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今年の干支は寅。野球チームのニックネームとしておなじみの「タイガース」

阿佐智ベースボールジャーナリスト
水都・大阪の代名詞ともなっている阪神タイガースの名は世界的にも知られている(写真:アフロ)

 2022年が明けた。今年は寅年。昨年の前半戦は独走かと思われながら、まさかのV逸となった阪神タイガースのファンは干支にあやかって「今年こそ優勝」と鼻息も荒いだろう。1935年の球団発足以来87年の歴史を誇る阪神は、1リーグ時代を含め9回のリーグ優勝を果たしているが、寅年の優勝は、1リーグ2シーズン制時代に春のシーズンを制した1938年と2リーグ分裂後初優勝を遂げた1962年の2度しかない。戦力も充実している今年こそトラキチの期待にこたえて欲しいものだ。

 ところで、「タイガース」というニックネームは、いかにも強そうなイメージがあり、野球チームには世界的に採用されている。

阪神とも縁があるデトロイト・タイガース

まさに「虎の穴」。デトロイト・タイガースの本拠、コメリカパーク
まさに「虎の穴」。デトロイト・タイガースの本拠、コメリカパーク

 「タイガース」の元祖と言えば、言わずもがなメジャーリーグのデトロイト・タイガースだ。チームの創設は1894年というから、日本ではまだ明治時代。ちょうど日清戦争の年に当たる。町の2代目のプロ野球チームとして発足し、ベネット・パークに本拠を置いた1896年頃には「タイガース」の愛称で呼ばれるようになったという。チームは最初、マイナーのウエスタンリーグに所属していたが、このリーグがその名をアメリカンリーグと改め、1901年にメジャーリーグ宣言を行うと、タイガースもメジャー球団として現在に連なる歴史を紡いでいくことになった。本拠ベネット・パークはやがてその名をタイガースタジアムと変え、現在の本拠・コメリカパーク建設までの87年間、タイガースを見つめ続けていた。

デトロイト・タイガースの旧本拠、タイガースタジアム
デトロイト・タイガースの旧本拠、タイガースタジアム

 「タイガース」の愛称の由来は、チーム発足当時に選手たちが履いていたストッキングに紺とオレンジの縞模様が入っていたことに由来する。日本のタイガースファンからは、ライバルである巨人のチームカラーとして蛇蝎のごとく嫌われているオレンジだが、日本以外では虎の縞模様は黒とオレンジとみなされているのだ。

 さらに言えば、阪神球団が「タイガース」をニックネームに採用したのは、このデトロイトからの借用である。阪神球団が発足した昭和初期、その本拠(正確には本拠地球場は兵庫県にある甲子園球場だが)、大阪は「大大阪」と呼ばれ、首都東京を凌ぐ日本一の工業都市だった。そこで、自動車産業で栄え、「モータウン」の異名をもっていたアメリカ随一の工業都市・デトロイトにあやかって「タイガース」を名乗ったのだ。

 第2次大戦後に、メジャーリーグがファームとしてマイナーリーグ球団を傘下に収めていく中、伝統的にこの球団はマイナーチームも「タイガース」を名乗ることが多かったのだが、近年のマイナーリーグの再編もあり、現在は、親球団と同じユニフォームでプレーするルーキー級を除けば、フロリダのキャンプ地を本拠とするA級のレイクランド・フライングタイガースのみが、その名に「タイガース」を含んでいる。このチームもかつては、シンプルに「タイガース」のみをニックネームにしていた。

 ちなみに、デトロイトの町のアメリカンフットボールチームの名は野球チームを意識してなのか「ライオンズ」である。メジャー、マイナー、独立リーグ含めてこのニックネームを名乗るチームは現在のところない。自然界と同じく獅子も虎もアメリカ球界では「絶滅危惧種」のようだ。

ラテンアメリカでは人気の「タイガース」

 一方、ラテンアメリカ球界では、「タイガース」、スペイン語でいう「ティグレス」はポピュラーなニックネームで、ほとんどのリーグに存在する。

虎のマークが描かれたキンタナロー・タイガースのヘルメットだが、チームカラーはオレンジだ
虎のマークが描かれたキンタナロー・タイガースのヘルメットだが、チームカラーはオレンジだ

 多くの国、地域のリーグが、北米球界のオフに実施するウィンターリーグとして運営されている中、独自のサマーリーグを持ち、今やラテン球界の中心的存在となっているメキシコ。創設97年目を迎えるメキシカンリーグで、歴代2位の12回の優勝を誇るキンタナロー・タイガースは、本拠を首都メキシコシティに置いていた1966年春に前年のメキシコチャンピオンとして来日し、日本の球団と13試合のオープン戦を行っているが、全敗で帰国している。この時、甲子園で阪神との「日墨虎対決」が実現したが、阪神は4対1でメキシコシティ・タイガースを下している。ちなみにデトロイト・タイガースは単独チームでの来日経験はないので、この試合が、日本で行われた唯一の国際「虎」対決となる。

 メキシコには、夏のトップリーグ、メキシカンリーグの他、ウィンターリーグのメキシカンパシフィックリーグ、それに夏冬ともにマイナーリーグがあるが、現在のところ、「タイガース」は、メキシカンリーグのチーム以外にはない(但し、ルーキー級のアカデミーリーグには、他球団との混成チームがある)。

 現在、シーズンの佳境を迎えているウィンターリーグは、メキシコの他、ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコ、パナマ、コロンビア、ニカラグア、グアテマラ、キューバにあるが、このうち、ドミニカとベネズエラ、コロンビア、キューバに「タイガース」は存在する。

青が基調のリセイ・タイガースのユニフォーム
青が基調のリセイ・タイガースのユニフォーム

 その中でも、有名なのは、ドミニカの名門、首都サントドミンゴに本拠を置くリセイ・タイガースだ。日本では、タイガースではなくジャイアンツがより伝統をもっているが、この国では、1907年創設でリーグ優勝22回を誇るタイガースが「最古の球団」。地方都市サンフランシスコ・デ・マコリスに本拠を置くジャイアンツは、のちにリーグ加盟した「新参者」だ。しかし、このタイガースは「虎色」が薄く、ファンは通常チームのことを「リセイ」と呼ぶ。おまけにチームカラーは青。青地にリセイの「L」の字が刺繍された帽子は、なんだかかつての野球漫画、「がんばれ!!タブチくん!!」の西武ライオンズを連想させる。

赤いユニフォームのカルタヘナ・タイガース
赤いユニフォームのカルタヘナ・タイガース

 コロンビアのカルタヘナ・タイガースもそうで、チームカラーはなぜか赤。但しこちらはチームロゴに虎が大きく描かれている。ベネズエラのアラグア・タイガースも同じく「虎」を前面に押し出してはいるものの、チームカラーは紺と赤である。唯一、キューバのシエゴデアビラ・タイガースだけがオレンジ色をチームカラーにしている。

キューバの「トラキチ」もなかなか熱狂的だ
キューバの「トラキチ」もなかなか熱狂的だ

アジアでもポピュラーな「タイガース」

 アジア第二のパワーハウス韓国には10球団あるが、リーグ創設メンバーで優勝11回を誇る名門がキア・タイガースだ。かつて親会社がヘテ製菓だった黄金時代には、日本でもプレーすることになるソン・ドンヨル、イ・ジョンボム(ともに元中日)を輩出している。2009年の韓国シリーズ優勝時には、国際シリーズ、日韓クラブチャンピオンシップに出場しているが、この年の日本のチャンピオンは、阪神のライバル、巨人。日韓の「虎対決」はならなかった。

 台湾にも「タイガース」はあった。プロリーグ・CPBLは1990年に開始されたが、その創設メンバーに三商タイガースがあった。このチームでは、草創期のダイエーホークスのサブマリン投手、足利豊や2001年にヤクルトに在籍したアメリカ人投手、ジョナサン・ハーストらがプレーしたが、台湾球界を揺るがせた八百長問題や親会社の経営難などから10シーズンで球団消滅に追い込まれている。ちなみにこのチームも黄色を使用していたが、メインチームカラーは青だった。

中国の「猛虎軍」もチームカラーはオレンジだ
中国の「猛虎軍」もチームカラーはオレンジだ

 2008年の北京五輪に備えて2002年に国内リーグ・CBLを発足させた中国にも「タイガース」はある。CBL優勝5回を誇る北京タイガースがそれだ。このチームは黄色をチームカラーに採用していたが、2019年にCBLが本格的なプロリーグ・CNBLに改組されると、チームのロゴを一新し、オレンジを採用することになった。新リーグは発足に当たってメジャーリーグの支援を受けており、そのせいで、「トラ色」がアメリカ流に改められたようだ。

昨年のオリンピックには、2017年WBCで突如として国際野球シーンに現れたイスラエルが出場したが、この西アジアの国にも2007年の1シーズンだけプロリーグが存在した。このリーグにもネタニア・タイガースというチームがあったが、このチームのチームカラーもオレンジだった。

虎の足跡をモチーフ化したロゴをキャップに配していたネタニア・タイガース
虎の足跡をモチーフ化したロゴをキャップに配していたネタニア・タイガース

 寅年の今年、各国の「猛虎軍」はどんな成績をおさめるのだろうか。

(文中の写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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