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【落合博満の視点vol.74】落合監督が最も高く評価した投手のタイプは

横尾弘一野球ジャーナリスト
大谷翔平は、打者として活躍しながら投手復帰の準備を着々と進めている。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 前回は、落合博満監督の視点で、プロ入りを目指すアマチュア選手に必要不可欠な考え方を示した。

【落合博満の視点vol.73】プロ入りを実現させるために必要不可欠な考え方とは

 では、落合博満監督はどんなタイプの投手を高く評価し、信頼してきたのか。

 長いペナントレースでは、投打にわたってチームの状態が低調になり、負けが込んでしまうこともあるものだ。そんな時、「しっかりしたエースや四番打者がいれば、大きな連敗は避けられる」と落合は言う。さらに、チーム状態を上向かせたり、好調を持続するために必要なのが、「マウンドに立ちたくて仕方がない投手」だという。

「チームや自分の状態がよくない時は、誰でも投げたくないだろう。長くプロで生活していると、そういう時にトレーナーに『ここが痛い』と訴えて休んでしまうヤツもいる。『あいつに無理させられた』と後から言われるのは嫌なので、私はそういう投手は好きなだけ休ませた。そんな時でも頼りになるのが、喜んでマウンドに立ってくれる投手なんだ」

 デニー友利や久本祐一は、予想外の試合展開で急遽、登板を命じた時でも嫌がらずに投げたという。もちろん、監督は選手全員を戦力と考え、各々に期待を寄せているのだが、敗戦処理や投手陣の疲労がピークと思われる時期でも、自分の状態を二の次にしてマウンドに立ってくれる投手は貴重な戦力なのだ。また、山本昌、中田賢一、吉見一起らは、チーム事情で先発登板の間隔を詰めても、しっかり調整して結果を残した。

勝負の世界では負けることより逃げることが悪

 千葉ロッテの佐々木朗希が、先発ローテーションを外れて久しい。吉井理人監督は、佐々木自身が「投げられる」と言うまで無理はさせない方針のようだが、どんな理由があれ、先発の軸になってほしい投手が自分本位にコンディションを調整するようでは、優勝を目指すチームの一員として信頼を得られなくなってしまうだろう。

 そんな佐々木が目指していると言われるメジャー・リーグの至宝・大谷翔平が、チームメイトだけでなくライバルたちからもリスペクトされているのは、投手と打者の二刀流をこなしながら、どちらも休まずにフル稼働してきたことだろう。そして、右ヒジ手術のリハビリ中で打者に専念している今季も、バットで三冠王を狙える成績を残しながら、投手として復帰する準備に余念がない。落合は、プロとしての心得をこう表現する。

「勝負の世界では、勝ち続けられる人間はいない。前年は10試合に投げて10勝0敗だった投手が、今年は同じ10試合に投げて3勝7敗になってしまうこともあるかもしれない。勝ち星を増やす努力は当たり前だけど、負けても10試合を投げ切ったことは次につながる。反対に、前年ほど状態がよくないと、半分の5試合しか投げなかった投手が『4勝1敗で勝ち越した』と主張しても、高く評価することはできない。むしろ、私なら残りの5試合を埋めてくれた投手を評価したい。勝負の世界の悪は、負けることより戦わずに逃げることだ」

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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