「新NISA口座で興味を持っていただき、それ以外の商品も利用いただきたい」(広報)としています。また、新NISAを含めて総合口座数を2倍に増やしていくとの目標も掲げています。

どの証券会社でも、投資信託の積み立てから始めた人が徐々に他の商品にも目を向けるという傾向はあるようです。これを収益化につなげるというのが各社の基本戦略になっています。

松井証券では、その一例として「100円から自動売買できる」FXサービスを挙げています。新NISAの競争激化にあわせて、新NISA以外のサービスを拡充する動きも広がりそうです。

オルカンも対象「投信残高ポイント」始まる

投資信託にかかる費用である「信託報酬」の一部を、ポイントとして還元するサービスも発表しました。

これまでは信託報酬の高い投資信託を対象にポイント還元を実施していたものの、11月からは低コストのインデックスファンドも対象になります。

ポイント還元率は、つみたてNISAで人気の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」では0.0415%、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」では0.0326%となっています。

なお、還元できるのは販売会社(松井証券)が受け取る信託報酬が上限になるとのことから、信託報酬の引き下げがあった場合には、ポイント還元率が下がる可能性はあります。

収益面ではプラスにならず、いつまで継続できるのか気になるところですが、松井証券は「販売会社が受け取る信託報酬のほぼ全額を還元していくという方針で、思い切って強化を図った」(広報)と意気込みを語っています。

松井証券は、他社で人気のカード投信積立には対応していないとのことですが、継続的なポイント還元を重視する人にとっては新たな選択肢が登場したといえそうです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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