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【落合博満の視点vol.73】プロ入りを実現させるために必要不可欠な考え方とは

横尾弘一野球ジャーナリスト
プロ入りの夢を叶え、活躍するために必要不可欠なのは素質以上に考え方かもしれない。(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 夏の甲子園を目指す都道府県大会が次々と幕を開け、間もなく都市対抗野球大会も始まる。10月24日に実施されるドラフト会議に向け、選手たちは精一杯のプレーを披露し、プロ球団のスカウトはそれを具にチェックする。では、ドラフト候補と評される選手が指名を受けるためには何が必要なのか。落合博満は、プロ入りするだけでなく、その先に活躍する未来をイメージしてこう語る。

「高校生なら、誰よりも速いストレートを投げ込む、陸上短距離選手にも負けない脚力を持っている、いわゆる鉄砲肩……そんな突出したポテンシャルのみで指名するのもありだと思う。極論すれば、その能力があるなら野球をやっていなくてもいい。プロとは何かと問われれば、“他の誰にもないものを持っている人間の集まり”なのだから」

 では、そんな素質に恵まれていない選手はどうすればいいのか。

「素質に恵まれた選手よりも、野球が上手くなればいいでしょう」

 そのために、落合が不可欠だと説くのが「物事を様々な角度から見られる習慣づけ」だという。落合がよく使うのは「目の前に高い壁が現れた時、どうやって壁の向こう側へ行くか」というたとえだ。

 すぐに思いつくのは、腕力を鍛えてよじ登るとか、ジャンプ力を身につけるなど自身の能力を鍛える方法だろう。次は、梯子を調達する、ドリルで壁に穴を開けるといった道具も使う方法だ。

「意外に思いつかないのが、地面にトンネルを掘る、壁がなくなるまで左右に歩いていくといった方法だよね。壁は登るもの、突き破るものと決めつけなければ、壁に触れなくても向こう側に行ける」

 そうやって頭を柔らかくしていくと、自分の課題や弱点を克服する際に役立つのだという。

「バッティングの時、捕手寄りの腕が脇に落ちるのは致命的な悪癖だ。けれど、左打者の場合は、スイングの際に身体が開くと、脇に落ちた腕の通り道ができてバットはスムーズに出せる。つまり、2つの欠点がかけ合わさってプラスになる。だから、どちらかひとつを直してしまうと、欠点は2つからひとつに減ったのにバットが出なくなってしまうでしょう」

 投手なら、ストレートがシュート回転すると狙ったコースより甘く入り、痛打させる確率が高くなると指摘されている。落合は「シュート回転を直そうとするより、右打者の内角限定で使えば武器になるんじゃないか」と語る。

 投球や打撃のフォームを変えようとしても、子供の頃から体が覚えている動きはそう簡単に変えられるものではない。また、変えられたとしても、それによって他のよかった部分まで変わってしまう可能性もあるはずだ。要は、頭で理想的な動作を理解しつつ、現状の自分を最大限に生かしながら、いかに理想に近づけていくか。その際には、何事も「こうしなければいけない」という固定概念を捨て、自分のプレーを様々な角度から見たり、考えることが得策だという。

「大学、社会人になると素質のみでは評価されないけれど、経験という武器は手に入れている。それに、長所があるから上のステージで野球を続けられているのだから、それをどうやって伸ばすかを考えるべきでしょう」

 足は速くならなくても、走塁技術はいくらでも上手くなる。ストレートが150キロに届かなくても、針の穴を通すようなコントロールは身につけられる。だから、野球は面白いのだ。野球人生を決める夏、ドラフト候補には「いい結果を残そう」や「目立つプレーを見せよう」と漠然と取り組むのではなく、長所を存分に見せつけてもらいたい。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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