Yahoo!ニュース

新海誠監督『すずめの戸締まり』に主演の原菜乃華 「あんなにカッコ良く動きたいと思って声を入れました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 ヘア&メイク/馬場麻子 スタイリング/山田安莉沙

『君の名は。』や『天気の子』を大ヒットさせた新海誠監督の最新アニメ映画『すずめの戸締まり』が公開される。1700人を超えるオーディションからヒロインの声優に選ばれたのは原菜乃華。『真犯人フラグ』や『ナンバMG5』など数々の作品に出演してきた19歳だが、アニメ好きではありつつ声優には初挑戦だった。大役への取り組みと、慎重派という自身と役との相違を聞いた。

オーディションは受からないのが基本でした(笑)

――『すずめの戸締まり』の鈴芽役は1700人以上が参加のオーディションで選ばれました。今までもオーディションの勝率は高かったんですか?

 全然受からない時期もあれば、結構調子良く受かる時期もありました。1日2コ受けて、両方とも受かったり。でも基本、オーディションは受からないものです(笑)。だから、落ちてもそんなにヘコみません。

――いいところまで行ったのに、絶対やりたかったのに……と涙したことはないですか?

 ありますけど、落ちるときはそういうものだと思うしかないですからね。受かったか落ちたかより、うまくできなくて引きずることが多いです。

――今回のオーディションは「楽しかった」とコメントされています。

 審査の皆さんがすごく誉めてくださったので(笑)。「めちゃくちゃ良かったです」とスタッフさんを紹介していただいて、「本当に声優は初めて?」とか。だからこそ、「いや、きっとみんなにこう言ってくれるんだ」と浮かれないようにしてました。

キャラクターの口に合わせて話す練習を繰り返して

――声優はオーディションを受けるのも初めてだったんですか?

 たぶん小さい頃に受けたことはあったと思います。

――今回はどんな準備をして臨みました?

 いただいたコンテをひたすら見て、台本にしゃべり出す秒数を書き込みました。課題のシーンの動画の音を消して、キャラクターの口に合わせて台詞を話す練習を、何度も何度も繰り返して。アフレコ自体が初めてだったので、スムーズにできるようにしました。

――ご自身がアニメ好きなことは活きました?

 そうかもしれません。息のお芝居とか、すごく難しいんですけど、聴き馴染みはあったので。感覚的に何もわからないことはなくて、アニメを好きで観ていなかったら、もっとやりにくかったと思います。

勢いでやったら面白かったみたいです(笑)

『すずめの戸締まり』の主人公は九州の町で暮らす17歳の少女・鈴芽。災いが訪れる扉に鍵をかける“閉じ師”の青年・草太と出会うが、謎の猫・ダイジンによって、草太は小さな椅子に姿を変えられてしまう。ダイジンを追う鈴芽と草太の前で、扉が次々と開き始めて……。新海監督は原の抜擢について「感情と声の距離が近いのが稀有な才能。分厚い雲が吹き払われた瞬間のような眩しく鮮やかな感情を鈴芽に与えてくれる」と評している。

――オーディションの最後に「自由にやってみて」と言われて、自分なりのお芝居をした、ということですが。

 新海監督に「ちょっとポップに、クスッと笑える感じにしてほしい」と言われて、深く考えずに勢いでやってみました。それが面白いと決め手になったと聞いたので、思い切ってやって良かったです。

――それは映画にあるシーンだったんですか?

 草太さんと初めて会ってから探すシーンです。私が「イケメンの人、いますかー?」と言ったのが、面白かったらしいです(笑)。

台詞は言葉よりスピードを覚えました

――菜乃華さんはこれまで、『罪の声』の撮影前は友だちと連絡を断って1人で籠っていたとか、役作りを念入りにしていたそうですが、アニメの鈴芽役でも同じでした?

 今回は初めての声優で右も左もわからない状況だったので、固めていって現場でいろいろ指導されたとき、柔軟に対応できなかったら良くないなと思って。どこまでやっていって、どこからやらないか、あんばいは難しかったです。実写より事前に決めていくことは少なかったです。

――準備でしたのはどんなことですか?

 技術の問題が何より心配だったので、とにかく台本を読んで声を当てる練習をしました。台詞自体は台本を見ながら録るので覚えなくても大丈夫だから、台詞のスピードを暗記したんです。ここからここまでの画の間に言い切らないといけない、というのがあるので、ゆっくりすぎても速すぎてもダメ。新海監督が台詞を当てられた映像を事前にいただいて、まずそのスピードを覚えるのに相当時間が掛かりました。

――なるほど。難しそうですね。

 声の台本って、下の部分に台詞、上の部分に情景や人物の心情が書かれているんです。しゃべり出すタイミングの秒数を書き込んだり、読んで気になった部分をマークしました。あと、監督が書かれた小説版もデータでいただいて、読み込みました。そこにすべての答えが出ていたので。

――技術面を押さえたうえで、感情表現もしていくわけですよね?

 そうですね。技術面で大変なことが多いから、そこでつまづくと気を取られると思って。現場で困らないように事前にできることは全部しておこう、という感じでした。

東宝提供
東宝提供

動くシーンではスタジオで跳ねて心拍数を上げたり

――スタッフさんに聞いたのが、菜乃華さんはごはんをたくさん食べてアフレコに臨んでいたとか。

 毎回スタジオに、おいしいものをたくさん用意してくださったので(笑)。朝は食べずに行って、お腹が鳴って音NGを出さないように、お米やおにぎりをたくさん食べていました。休憩に入るたびに、お腹に溜まるものを何かしら口にしていて。

――声優さんによっては、演じるキャラクターっぽい服で行く人もいるそうですが。

 服も音が入らないようにしないといけなくて、基本Tシャツにズボンでした。靴も音が鳴らないものを履いて、リラックスして動けるような服装で毎回行ってました。

――実写だったらアクション的な場面も多いですからね。観覧車周りだったり、空から落ちたり。

 そういうシーンの前は、その場でピョンピョンしたり駆け足をして、心拍数を上げてから挑みました。録るのは声だけでも、動いたほうがやりやすかったので、扉を閉めるシーンでは自分の手も回しています。落ちるシーンでは膝の力を抜いてハッとやったり。そういう工夫はしていました。

東宝提供
東宝提供

自分が心配性なので行動力が羨ましいです

――菜乃華さんは慎重派だそうですが、鈴芽は立入禁止の柵を飛び越えて入ったりもしていました。

 私はそういうことはしません。鈴芽ちゃんはよく走る子だなと思いました。アクションが多いという意味でもそうですし、周りを見ずに突っ走るところがあって。私は心配性なので、1回考えてからでないと動けないんです。鈴芽ちゃんの行動力は羨ましいです。

――声は作る感じではなかったですか?

 鈴芽ちゃんっぽく、というのを意識はしました。私はもともと『君の名は。』がすごく好きで、上白石萌音さんのような高くてきれいな声に憧れがあって。たぶん自然と寄せようとしてしまっていました。アフレコ初日には声がちょっと高すぎて、息の量も多かったから「自分がしゃべりやすいトーンにしてください」と言われたんです。でも、なかなか戻せなくて苦戦しました。

――自分がしゃべりやすいようにするのが難しかったと。

 気づくと自分が出しやすい声より高くなって、「下げて、下げて」というのは気をつけていました。

――予告編にもある「お返しします」は凛々しい感じでした。

 そこは「カッコ良く」という演出が、新海監督からありました。草太さん役の松村(北斗)さんの「お返し申す」が先にアフレコされていて、聴くとキメ台詞っぽくていいなと。私も草太さんに似せて、キメるつもりで言いました。

自分が旅行するなら計画を全部立ててから

――『すずめの戸締まり』は鈴芽たちがダイジンを追って、九州から四国、関西、東京と旅するロードムービーの側面があります。菜乃華さんは旅の思い出はありますか?

 最近だと秩父に家族旅行に行って、長瀞で人生初のラフティングをしたのがスリリングでした。私は最初そんなに乗り気でなかったんですけど、やってみたらすごく楽しくて。次はもっと激流のところでやりたいと思いました。

――何日か掛けて遠出をしたりは?

 ないですね。だいぶ前に九州に行ったときも、台風が来てしまって。翌々日に朝の生放送があったので、「飛行機が飛ばなくなったら怖いね」と、急きょ予定を切り上げて帰ったことがありました。

――小さい頃から仕事をしていましたからね。

 だから、なかなか行けなかったのと、私はインドアなので。外に出掛けるより、家でゴロゴロしていたくて(笑)、あまり旅行をしたいとは思わないんです。

――鈴芽のように急にフェリーに乗ったりはしませんか?

 私は計画を立てて行きたいです。どこのお店の何がおいしいとか、どこをどう回ったら効率がいいとか、全部考えておきたい派です。

両親の結婚式のクマの人形を今も飾ってます

――鈴芽のように繰り返し見る夢はありますか?

 それはないですけど、怖かった夢をよく覚えています。私はジェットコースターが嫌いで、夢の中で乗って落ちていたんです。重力も感じました。落ちている最中に目が覚めたら、冷や汗でビッショリ。体中にすごく力が入っていて、もう二度と見たくないと思ったのを覚えています。

――じゃあ、鈴芽を実写でやっていたら、高いところでのアクションシーンは大変だったかもしれませんね。

 私は運動音痴なので。鈴芽は瞬発力があってカッコ良く動くので、こんなふうにできたら楽しいだろうなと思いながら、アフレコしていました。

――あと、鈴芽にとっての椅子のように、小さい頃から大切に持っているものはありますか?

 父と母の結婚式のとき、母の作ったウェルカムベアと、小さい頃からずっと一緒です。昔はどこに行くにも持っていって、そのクマの首に付いているリボンを触りながらでないと眠れなかったんです。いまだに大切にお部屋に飾っています。白いクマだったのが、灰色になりました(笑)。

間宮祥太郎さんからのお祝いをスクショしました

――新海監督の最新作で主演すると決まってから、周りでも反響は感じました?

 他の現場には入ってなかったんですけど、地元の友だちからはたくさん連絡が来ました。あと、『ナンバMG5』で共演させてもらった事務所の先輩の間宮祥太郎さんが、ストーリーで「吟子~」と役名で祝ってくださって。嬉しくてスクショしました(笑)。

――業界でのアニメ好き仲間とか、仲良い友だちはいますか?

 休みの日に遊ぶような友だちはまったくいません(笑)。人見知りなので共演しても、短い期間でみんながどうやって、お友だちになっているのかわからなくて。

――『すずめの戸締まり』でアフレコをしていて、途中では難しくて苦しいときもありましたか?

 全部大変でしたけど、特に最初のほうは全然できないというか、これでいいのかどうかもわからない状態でした。それがすごくしんどくて、家に帰ってヘコむことは多かったです。

力が抜けて自分の声が好きになれました

――録っているうちに変わったところも?

 もともと自分の声がそんなに好きでなくて。聴き馴染みがないから、気持ち悪く感じてしまっていました。

――一般人だと自分の声を聴いて違和感を持つことは多いですが、女優をやっていたら、自分の声はよく聴いていたのでは?

 そうなんですけど、自分の声だけをしっかり聴くことはあまりなくて。だから、客観的にはどう聞こえるかわからなかったんです。何度もアフレコをしているうちに少しずつ、どう使えばどんな声が出るのかわかってきて、好きになれました。

――最初に懸念していた技術面はクリアできたわけですね。

 自分ではわかりません。でも、新海監督に「うまくなったね」と言ってもらえました。緊張はしなくなってきて、余計な力は入らなくなったと思います。初めは毎回、その日の一発目のシーンが調子良くなかったのが、調子が出るまでが早くなったのは感じました。

――今後、実写の演技で活かせそうなところも?

 声の使い方は前よりわかるようになって、自分の声を客観的に聞けるようになったのは大きいと思います。普段もアニメを観ていて、「こういうお芝居は素敵だな。どこかで使えないかな」と考えることもあるので、活かせる部分はある気がします。

人生初の大吉も引きました(笑)

――『すずめの戸締まり』が公開されたら、自分でも映画館に観に行くんですか?

 行きたいです! 1回目はたぶん不安すぎて、ちゃんと観られないと思うので、何回も観ないと。地元に、いつも行っていて『君の名は。』も観た映画館があるので、『すずめの戸締まり』もそこで観られたら感動ですね。

――年内は他に、もうひと盛り上がりはありますか?

 友だちと「忘年会ができたらいいよね」と話はしています。みんなで集まって、お菓子を食べながら、近況報告をしたいねと。

――菜乃華さんは良い報告がたくさんできますね。

 本当に今年はすごく良い年になっています。少し前に友だちと鎌倉に遊びに行ったときも、鶴岡八幡宮で人生で初の大吉を引きました(笑)! 

――答え合わせ的な感じになりましたか。

 凶は今まで2回引いたことがありましたけど、大吉はなかったので。まさに大吉な1年が過ごせて良かったなと思います。

撮影/松下茜

Profile

原菜乃華(はら・なのか)

2003年8月26日生まれ、東京都出身。

2009年に子役としてデビューし、映画『地獄でなぜ悪い』やドラマ『朝が来る』で注目される。主な出演作はドラマ『死との約束』、『ナイト・ドクター』、『真犯人フラグ』、『ナンバMG5』、映画『3月のライオン』、『はらはらなのか。』、『罪の声』、『胸が鳴るのは君のせい』など。11月11日公開のアニメ映画『すずめの戸締まり』で主演。

『すずめの戸締まり』

原作・脚本・監督/新海誠

11月11日より全国東宝系で公開

公式HP

(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事